40 カイリー①
*カイリー視点*
「────っ!」
ガシャンッ
「「カイリーさん!大丈夫!?」」
「あ……ごめんなさい。大丈夫よ……」
ーまただー
ここはパルティアーズ邸の庭にあるガゼボで、私はナディーヌとアリシアと3人でティータイムを過ごしていた。流石は筆頭公爵家の庭で、色とりどりの花が植えられていて圧巻だ。その庭を眺めながら飲む紅茶は、私の好みに合わせてブレンドされた物で、並べられた焼き菓子は、3人それぞれの好きな物ばかり。穏やかな時間を過ごしていたのに。何故か、最近時々、目の奥が痛みに襲われる事がある。今もその痛みに襲われ、持っていたティーカップを落として壊してしまった。壊してしまっても、誰も私を叱る事はない。アリシアさえも私を心配している。
「怪我はしてない?火傷もしてない?」
「大丈夫よ。でも、服が濡れてしまったから、私は部屋に戻るわ」
「あ、それじゃあ、私が付き添います」
「そうね、ナディーヌ、お願いするわ」
と、私はナディーヌと一緒に部屋に戻る事にした。
「おか──カイリーさん、大丈夫?」
「大丈夫よ。ゴミが入ったのか、少し目が痛くなっただけで、今はもう何ともないから。ただ、誰が聞いているか分からないんだから、呼び名は気を付けなさい」
「ご…ごめんなさい」
ナディーヌは気を抜くとすぐ、私の事を『お母さん』と呼びかけてしまう。ナディーヌのお母さんは、アリシアだ。
「本当に、パルティアーズは凄いわね」
「お祖父様なんて、私がお願いすると何でも買ってくれるの!このピアスも可愛いでしょう?」
ナディーヌが耳に着けているのは、ピンクダイヤモンドのピアス。決して安くはないし、簡単に手に入る物でもない。それが、パルティアーズでは当たり前のように簡単に手に入るのだ。
ー男爵家とは全く違うー
私は男爵家の長女として生まれ、一応は貴族の令嬢だった。男爵家とは言え、私の容姿はそれなりに整っていたから、幼い頃から男の子達からよく好意を向けられていた。将来、高位貴族に嫁入りするのも夢じゃないと思っていた。
ノブレス・オブリージュとして、最低月に1、2回孤児院に行き寄付をしたり、食事を提供したりしていた。その孤児院に、私よりも少し年上の目の惹かれる男の子が居た。
ブライアン
彼は面倒見が良くて、誰にでも優しかった。
『お嬢様、いつもありがとうございます』
と、お礼を言う時の笑顔に、いつもドキドキさせられていた。そんなブライアンは、将来は騎士になる事が夢なんだと言っていた。そして、その夢を叶える為に、成人すれば王都に行くとも言っていた。
ーブライアンと離れるなんて…嫌だ!ブライアンは、私の側に──私の騎士にさせれば良い!ー
貴族の私が言えば拒否する事はできない。必ず、私の騎士に!
その願いが叶う事はなかった。
ブライアンが成人して王都に行ってしまって直ぐの事だった。
父が始めた事業が失敗し多額の借金を背負い、借金を返済し切る事ができずに男爵位を奪爵されてしまい、私達は平民落ちしてしまったのだ。
更には、両親は私が成人すると娼館に私を売ったのだ。無駄に容姿が整っていたから、かなりの金額で売れたようで、両親は借金の返済に苦労する事がなくなり、私に『ありがとう』と言いながら去って行ったのだ。
ただ、不幸中の幸いと言うべきか、“容姿の整った元貴族の令嬢”と言う事で、すぐに客を取らされる事は無く、ただ客とお酒を飲みながらゲームをすると言う事をさせられるだけだった。
初めての客は、貴族の三男で優しい人だった。それが、せめてもの救いだった。
そして、2人目の客だと通された先には、嗜虐心が強いと噂されている50を過ぎた子爵がいた。
ー無理よ……嫌だ!ー
そんな私の願いが届いたのか、微々たる程の魔力しかなかった筈なのに、体の中から魔力が溢れて、その溢れた魔力が子爵を包み込んで───気が付けば、子爵は気を失って倒れていた。
ー逃げないとー
それからは必死で逃げた。娼館の追っ手に捕まったりすると、次はどんな客を取らされるか分からない。
子爵の追っ手に捕まれば、貴族に手を出した事で処罰を受けるか、子爵の玩具になるかだ。
なりふり構わず必死に走り続けた。裸足で血が出ていても気にする事なく走り続けた。明るい日中は身を潜めて、その間、自分がどんな魔法が使えるのか、色々と試したりした。その結果、自分は闇属性だと確信した。
“魔力持ち”とは言えない程の魔力だったけど、魔法には興味があって、色んな魔法の本を読んで、その魔法の中で1番興味をひかれたのが“闇魔法”だった。
闇魔法には禁忌とされる魔法が多いけど、その魔法を悪用しなければ問題は無い。
「まさか、私が闇属性だったなんて…」
それからの逃避は少し楽になった。魔法を使えば使う程魔力は増えるようで、気が付けば使える魔法も増えていた。そんな逃避生活の中、自分が身篭っていると気付いたのは、娼館から逃げ出して4ヶ月程経った頃だった。




