第四話 護衛任務のため帰艦
火星と地球、17年の戦争がようやく終わりを迎えようとしていた。
火星軍総監の調印を経て、条約締結の舞台は中立都市――月面都市。
白銀のドームが輝くその都市に、各国の代表と艦隊が集結していた。
アクスたちも護衛任務として、再び宇宙戦艦に乗り込むこととなる。
「……なんでまた、この戦艦なんだよ。」
アクスは船体を見上げ、恨めしげに呟いた。
戦艦の表面には、いくつもの傷跡と修復痕が刻まれている。あの地獄の戦いの日々の証だった。
「この歴史的瞬間を、バーバラ姉様と一緒に立ち会えるなんて、最高でーす!」
アクスの横で、イーグルが笑顔でピースをしてみせる。
「悪いね。また世話になるよ。」
バーバラが義手を軽く振って応じる。義手の表面には、戦火を耐え抜いた痕が残っていた。
「僕たち、アサシンギルドの傭兵に恨みを買ってるから、誰も載せてくれないんですよね。」
ディックが苦笑いを浮かべる。
「いい事をしてるのに嫌われるなんて、ひき肉(皮肉)ですよ、ほんと。」
「文句言ってないで、さっさと荷物運び入れろ!」
マーシャルの声が響く。
その声に、アクスは思わず笑みを漏らした。戦いの匂いがしないこの空気。久しぶりだ。
しかしその静けさは、長くは続かなかった。
◇◇◇
一方その頃 ― 火星外縁軌道コロニー基地
血のように赤い警報灯が点滅していた。
静寂だった宇宙港が、突如として轟音に包まれる。
「敵襲!? あり得ない、ここは非武装宙域のはずだ!」
警備兵たちが叫ぶ間もなく、轟く爆発。
火星軍の輸送艦から吐き出される、黒い影の群れ。
「地獄の傭兵部隊《バルバトス隊》だ!!」
黒光りする装甲兵が無数に降下し、銃火が走る。
その中心には、一際巨大な機影が現れた。
オーガー専用アーマード・マグナム ―《アースオーガー》
身の丈三十メートル。
背中に装着された金属の金棒をゆっくりと振り上げ、基地の天井を貫く。
「はははっ! 秘密基地ってわりに、ずいぶん脆ぇじゃねぇか!」
オーガーの笑い声が通信を震わせる。
バァン!!
金棒が叩きつけられた瞬間、格納庫の壁がねじ曲がり、数十人の兵士が吹き飛ぶ。
「うわぁぁぁっ! 手で押し潰される!!」
「金棒が天井を突き破りましたーっ!!」
「もう耐え切れません! 撤退を――ぎゃあぁっ!!」
轟音、悲鳴、金属の悲鳴が交錯する。
オーガーの咆哮が、まるで戦争そのものの怨念のように響き渡った。
「ちょこまか逃げんなぁああ!! これが、俺たち“地獄の傭兵”のやり方だッ!」
通信機の奥で、火星軍のゲルニカ少将が歯噛みする。
(おい、おい、ZEUSを傷つけるなよ……あれは我々の最終防衛ラインなんだぞ!)
だが、傭兵たちはもはや命令を聞かない。
金と復讐だけが、彼らを動かしていた。
火星の赤い空が爆炎に染まり、
そして。その火は、ゆっくりと月面へと伸びていく。
アクスたちの《ノア》が向かうムーンライト。
そこに、まだ知らぬ“最終の戦い”が待っていた。
和平の調印式
それが、「最後の火種」になるとも知らずに。




