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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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20/22

面談

 壁にはさまざまな絵が飾られ、棚には数々の調度品が並んでいる。

 床には柔らかなカーペットが敷かれており、目を引く大きな暖炉が周囲を明るく照らしていた。


 そんな立派な部屋の真ん中には、重厚なソファが向かい合うように二つ置かれている。

 その片方にタズハは座っていた。


 昨晩、皆で夕食をとっている時、五次試験について説明してくれた眼鏡の男性が再びやってきた。

 そこで告げられたのは、明日から王との面談が始まることとその順番で、タズハは一番手だった。

 今、こうして王城の客間でそわそわしているのは、これから面談が始まるからだ。


(ニードヘレン王国には、我々猫人族を迎え入れていただき、本当に感謝――)


 タズハはこれからゼイナスに、自分たち猫人族と貧民街の住人に仕事を用意してもらえるようお願いする。

 それと、ミスティの父に正当な評価を下してもらうため、ミスティから聞いた功績も伝える。


 そのための言葉をセシリアが一緒に考えてくれていた。

 それを頭の中で反芻していると、ギギッと扉が開く音がした。

 タズハはすぐさま立ち上がり、扉に身体を向ける。


 やがて入ってきたのは、碧い目をした金髪の青年。

 サラサラとした髪。切れ長な目。すっと通った鼻筋。すらっとした体形。

 タズハの印象はただ一言、綺麗な人だなというものだった。


「タズハ・キャッティと申します。お会いできて光栄です、陛下」


 そしてタズハはカーテシーを。


「ああ、こちらこそ。さあ、かけてくれ」


 言葉を受けて、顔を上げる。


「あっ」


 その瞬間、タズハはぱっと顔を明るくした。

 ゼイナスに続き、ワゴンを押しながら入ってきたエプロンドレスの女性――それはランラだった。

 彼女はニコッと微笑むと、ワゴンで運んできたポットや菓子が乗った銀色の三段トレイをテーブルに置いていく。


 彼女と会うのは無人島以来。

 久しぶりの再会に抱きつきたい気分だったが、王の御前ということもあり、ぐっとこらえた。

「失礼します」と、再びソファに腰を下ろす。


「どうぞ」


 ランラが目の前にカップを置いた。

 タズハはお礼を言うと、ミスティに教えてもらった通りにカップを持って、紅茶に口をつける。


 いい茶葉を使っているのだろう。

 めちゃくちゃ美味しかった。

 あまりの美味しさに思わずグイッと飲み干したいところだったが、それははしたないので我慢。


「とても美味しいです」


 お上品に微笑んで、カップを置く。


「それはよかった。……さて、それで」


 ゼイナスもテーブルにカップを置くと、少し前のめりになった。


「タズハ・キャッティ。君に謝らなければならないことがある」

「えっ?」

「君がこの試験に参加したのは、私に身体能力の高さを知らしめられれば、自分を含めた猫人族の皆が職を得られると思ったからなのだろう?」


 タズハは驚きに目を見開いた。

 なぜ、ゼイナスがそれを知っているのか。


(あ、もしかして!)


 ランラに目を向けると、彼女は小さく頷いた。

 思った通り、ランラが伝えてくれていたらしい。


「はい、その通りです。不純な理由で申し訳ございません」

「いや、君が謝る必要はどこにもない。悪いのは君たちを放置していた父。そして王位を継いでからこれまで何もできていない、私なのだからな」

「えっ? ……あ、いや、そんな。わたしたちを受け入れてくれて、そして食料とかも支給してもらって、先王様にも陛下にも、本当に感謝しています」

「……そうか」


 ゼイナスは申し訳なさそうに顔を伏せると、再び紅茶を口にする。

 そして話を続けた。


「君の身体能力の高さは目を見張るものがあった。……だがすまないが、この王都は今、人であぶれていてな。君たちに仕事を振ったり、住居を用意したりするのは正直難しい」

「……そう、ですか」

「なので、今、各街に報せを出し、君たちを受け入れてもらえるように言っているところだ。貧民街の者も一緒にな」


(えっ、それって!)


