39 たちの悪い女
*アデール視点*
エルフは自分の種族をとても大切にする種族だ。自然と共に生き、日々穏やかに過ごす。
他種族との関わりを絶ったのは、他種族が嫌いになったからではない。人間の起こす争いは嫌っていたけど、関係を絶った主な理由は“寿命の違い”だった。
どれ程良い関係を築いても約束をしても、人間はあっと言う間に死んでしまう。そうすると、また新たな関係を築いていかないといけない。それを、短期間で繰り返す。そんな関係作りに疲れたのだ。
エルフでも、外の世界が好きで、人間と共に暮している純血のエルフも居るし、ハーフのエルフも居る。
私も外の世界が好きで、度々人間の国に遊びに行ったりしている。そんな時の少しの気の緩みで、人身売買をする人間に捕まり『ヤバい』と思った時に、私を助けてくれたのがブライアンだった。
後ろで一括りにしている髪は銀色で、瞳は晴れた空のような水色だった。正直に言うと、一目惚れに近いモノがあった。でも、妻子持ちと聞いてすぐ、そんな気持ちはキレイサッパリ消化された。しかも、ブライアンは愛妻家で娘大好き人間だった。本当に、良い夫で良いパパだなぁ──と思っていたのに。
「まさか、ブライアンが流行り病で死んでいたなんて思ってもみなかったわ。あれから3人で幸せに暮らしているんだろうなと思っていたのに」
私がブライアンに魔法の指導をした期間は約1年。それからたったの2年で、ブライアンは死んでしまっていたのだ。
「それでも、そのお父さんのお陰でセレーナは今も生きている」
「アデールさんのお陰でもあるわね」
色んな苦労をして、恐い思いもしただろうけど、デミトリアで良い出会いをした事も大きいだろう。この人達と出会わなかったら、今頃どうなっていたかは分からない。
「アデールさんの見立てとして、カイリーが闇魔法を使ってナディーヌの名前を奪い、その証拠を消す為にピサンテに魔獣を呼び寄せたと?」
「おそらく」
夜も遅くなったから──と、セレーナとオリビアを部屋に下がらせた後、私は辺境伯夫婦とエルトンと大公の5人で話を続けた。
「瞳を介した呪術を扱える程の実力があるなら、魔獣を呼び寄せるのは簡単だから。呼び寄せる事ができたら、後の事は更に簡単に事が運んだ筈よ」
これはピサンテだから簡単にできた事だ。
「魔獣は魔素──特に淀みが濃いければ濃い程好むから、魔素が多い場所に現れるでしょう?でも、ピサンテはブライアンのお陰で魔素が少ない上に淀みが無い。そんな所に一気に複数の魔獣が現れたらどうなると思う?」
「まさか───」
ー流石はエルトン。直ぐに気が付いたようねー
私はコクリと頷き、続きを口にした。
「強制召喚されて気が立っている上に、好みの淀みどころか魔素すら殆ど無いのだから、魔素や淀みを探して走り回り、それでも無いと分かれば──怒りで辺りを破壊するでしょうね」
召喚に使用した魔法陣に時間制限を掛けていれば、その時間が経てば魔獣達はまた強制送還される。その後に残るのは、魔獣達に燃やし尽くされ破壊し尽くされた村だ。火を扱う魔獣を召喚したのも、きっと計算のうちだろう。
「これで、セレーナが生き残っていなければ、完璧だったんでしょうけど……セレーナは生き残った。この事は、公表されていないし、公表する予定もないんでしょう?」
「その予定だが、実は………第一王子がジェイミーの前で『生き残りが居る』と失言した」
「「「「はぁ!?」」」」
「とんだお馬鹿な王子が居たものね!!」
「ただ、あの時、公女は敢えて自分が会った生存者は『知らない人だった』と言ったんだ。『知らない子』とは言わなかったから、『子供が生き残った』とは思っていないと思う。だとしても──だが……」
とは言え、自分の娘が分かっていない事に変わりはない。ブライアンなら、どれ程容姿が変わっても、自分の嫁と娘は分かった筈。
「これから、少しずつになるけど、セレーナに掛けられた呪術を解呪して行くと、少しずつカイリーにも影響が出るから、カイリーも生き残りがセレーナだと言う事に気付く筈よ」
一気に解呪できれば、一気に呪詛返しができて自滅させられるけど、今回の呪術はそれができない。
「これも、計算のうちかもしれないわね」
たとえ生き残っても名前を奪っているから、自分が誰なのか分からない。呪術が掛けられているとバレたとしても、一気に解呪できないから、自分に異変が起これば完璧に解呪される前に始末すれば良い。
「本当に、たちの悪い女ね」
「カイリーを監視する必要があるね」
「事が事だから、兄上に報告した方が良いだろう。その時に、セレーナの安全確保とカイリーの監視の相談をしておく」
大公はそう言うと、魔法陣を展開させて王都へと転移した。
ーカイリーと言う女は、何故こんな事をしたの?ー




