第2話-1
第2話-1
『異世界に召喚されて世界を脅かす魔王の討伐に駆り出されたのだけれど、なんとか目的を果たして此方に戻して貰えたんだよ』という、聞くからに突拍子の無い与太話を今日まで鵜呑みにしていた訳ではなかった。
大方『交際を反対していた女親に私と会うことを禁じられ、独立独歩できる歳になったので身辺を整えてきた』と言った所なのだろう。私を迎えに来るまでのそのような労苦をファンタジーチックに喩えてはぐらかしているだけなのだろう。
身体中に刻まれた傷痕も正しく"痕"と呼称するに相応しい程度には薄いもので、その数と体表に占める面積が夥しいことを除けば気にする程の物とは思えなかったこともある。
彼もそう感じているだろう通り、これからの幸福な生活を思えばそれらは気掛かりにも及ばぬ程に詮無い些事と、そう思っていた。
我が身の前に白刃を突き付けられる直前までは、であるが。
―――
「あの柔弱な勇者ばらの伴侶となれば如何様な雌かと思うたが…よもや雄であったとはな」
私に剣を向けている当人、中世風とも言えない異形の甲冑に身を包んだ相手は私の全身をしげしげと眺めると驚きを隠さずに漏らした。
「そいつぁ…ご期待に沿えなくて悪ぅございましたね」
向こうはその辺り進んでないんだろうか…とか言い出すと色々とキナ臭い話題に進むだろうから一旦置いておくとして
「それにしても日本語がお上手で」
正直『ダーリンが与太話に真実味を増すために用意したフラッシュモブのキャストでした』と言われても驚かない程度に相手の言葉は流暢だった。ただ、視覚と聴覚を過る微かな違和感。兜から覗く口唇の形と発声が、嚙み合っていない?
「よく見たな…然様、手前は貴様らの言語は解さぬ。通詞の精霊を伴うは異界に渡る上での常道ゆえ」
甲冑の男はそう言うと空いた左手で自分の首元を指さす。男の指し示す先を注視してみると、ぼんやりと光る羽虫の様なものが見えた…あれが精霊、とやらなのだろうか。ちなみにどうでも良いんですけど多分口調的にその精霊さんこっちの知識が古いか偏ってるかのどっちかだと思いますよ。
「それは知らぬ。しかし…肝が太いのか鈍いのか、あまり動じておらぬようだな?」
言われてみれば尤もである。抑々からして、今私が迷い込んだらしい廃墟は私たちがデートの待ち合わせ場所に決めた最寄りの繁華街から遠く離れた場所らしい。私はどうしてここに…思い返せばその記憶も曖昧だった。
「あの勇者が相手ではなまじ正面から挑んだとて人質を取るのも困難と断じたゆえな。気は進まなんだが…貴様が一人の所を狙いまじないを掛けさせてもらった」
丁寧な説明に反して相手の口端には怪訝さか、さもなくば不機嫌さが見て取れた。…あぁ、そう言えば問い掛けに答えていなかったのだった。




