いつかのメリークリスマス
……完結表示を忘れたので、急ごしらえのおまけですが
クリスマスの夜は、いつもクリームシチューを食べる。ロールキャベツの入った、具だくさんのシチュー。
キッチンの汚れない位置に置かれた紙を見付けて、録は首を傾げた。
少しくたびれたそれは、便箋と封筒だろうか。何度も開閉したのか折り目がすりきれてしまっている。
「おとーさん、これなぁに?」
キッチンに立つ父親に訊けば、フライパンで小麦粉を炒めていた父が微笑んで答えてくれる。
「レシピだよ」
「レシピ?」
「そう。クリームシチューのね」
言いながら父が、炒めた小麦粉に少しずつ牛乳を加える。丁寧に、ダマにならないように。
「おとーさん、レシピなんてみなくても、おりょうりできるのに」
録の父は料理上手で、母とかわりばんこでご飯を作ってくれる。料理を作る父がレシピを見ている姿なんて、録はまったく見たことがなかった。
「これは、特別だから」
父が目を細めて便箋を見つめる。よく録へ向けてくれるような、愛しさがあふれたまなざしだった。
「とくべつ?」
「そう。特別」
フライパンの火を止めた父が録の方に来て、録の頭と便箋を撫でる。
宝物みたいに撫でてくれる父の手が、録は大好きだった。
「天使が教えてくれた、幸せのレシピだからね」
「しあわせのれしぴ?」
「そう。クリスマスに素敵なことが起こるように、願いを込めて作るんだよ」
そうしたら、お月さまが願いを叶えてくれるかもしれないからね。
父がキッチンの小窓に目を向けた。窓の向こうには丁度綺麗な細い月が、たくさんの星と共に微笑んでいた。
「だから、おとーさんのシチューはおいしいんだね」
「録はシチュー、好き?」
「うん!だいすき!」
「そうか。それじゃ、美味しいシチューにしないとな」
言って、父は封筒と便箋を取り上げる。
切手も消印もない封筒には、丁寧な字で、『ゆうさんへ』と書かれていた。
蛇足にまでお付き合い頂きありがとうございました!