 胸がドクンと跳ねた。

 タズハはゼイナスに仕事をくれとお願いしに来たわけで、そもそも聞き入れてくれるかどうかわからなかった。


 それがどうだろう。ゼイナスは聞き入れてくれるどころか、既に動いてくれていた。

 喜びに胸が高鳴る。


「申し訳ないが、今はいい報告はできない。だが、必ず何とかする。そしてそれまでは支給品の量を増やそう。だからもう少しだけ辛抱してほしい」


 驚くことにゼイナスは軽く頭を下げてきた。

 タズハはあわわとしながら、慌てて言葉を並べる。


「や、そ、そんな、全然! むしろ、ありがとうございますっ! わたしたちのためにそんなことをしてくれて……」

「君たちも我が国の民だからな。本当に苦労をかけてすまない」


 なんていい王様なのだろう、とタズハは心の底から感動した。

 嬉しさも相まって、熱いものが込み上げてくる。


 これで猫人族、そしてロロネたち貧民街の件についてはひとまず安心。

 後は――


「陛下。図々しいのを承知でもう一つ、その……お願いしたいことがありまして」

「君にはその権利があるからな。遠慮する必要はない、言ってみたまえ」

「あ、ありがとうございます。えっと、バーテンドール子爵のことなんですけど……」


 そう言うと、ゼイナスは「ああ」と納得がいったように頷いた。


「子爵の評価についてのことなら、今、手の者が実際に子爵の働きぶりを観察している。彼らの報告によっては、叙勲もあり得るだろう」


 ランラはミスティの父の件も伝えてくれていたらしい。

 ミスティ曰く、キミーア・バーテンドールは領民思いの立派な人物であり、功績も多く残しているとのこと。

 タズハは会ったことがないが、ミスティが言うなら間違いないし、それに彼女のお父さんなら絶対にいい人だと確信していた。


 実際にその目で見てもらえれば、今の評価では不足していることに気付いてくれるはず。

 これでミスティの願いも叶えられる。


 同胞のみんな、ロロネ、ミスティ。

 タズハは皆の想いを背負ってきた。

 それは自分では認識していなかったが、かなりの重荷で大きなプレッシャーになっていた。


 でも、無事に叶えることができそうだ。

 安堵のあまり、身体から力が抜け、タズハはへにゃっと背もたれにもたれかかる。


「他に何かあるか?」


 タズハははっとした。

 そうだ、今は王様の前。

 背中をピンとさせて、きりりとした顔で答える。


「いえ、ありません!」

「そうか。では、ノノイ」

「はい」


 自分の後ろに控えていたノノイが、ゼイナスの隣に移動した。


「んえっ!?」


 そして深々と頭を下げてきた。

 それを見て、ゼイナスが「いや、君が頭を下げる必要はないんだが」とぼやくと、タズハに顔を向ける。


「タズハ、君はこのノノイに幾度となく酷いことを言われただろう?」

「えっ、と……はい」

「それは私がそうするように指示を出していたんだ。王妃になれば、暴言を浴びさせられたり、陰口を叩かれたりしない日はない。それに怒って、暴言を返したり、手を出したりするような女性には王妃は到底務まらないのでな。事前に確認させてもらった」


 タズハはノノイを見る。

 彼女は本当に申し訳なさそうな顔をしていた。


「な、なるほど」

「だからどうか悪く思わないでやってほしい。彼女は君のことを嫌ってなどいないし、むしろ、君の世話をしたいと立候補したくらいなのだからな」

「えっ? ……そ、そうだったんですか?」


 タズハが目を丸くしながら尋ねると、ノノイは「はい」と頷いた。

 しかし、そこで話は終わりと言わんばかりに、彼女はまた自分の後ろへ。


 今はゼイナスとの面談の時間なので、そちらを優先しろということなのだろう。


「もちろん、君だけではなく、他の参加者にもそれぞれの侍女が同じことを行っている。彼女らには私から説明するので、このことは明かさないように」


 なるほど、セシリアさんが悪口を言われていたのもそれでか、とタズハは納得した。


「わかりました!」

「さて、これでひとまず伝えなければならないことは終わりだ。後はゆっくり会話を楽しもう」

「はい、喜んで!」


 ゼイナスは頷くと、カップを口に運ぶ。

 タズハも喉を潤そうと、カップを手に取るため少しだけ身を屈めると、視界の端で黄色の何かが輝いた。


 自然とそちらに目が向かう。

 その輝きの正体は、ゼイナスの右手首につけられていたアクセサリー。

 黄と水色のビーズでできたブレスレットだった。


「あっ! それっ!!」


 突然の大声に、ゼイナス、そして彼の後ろに立つランラも身体をビクッと跳ねさせた。

 ほどなく、タズハはゼイナスの袖に向けて伸ばしていた指をばっと引っ込めて、頭を下げる。


「ご、ごめんなさい! いきなり大きな声を出して……」

「構わん。それで、どうした?」

「えっと、そのブレスレット、もしかしてセシリアさんからもらったものじゃないですか?」


 ゼイナスは袖を捲ってブレスレットを見ると、ふぅと小さく息を吐いた。


「セシリアから聞いたのか」


 タズハは頬を緩めた。

 やはりゼイナスはセシリアのことを忘れてなどいなかった。


「はいっ!」

「そうか……」


 ゼイナスはカップに目を落とした。


 そこでタズハはふと思った。

 もしかすると、王様はセシリアさんと結婚するためにこの王妃選抜試験を開いたのかな、と。


「タズハ。誤解を招かないよう、これだけは言っておく」


 それまでとは一転、ゼイナスは鋭い視線を向けてくる。


「私は国をより良くするために、優秀な女性を妃に迎えたいと思っている。それ故、これまでのしきたりに背き、今回、王妃に相応しい女性を民の中から広く選び出すことにしたのだ。そこに個人的な感情はまったくない」


 そしてタズハの考えはすぐに否定された。


「そ、そうですか!」

「ああ」


 若干、空気が重くなり、それからは沈黙。

 じっとしているのが辛くて、カップを口に運んでは置いてを繰り返すことしばし、ゼイナスが口を開いた。


「それで、タズハ。君はここまで残った者の中で、誰が王妃に相応しいと思う?」


(きた!)


