Episode 37
スーちゃんがこちらの指示を聞くようになった今。
私達の戦闘はかなりスムーズに進んでいた。
といっても、ダメージをそこまで出せているわけではない。
スーちゃんには今まで通り、古ノ狼の攻撃を捌く役割を担ってもらっているからだ。
だが、今までのようにそれに合わせ適当に攻撃をしてもらうのではなく、腹部を狙って攻撃してもらうように指示しただけだ。
それによって変わるものは当然存在する。
古ノ狼の行動パターンがそれにあたる。
彼の弱点らしき腹部を守ることにリソースを割いているため、その分今までのように無理矢理攻撃を通そうとしてくることが無くなったのだ。
その分、私達の攻撃頻度が多くなるし……その分、ダメージを出すことも可能となる。
今までよりもスムーズに進んでいると言っても過言ではないだろう。
「アーちゃん、ごめん撃ちながらでいいんだけど」
((何かしら))
「もう一個スキルあったじゃん。アレの詳細が知りたくてさ」
スーちゃんのそんな姿を見ながら、私は射線が被らないように移動しつつアーちゃんに聞きたいことを聞いていく。
スーちゃんと違い、アーちゃんは今回初めて【憑依】した。
つまり、まだ効果の分かっていないスキルが存在するのだ。
((あぁ、【乱冒狼藉】?アレはダメージ受けてないと使えないわよ))
「成程?」
((効果としては、それまで受けたダメージを3倍にして返すカウンター系のスキル))
「3倍?!」
ダメージを3倍にして相手にも与えるスキル。
下手をすれば、わざと攻撃を受けてそのスキルを使った方が倒す速度が上がる可能性だってある。
しかしながら、そんなスキルにデメリットがないはずもなく。
((ただ、使用条件は自身のHPが残り10分の1以下じゃないと使えないわ。つまり、瀕死にならないと使えないタイプね))
「……それは確かに使う状況にはしたくないね。うち、というか今いるメンバーの中じゃ回復出来るのもほぼいないし」
((そういうこと。だから地道に削るしかないわよ))
所謂、起死回生。
このスキルを使うようなことがあれば、基本的には使った後に欠損系や出血系の状態異常によって死に至るであろう未来がうっすらと見えてしまう。
それこそ、すぐに治療の出来る登場人物やスキルがあるならばまだしも……私にはそんな伝手や力は今現在ここには存在していなかった。
仕方ない、と諦め古ノ狼のHPゲージを確認する。
度々攻撃を捌き切れていないのか、腹部に攻撃が当たっているようで。
彼のHPゲージはもう少しで半分へと差し掛かるところだった。
しかし、手負いの獣は一番危険という話はよく聞くものだ。
いくら人型の姿になっていようが、古ノ狼は元は狼。その事実は変わらないし、獣であることにも変わらない。
今も、よくよく観察していない事には気が付かないが……少しずつ少しずつ古ノ狼の拳を振るう速度が速くなっているのが分かる。
HPが低くなればなるほど強くなる……所謂、背水系のスキルなのか。
それとも単純に古ノ狼があの身体に慣れてきているのか。
「……どっちかどうかは分からないか。仕方ない」
手に持つマスケット銃のような銃を素人ながら、アーちゃんが撃っていたように照準を付ける。
その狙いはもちろん、古ノ狼の腹部。
他のメンツも狙っているため、誤射が怖いものの……ある程度は仕方ないだろう。
スキニットやサーちゃんに関してはそもそも心配する意味もない。
アーちゃんが撃つよりも数倍の時間をかけ照準を付け。
引き金に指を掛け。
息を吐き、手が震えないように抑えつけ。
私は引き金を引いた。
瞬間、吸い込まれるように古ノ狼の腹部辺りへと放たれた銃弾は。
古ノ狼の右腕によって即座に防御される。
しかしながら、私の一射へと反応した彼へと攻撃が殺到した。
スキニットが刀を。アーちゃんが4丁の銃を。
ジョンが弓を。そしてアナが火炎を。
それぞれがそれぞれの位置から、古ノ狼の腹部へと攻撃が集中する。
スキニットの刀は、素早く反応した古ノ狼のもう片方の腕に防がれ。
アーちゃんの4丁の銃から放たれた弾丸は、咄嗟にこちらへと背中を向け弾かれ。
アナの火炎は、無理矢理かみ砕くようにしてかき消された。
そして、唯一。
彼の腹部へと届いたのは、ジョンのスキルによって軌道を操られた弓矢だった。
ジョンの弓矢は正確に古ノ狼の腹部へと突き刺さり、HPを大きく現状の3割ほど削りきった。
『ウォ、オォオオオオ!!!』
古ノ狼は叫ぶように、吠える。
有効打となった攻撃は奇しくも、『赤ずきん』における配役と同じく狩人であるジョン。
残り2割となったHPは、今まで緑色だったそれを赤色へと変化させた。




