54 2人の母
*アリシア視点*
「お母様、この服似合う?」
「似合ってるわ」
服の試着をして嬉しそうに笑っているのは、私の愛する娘のナディーヌ。私と同じピンク色の瞳で、髪もピンク色。生まれた時は『ブライアンの色が無いのが残念だわ』と言った私に、『綺麗なアリシアの色を持って生まれてくれて、俺はとても嬉しいよ』と言って、ナディーヌを抱き上げたブライアンは、本当に嬉しそうな顔をしていた。
ブライアンが死んでしまって、辛い事もたくさんあったけど、頑張ってこれたのはナディーヌが居たから。
事故に遭ったとは言え、記憶を失って8年もの間独りにしてしまった。それでも、カイリーさんのお陰でナディーヌと再会する事ができた。お父様もナディーヌを愛してくれている。
ーもう二度と、ナディーヌに辛い思いなんてさせないー
と思っているのに───
「お母様?私の話を聞いてる?」
「え?ええ、ちゃんと聞いているわ」
「それじゃあ、これとさっきの服を買って良い?」
「勿論よ」
「やったー!ありがとう!」
ナディーヌは『アラール様とのお茶会の為に』と、先月もお父様に新しい服をオーダーメイドで作ってもらったばかりだ。
ーナディーヌは、こんなにも物を欲しがる子だった?ー
お気に入りのタオルだからと、ボロボロになっても手放さなかったナディーヌ。私の記憶の中のナディーヌと、目の前に居るナディーヌが違う子の様に見える。でも、それは仕方の無い事だと分かっている。8年もあれば、人は簡単に変わってしまうから。
『違う!お母さんこそ、私をよく見て!』
最近、よくあの子の言葉を思い出す。淡い水色の髪と淡い紫色の瞳の女の子。私の色を持っていない女の子だった。私に伸ばして来た手を払い除けた時の顔は、今にも泣きそうだった。それでも、あの時はそんな顔でさえ腹立たしく思っていたのに、何故か、今更、気になって仕方無い。
ーあの時伸ばされた手を握ってあげていたら、あの子は笑ってくれたのかしら?ー
「お母様、次は美味しいデザートを食べに行きましょう!」
「そうね………」
嬉しそうに笑っているナディーヌ。私の愛する娘なのに、時々ナディーヌの顔が分からなくなるのは───
どうしてなのか、分からない
******
「2週間のお休み?」
「体調が落ち着いて来たから、今からでも行こうと思って」
ナディーヌとの買い物を終えて帰って来ると、カイリーから2週間程休みが欲しいと言われた。表向き、カイリーはナディーヌ付きの侍女だから。
話を聞くと、亡くなったカイリーの本当の娘のお墓参りに行きたいとの事だった。
「それは勿論良いけど、そのお墓はピサンテに?もしピサンテなら、立ち入りは禁止されているから、行っても……」
「ピサンテじゃなくて、あの子の好きだった土地に眠らせてるのよ」
「そうなのね……ゆっくり会いに行ってあげて」
「ありがとう」
娘に会いに行くと言われれば、私がそれを拒む理由はない。その土地が何処なのかも訊かずに、カイリーに許可を出すと、その日から3日後に付き人も護衛も要らないと言われた為、1人で行ってしまった。
『平民の私が護衛や付き人なんて連れて行ったら、ジェイミーが驚くわ』
ーカイリーって、こんな謙虚な人だった?ー
そう言えば、ジェイミーもピンク色の髪と瞳じゃなかった?だから、カイリーは同じ色のナディーヌを我が子のように育ててくれた?未だに曖昧な記憶と失われたままの記憶があって混乱する。記憶が戻れば、この不安な気持ちも無くなるのに。それと──
あの子の事も気にならなくなるのかしら?
*カイリー視点*
疲れると目が痛み、今では左目が殆ど見えていない。原因不明の病気かと思っていたけど、そうではなかった。
ナディーヌ
あの子が生きていた。その上、私が目に掛けた呪術に気付いて解呪までしている。まだ完全に解呪できたわけじゃない。それでも、完全に解呪されるまでになんとかしなければ、全て私の元に返って来てしまう。探しても見付からなかったけど、まさか、デミトリア辺境伯に護られていたとは思わなかった。そもそも、どうやって生き延びたのか。兎に角、このままでは私だけじゃなく、ジェイミーの存在が危うくなってしまう。
「ナディーヌ…ただの魔力無しの役立たずの子のくせに」
ブライアンから騎士になる夢を奪った元凶。その存在自体が罪。だから、今度こそ私がこの手で止めを刺してあげるわ。そして、最終的には公爵家はジェイミーのものにする。アリシアからも、全てを奪ってやる。アリシアは、ブライアンの全てを奪った上に、ブライアンを見殺しにしたから。ブライアンは、流行り病なんかで死ぬような人じゃなかった。
「今のうちに、優雅な生活を楽しんでいれば良いわ」
そうして、私は1人でデミトリア辺境地に向かった。




