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猫耳難民少女は王妃選抜試験で無双する〜狙いは玉の輿ではなく、皆の明るい未来~  作者: 白水廉


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17/22

お屋敷へ

 王城を囲む内壁の門の近く、壮麗な館が建ち並んでいる一等地。

 その中でも、ひと際大きな館の前にタズハたちは立っていた。


「――うん、大丈夫ね」


 真正面から、横から、後ろから。

 さまざまな角度からタズハを見ていたミスティが、満足気に頷いた。


 この水色のドレスは、今朝仕立て上がったばかり。

 裾を引きずることなく、胸や腰周りもぴったり。

 これもティティルが時間をかけて手直ししてくれたおかげで、彼女には本当に感謝である。


 ただまあ、やはりドレスなので締め付けがキツく、着心地はよくない。

 でもこの十日間、寝る時以外は常にサイズが合わない赤いドレスを着て過ごしていた甲斐あって、全然マシだ。


 髪もティティルが編み込んでくれて、今のタズハはいいとこのお嬢様のようである。


「はい、タズハちゃん」

「あっ、ありがと!」


 ロロネが持っていてくれた革製のトランクを受け取る。

 ミスティからの借り物で、中には下着や櫛、鏡などが収められていた。


「いってらっしゃい、タズハ!」

「タズハちゃん、頑張って!」

「いってらっしゃいませ」


 タズハは大きく頷いて。


「じゃあ、行ってくる!」


 笑顔で言うと、一人、館の扉を押し開ける。






 広がっていたのは、百人規模のパーティーが行えそうなほど広いエントランスホール。

 シャンデリアにレッドカーペット、壺やよくわからない絵画など、贅が尽くされたその空間は別世界のよう。


 そして中央、二階に上がる階段を塞ぐように、エプロンドレスを纏った女性がずらりと並んでいた。


 数歩進むと、真ん中の女性以外が一斉に深々と頭を下げてくる。

 その丁寧すぎる対応に、平民どころか難民のタズハは目をぱちくりさせるが、すぐにはっとして、顔をきりりとさせる。


「ようこそいらっしゃいました、タズハ・キャッティ様」

「はい!」

「では、ノノイ」


 それを受け、左端にいた女性がタズハの前に。


「試験中、タズハ様のお世話をさせていただくノノイと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「あ、タズハです。こちらこそ、よろしくお願いします!」


 さっそく習得してきたカーテシーを。

 ミスティから『まあ、いいでしょう』とお墨付きをもらった努力の結晶だ。


「では、お荷物をお預かりします」

「はい、ありがとうございます」


 トランクを手渡すと、ノノイはそれをまた別の侍女に。


「では、こちらへ」


 そして歩き出したノノイの後を追い、階段の脇にある扉をくぐる。

 応接室、あるいは客室か。これまた大きな部屋で、巨大な長方形のテーブルを挟むように高そうな椅子が並んでいた。


 その奥で、三人の少女が椅子に座っていた。

 それぞれの後ろには、ノノイのようにエプロンドレスを着た女性が立っている。


 少女は三人とも煌びやかなドレスに身を包み、髪もセットしている。

 五次試験の参加者だろう。部屋に入るや否や、一斉に視線を向けられた。


 ちょっぴり緊張しながら軽く頭を下げると、三人とも笑みを浮かべながら会釈を返してくれて、タズハはほっとしつつ自分も席に着く。

 とはいえ、仲良くお喋りという雰囲気でもなく、他の三人と同様、タズハもじっと開始時刻を待つのだった。






 一人、また一人と少女がやってきて、七人目が来てからしばらく。

 高そうな服を着た眼鏡の男が部屋にやってきた。

 手には紙を持っており、何かを確かめるかのように少女と紙で視線を行き来させる。


「――皆様お揃いのようなので、少し早いですが、五次試験についての説明を行わさせていただきます」


 その言葉に、タズハは周囲をきょろきょろ見回す。


(えっ、もう七人だけなんだ)


 四次試験でだいぶ絞ったのだろう。

 ということは――


「今回が最後の試験となります。内容は陛下との面談です」


(よし!)


 ついにその時がやってきた。

 タズハが欲していたのは王妃の座なんかではなく、王であるゼイナスと直接話す機会だ。


 そこで自分たち猫人族と、ロロネたち貧民街の住民に仕事を用意してほしいと頼み、ミスティの父が正当な評価を受けられるよう、その功績も伝えるつもりだ。

 ようやく目的が果たせそうで、胸が弾んだ。


「一週間後からお一人ずつ順に、陛下とティータイムを共にしていただきます。その際、ここにいらっしゃる方の中で誰が王妃に相応しいと思うか、陛下にお伝えください。なお、自薦は禁止で、必ず誰か一人名前を挙げてください」


