第9話 ここに配信を取られる配信者1人
「――騒がしいと思ったら、あなた誰?」
頭上から降ってきた鈴を転がすような声に、晴真は驚きながら飲んでいた水を吹き出した。
目の前には、白銀の装飾が施された美しい軽甲冑に身を包み、片手剣を持っている一人の少女が立っていた。
綺麗な顔立ちをしているが、どこか呆れたような視線で晴真を見下ろしている。
「あ、いや……俺? 俺は晴真! 見ての通り、これからダンジョンを制覇する超絶イケメン冒険者配信者様だよ!」
濡れた顔のまま、バチッと決めポーズを作る晴真。
しかし少女は微塵も揺るがず、ハッと小さく息を吐いた。
「……変な顔。というか、そんなに濡れた顔でドヤ顔されても困るんですけど」
『バッサリ切られて草』
『初対面の女子に「変な顔」言われる配信者w』
『でも装備だけはフリールコートで強そうに見えるのじわじわくる』
「変な顔って言うな! これでも今、同接が右肩上がりでバズりかけてる凄腕配信者なんだぞ! ほら見ろ!」
晴真は誇らしげに配信用のステータス画面を少女に見せつけた。
少女は画面に表示された数値――【同接:125人】をチラリと見ると、一瞬だけ言葉に詰まり、フッと引きつった苦笑いを浮かべた。
「……あ、うん。すごいね、100人も見てくれてて……」
「なんだよその哀れみの目は! ……まあいいや。そんなに言うなら俺と一緒に配信するか?」
減るもんでもないしと、晴真は軽い冗談のつもりでニヤニヤしながら言ってみた。
「いいね、やろう」
「まあそうだよな、こんな少ない同接じゃ断られて当然……今なんて言った?」
速攻の即答に、晴真の思考がフリーズした。
『ええええええええ!?』
『即答!? マジで言ってる!?』
『ハルマ、奇跡起きてるぞww』
「え、マジで言ってる? 」
「うん。私もずっと1人で退屈していたところだし。」
「え、えなんか初めてナンパ成功した気分...」
語尾をゴニョゴニョと濁しながら何かを言うハルマ
「そういえば自己紹介がまだでしたね」
少女はカメラの方へ向き直ると、整った容姿をカメラに映しながら静かに名乗った。
「こんにちは。……『白銀の天使』こと、リリスです」
その瞬間、コメント欄が過去最大の爆速で流れ始めた!
『!?!?!?!?!?』
『嘘だろ!? リリスってあのリリス!?』
『登録者100万人越えの超大手配信者リリスかよ!!』
『2ヶ月前に高層ダンジョンで行方不明になったって大ニュースになってたヤツじゃん!!』
「え? え? なに? 有名な人なの……!?」
パニックになる晴真をよそに、コメ欄は過去類を見ないほど賑わっていた。
コメントを見て優しい笑みを浮かべるリリスと騒がしいコメ欄をよそにハルマはまだ困惑していた。
そこにこんなコメントがあった
『なんか後ろから来てね?』
すっかりリリスの独壇場となっていて、退屈だったハルマはそれを見逃さなかった。
振り返ると、現れたのは5層の強力なモンスター『岩石ゴーレム』だ。
「うわっ! 5層の敵だ! マジでやばいって!」
晴真がダガーを構えて震え上がった瞬間、隣にいたリリスが静かに一歩踏み出した。
「騒がしいわね……少し静かにして」
リリスが腰の細身の片手剣をサッと抜いた瞬間――視界が真っ白な閃光に包まれた。
目にも留まらぬ速度で放たれた数多の刺突。
ガコンッ!と重い音を立て、体長3メートル以上ある岩石ゴーレムが一瞬で幾つもの破片に砕け散り、光となって消滅した。
「…………は?」
強化ダガーでサソリ一匹に苦戦していた晴真は、目の前の光景に口をポカンと開けることしかできなかった。
「……よし、これで静かになったね。じゃあ晴真くん、これからよろしくね?」
可憐に微笑む最強の失踪配信者と、あまりの次元の違いに開いた口が塞がらない金髪バカ。
予想外すぎる最強の相棒を得て、晴真のダンジョン配信はとんでもない方向へ動き出すのだった。