 屋敷で共に暮らす少女たちがおべっかを使ってきていたのは、ここで名前を挙げてもらうためだろう。

 そんな彼女らには悪いが、タズハが挙げるのは少女たちの名前ではない。

 大切なお友達の名前だ。


「わたしはセシリアさんが相応しいと思います」

「……理由は?」

「セシリアさんはとてもしっかりしていて、それに優しいです! そして心も強くって。王妃としての役目を果たせるのは、セシリアさん以外にいないと思います!」

「……そうか。参考にしよう。さて、ここからは君のことについて聞かせてもらおうか」

「あ、はい!」



 ☆



 それから三十分ほど会話を続けた後、タズハは城を後にした。

 そうして屋敷に向かっている道中。


「あの、ノノイさん」

「はい」

「ノノイさんはわたしのお世話をしたいって立候補してくれたって、さっき陛下が言ってましたけど……」

「ええ、その通りです」

「ど、どうしてわたしなんかを?」

「妹の大切なお友達ですから」

「妹? えっ……えっ!? ってことはもしかして!?」

「はい。ランラの姉です。妹と仲良くしていただいて、ありがとうございます」


 ノノイは小さく頭を下げた。

 それを見て、タズハははえーとする。

 まさかランラさんのお姉ちゃんだったとは。


「ああ、いえ! こ、こちらこそです!」


 タズハもぺこりと礼を返す。

 するとノノイは「ふふっ」と笑った。


「機会は少ないかもしれませんが、またランラと会う時があったらぜひ仲良くしてあげてください。それとわたしも。短い間ですが、これからもよろしくお願いしますね」

「もちろんです! よろしくお願いします!」






「――あら、お帰りなさい」

「あっ、今お戻りに?」


 屋敷に戻ると、タズハは五人の少女たちに出迎えられた。

 偶然会った風を装っているが、面談の内容を聞き出すためにずっと待っていたことはすぐにわかった。

 そうでなければ、エントランスホールにいるわけがない。


「陛下との面談はいかがでした?」


 そして案の定、何を聞かれたか教えろ、と圧をかけてきた。

 それをタズハは「何も言うなと言われてるので」で切り抜けると、そのままセシリアの部屋に。


「――わっ、よかったですね!」

「はいっ!」


 お願いしたいことは既にゼイナスが動いてくれていたことを話すと、セシリアは自分のことのように喜んでくれた。

 それが嬉しくて、タズハはニコニコ笑顔に。


「あとねあとね、陛下、セシリアさんのこと覚えてましたよ!」

「ほ、ほんとですか!?」

「うん! それにね、ブレ――」

「タズハ様」


 ノノイに遮られ、タズハははっとする。

 そうだ、ブレスレットのことは口止めされているんだった。


「と、とにかく! 陛下はちゃんと覚えてました! よかったですね!」

「はいっ!」


 今度はタズハが自分のことのように喜んだ。



 ☆



 三日後。

 いってらっしゃいと、セシリアを送り出してから数時間。

 部屋にやってきたセシリアは顔を伏せていた。


 タズハはその様子を不審に思いながら「お帰りなさい」と声をかける。

 それでようやく彼女は顔を上げた。

 その瞳は赤く充血しており、頬には水が通ったような跡があった。


「……何があったんですか?」

「……ゼイナス様に、『君を選ぶことはない』と」

「えっ?」


 タズハは言葉を失った。

 ゼイナスは今でもセシリアが贈ったブレスレットをつけていたので、好意を持っていると信じて疑わなかった。

 だから、まさかそんなことを言うなんて想像もしていなかった。


 セシリアはドレスの袖で目を拭うと、タズハを見る。


「ですから、タズハさん、お願いします。どうか王妃になって、ゼイナス様のことを隣で支えてあげてください」

「えっ、わ、わたしが?」

「はい。タズハさんならきっと、ゼイナス様が求めるいい妃になれますから」


 セシリアがぎこちなく笑う。

 その姿はあまりにも痛々しかった。


 タズハは必死に頭を働かせる。

 しかし、気の利いた言葉は何も思い浮かばなくて。


「……うん」


 ただ一言、そう返すことしかできなかった。

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― 新着の感想 ―
王としての判断を考えた結果、私情にマイナス補正をかけてしまったのかな。 自分は正しく評価出来ない。どんなに素晴らしく見えても、思い出がそう見せてる、って。 現状を変えようと思うが故に、身分などを優先は…
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