Episode 38
■古ノ狼
視界が赤く染まる。
あぁ、懐かしい。
こんな感覚はいつぶりだ?
周囲には、俺を殺そうとする者達。
それは以前……少女を殺した時には居なかった新たな障害。
そして目の前には、あの時殺した少女。
あぁ、何という運命か。
俺はもう一度、少女を殺すことが出来る!
あの時の甘美な感覚をもう一度味わうことが出来る!
しかし、周りの障害の中の……そう、先程から突っかかってくる鉄球を持った少女と、弓を持った男。
彼女らを見ると、俺が殺した少女ではないはずなのに……何故か懐かしい気持ちが沸々と湧き上がってくる。
この感情は一体、なんなのだろうか。
いや、考える必要はない。
俺の目的はただ一つ。
目の前の少女を殺すことだけなのだから。
それこそが俺の役割で、俺という人狼の機能なのだから。
『あぁ、どうして。あなたは――』
考える必要のないはずの声が頭の中に木霊する。
それを頭から振り払うように、俺は腕を振るった。
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■赤ずきん
古ノ狼の腕が振るわれる。
HPゲージが赤く染まった瞬間に地面へと向かって放たれたその一撃は、今まで以上の速度と威力を持っていた。
骸骨で出来た地面が割れる。
「おいおいマジッ!?」
所謂ボス空間とでもいうべきこの空間の地面が、古ノ狼を中心として蜘蛛の巣状に割れていく。
近くにいたスキニットやサーちゃんはもちろん、その被害は中衛、後衛組にも及んだ。
咄嗟にとれた行動は少ない。
自身の身体の出来る限りの身体能力で後ろへと跳び、転がりながら破壊の中心から離れようとしただけなのだから。
「クッソ、【その身体燕の如く】!」
後ろから何やらスキニットの慌てたような声が聞こえたが、仕方ない。
何かのスキルを発動したようだから、無事であると信じたい。
サーちゃんは……見れば、いつの間に移動したのか私達の近くまで下がってきている。
器用なものだ。
暫くして、その拳による余波のような破壊は収まった。
恐らくは何かしらの特殊行動……HPゲージが赤くなったことに関係しているのだろうが……それにしたって破壊の規模が今までとは比べ物にならない。
相談したいと思い、目でスキニットを探したものの見当たらなかった。
一応ジョンとアナが何とか逃げ切っているのが確認できているため、どこかしらにはスキニットも存在しているはずなのだが……と思った瞬間、
『嬢ちゃん』
「ん?」
上から声が聞こえてきた。
そちらの方を向けば、群青色のツバメが一羽飛んでいる。
『俺だ、俺。スキニットだ』
「……アーハン?え?スキニットさんって登場人物だったりしたの?マジで?」
『違う違う。牛若丸のスキルでこうなってるだけだよ』
……あぁ、さっきの。
彼が何やら叫ぶように宣言していた【その身体燕の如く】だったか。
その名の通り、彼の身を燕に変えているようで……実際に飛んで何とか中心地から逃れてきたらしい。
戦場であるため、簡単なものにはなるがこれで話し合いが出来るだろう。
「あれ、どう見る?」
『いやまぁ、よくあるだろ』
「まぁよくあるよねぇ……」
『「発狂モード」』
私とスキニット、2人の意見はどちらも同じもの。
ボス戦ではよくあるものだ。
ある一定値までHPを削っていくと、行動パターンや色々なものが様変わりし、今まで以上に厄介になる。
それをプレイヤーは発狂モードや狂暴化、怒り状態などと言ったりするが……今回のソレも恐らくはそうなのだろう。
見ればわかるほどに上昇しているであろう攻撃能力。
それに付随するように、目に見えるほど上がった速度。
アレが攻撃行動だけに適応されるとは思えないため、今も周囲を警戒しながら会話をしている。
といっても、襲われるならスーちゃんの方にはなりそうだが。
「足止めして一気に削る?」
「っと。それでもいいが……どう足止めするんだ?」
「あは、考えてない。でもそうだな……そっちのアナやジョンなら足止め系はそれなりに手段あるだろう?」
集まってきていたアナ達を横目で確認しながら、スキニットへと笑いかけるとばつが悪そうに顔を逸らされた。
私が思い浮かべたのは、スキニットとの決闘で私の足をとらえた落とし穴。
浅かったからこそ、躓くようにして身体が前のめりになってしまい……私がスキニットのようにきちんと戦っていれば、あそこで決着がついていたであろう一手。
アレをもう一度、やってほしいと頼んでいるのだから。
『話は聞いた。しかし、今の土煙じゃどうにも出来んぞ?』
「ジョン。いや、いけるって事が分かっただけでもいい事だよ。……スーちゃん!」
『なんです?』
「アイツは?」
『動き出しそうにないです。観察してるのか、それとも力を溜めてるのかわかりませんが……仕掛けますか?』
「腹部一点狙いで」
『了解です』
恐らくヘイト関係なく襲ってくるならば、狙われるのはスーちゃんだ。
だからこそ、スーちゃんに攻撃させる。
その意図が分かったのか、私が視線を向けるだけでジョンは苦笑いしつつ頷いた。
他のメンバーはいまいちわかっていないようだが、それぞれスーちゃんの近くですぐに攻撃出来るように待機してもらう。
最後の攻防になればいいと、そう思いつつ。
私は作戦開始の合図をスーちゃんに出した。
不可視の刃が、宙を舞う。




