第2話ー3
第2話ー3
結局、件の不届者には無傷のまま向こうにお帰りいただく事になった。彼の前では平静を装って見せたけれど、正直な所僕の腑はこれ以上なく煮えくり返っている。彼を的にしたことに対する怒りは勿論、此方に帰ってきてから初めての外出デートの冒頭にとんだケチをつけてくれたことに対する憤懣も負けてはいなかった。彼の目の前でなければ思いつく限りの凄惨な意趣返しを実行に移していたかも知れない。
それでもなお矛を納められたのは、やんわりと静止する彼の声に悲哀と言う他解釈のしようの無い感情が聞き取れたからだ。やっぱり、僕自身が自覚している以上の箍の外れに心を傷めてしまっているのだろうか。
「いや…お前割と向こうに行く前からバイオレンスな側面は多分に持ち合わせてたと思うぞ…」
「えぇ〜?そうだったかなぁ〜?」
「自覚が無いならハッキリ言っとくが…本気でキレた時の口の悪さは俺の比じゃねぇからな…?(※『プロローグ』参照)」
「…でも、君ってそう言うギャップって割と好きなんじゃ「ノーコメントで」」
―――
「そう言えば、一つ気になっているんだけれど…」
廃墟を後にして本来予定していたデートコースへ戻ろうとする道すがら、私の腕に自身のそれを絡めて歩く彼が此方を見上げながら問うてきた。視線を合わせ短く「うん」と相槌を打って続きを促す。
「『今日は機嫌が良い』、って…何でかなぁって。僕としては向こうから持ってきたゴタゴタに巻き込んじゃって申し訳ない気持ちでいっぱいだったんだけれど…」
言い終えぬ内から徐々に勢いを失っていった言葉は最後には消え入りそうなくらいにか細くなっていた。反比例するように絡めた腕に込められた力は少し、強張るように強まった。は?かわいいかよ「茶化さないでね?割と真剣に悩んでるよ?」
「ちょいと小耳に挟んだんだが、俺の事を向こうで『伴侶』って言ってたって?」
「…あの野郎、やっぱ手足の2〜3本はへし折ってから返すべきだったか「出てる出てる、バイオレンスお漏らししちゃってますマイダーリン」」
"キッ"と目尻を吊り上げてはいるものの、紅潮する顔色までは隠しようが無いらしい。本当かわいいなコイツ。え、ちょっと真剣な提案なんだけどデートコース変更して休憩所行きません?「行きません!今日はまず普通にデートするって決めてんの!」
―――
色々と手を尽くして茶化しちぎったお蔭でそれ以上の追求を受ける事が無かったのは幸いだった。『機嫌が良い』、私が思わずそう口にしたのにはもう一つ理由が有る。それは件の闖入者に問われた『この状況にあまり動じていない』事の答えにも通じる事だった。
明らかにこの世ならざるものに、どう見ても作り物とは思えない長剣を差し向けられても動じずに居られた理由。それは恐らく、『私自身が意識の表層で思う程には彼の異世界体験を与太と切り捨てていなかったから』、そう自身で解釈できたこと。
更には、そんな状況でも『きっと私のダーリンがすぐに助けに来てくれるはず』、そう信じて落ち着けるくらい、空白の時間が彼への信頼を奪ってはいなかったと確信できたこと。
本来は形を持たないはずの愛の嵩を我が身で体感できる機会を得て、機嫌が上向かない訳がないじゃないか。
「…なぁ、やっぱマジで一回だけ抱かせてくんねぇか、愛が溢れそう」
「一体今の会話のどこでそんなに催したかサッパリわかんないんだけどマイハニー!?」