 タズハはふむふむと小さく頷いた。

 これから各々で話すなりなんなりしてお互いのことを知り、面談までに誰がいいか決めろということなのだろう。

 その他者からの評価もゼイナスは判断材料の一つとしたいようだ。


「陛下との面談は、陛下が相手をお決めになるまで続けていただきます。陛下は一人あたり二回から三回を目処に考えておられますが、場合によってはさらに面談を重ねる可能性もございます。それは既にご承知いただけているかと思いますが、改めてご留意ください。ここまでで何か質問がある方はいらっしゃいますか?」


 男は周囲を見回し、頷く。


「では、次に――」


 それからは屋敷での過ごし方やルールなどの説明がなされた。

 起床と就寝、食事と入浴の時間は決まっているが、それ以外の時間はどう過ごしてもいいらしい。

 ただし、敷地の外に出るのは禁止で、何か必要な物などがあれば侍女に言えば用意してくれるとのこと。


 それを聞いて、タズハは心の中でガッツポーズ。

 この十日間、ミスティにさまざまなことをみっちりと叩き込んでもらった結果、カーテシーやテーブルマナーはまあそれなりにはなった。

 だが、ダンスだけはこれまでの身体の動かし方と違い過ぎて、どうしても上手くできなかったのだ。


 ダンスが下手すぎるせいで、ゼイナスと面談する前に脱落させられてしまう――なんてことはなさそうで何よりである。


「――では、これより王妃選抜試験五次試験を開始いたします。以降は各自お好きなようにしていただいて構いませんが、まずはお互いのことを知るためにも自己紹介を行うことをおすすめします」


 男はそう言い残し、部屋を出ていった。


 そうして流れるは沈黙。

 皆、一言も発さず、ただ視線を彷徨わせるばかりだ。


「……じゃあ、じ、自己紹介でもしましょうか」


 そんな気まずい空気を打ち払った勇者は、タズハの左に座る女の子だ。


 腰のあたりまで真っ直ぐに伸びたベージュの髪はさらっさら。

 淡い青色の大きな瞳は少し垂れていて、その顔には幼さが残っており、かわいらしい。

 全体の雰囲気はまさに『清楚』という言葉がぴったりと当てはまり、白いドレスがその清らかさをさらに際立たせていた。


 少女は立ち上がると、綺麗なカーテシーを行う。


「アリスフェルド男爵家の長女、セシリア・アリスフェルドと申します。不束者ですが、皆様、これからしばらくよろしくお願いいたします」


 短いが、丁寧な挨拶。

 タズハがぱちぱちと控えめに拍手すると、他の娘も続く。


 セシリアは皆に頭を下げると、席に着いて視線をタズハに向けた。

 どうやら次は自分のようだ。

 タズハはバッと立ち上がると、セシリアに倣ってカーテシーを。


「わたしはタズハ・キャッティです! これからよろしくお願いします……いたします!」


 お辞儀をすると、六名全員が拍手をしてくれた。

 部屋に入った時の三人と同様、タズハの後に来た三人も普通に会釈を返してくれたし、今もセシリアと同じように扱ってくれている。


『五次試験まで残るくらいだから、マイナスになり得そうな行動はしないだろうし、そこは安心していいと思うわ』――ミスティの言葉を思い出し、ミスティちゃんが言ってた通りだ! と、タズハはほっと胸を撫で下ろす。

 これなら、心をすり減らさずに済みそうである。


 が、ミスティはこうも言っていた。

『内心ではどう思っているかわからないし、もしかしたらタズハを利用してやろうって思う子もいるかもしれない。だから、普通に接してくれたというだけで気を許しちゃダメよ』、と。

 タズハは頭の中にいるミスティに、心の中で頷いた。



 ☆



 全員が自己紹介を終えると、場所を把握するため一旦それぞれあてがわれた自室に向かうことになった。


「こちらです」

「わぁ……」


 案内された部屋はめちゃくちゃ広かった。

 部屋なのに、多分ヌココ村にあった村長の家二つ分くらいある。

 広すぎて感激を通り過ぎて、ちょっと引いちゃったくらい。


 これは落ち着かなさそうだぞ、とタズハが「むむむ」としていると、後ろから大きな溜め息が聞こえた。


「どうしてわたしが汚らわしい獣人なんかの世話を。本当に最悪だわ」


 続けられた言葉にタズハはバッと振り返る。

 ノノイはこちらに背中を向け、水差しで観葉植物に水を与えていた。


(……えっ?)


 ノノイは暴言を口にした。

 聞き間違いではないと断言できるほど、はっきりと、明瞭に。

 それもこちらに聞こえるよう、あえて大きな声で。


 突然向けられた悪意に、タズハは驚きのあまり硬直する。

 遅れて、胸がバクバクと激しく音を立て始める。


 少しして、ノノイがこちらに振り返った。


「よろしければ、お茶をお入れしましょうか?」


 そして何事もなかったかのように平然とそんなことを。

 それにタズハは反射的に頷く。


「ではご用意いたしますので、少々お待ちください」


 そう言って、ノノイが部屋を出る。

 

 どういうつもりなのか。

 まったく理解が追いつかず、タズハは閉められた扉を呆然と見つめ、その場で立ち尽くしていた。

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