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【SF5位達成】『哀しみのマグナム』リバイバル  作者: 虫松
第七部 火星と地球編

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第三話 火星に到着

火星軍総監司令部 ― 赤の回廊


宇宙戦艦ノアのハッチが開くと、赤い砂塵が吹き込んできた。

火星の空は、今日も薄い血のように霞んでいる。


「……帰ってきたな、アスク、ディック、イーグル。」

マーシャルが隣でつぶやく。


「2年半ぶりだ。まさか生きて戻るとはな。」

ディックは乾いた笑みを浮かべると、通信端末を取り出した。

「家族に連絡してくる。たぶん、泣かれる。」


(そうか……ディックにも、イーグルにも家族がいるんだ。俺にはいない。)

アクスは、わずかに寂しげな表情でその背中を見送った。


やがてマーシャルが手にしたケースを持ち上げた。

「大統領の和平条約案、これを火星軍総監に届ける。」

「……あぁ。頼まれたからには、きっちりやるさ。」


火星軍司令部。

鋼鉄と赤岩で築かれた要塞は、かつての地球連合の技術と火星鉱石の融合だった。

中に入ると、重苦しい空気と警備兵たちの視線が刺さる。


「火星防衛軍総監、待機中だ。」

案内兵に導かれ、長い回廊を進む。

壁には、戦死した将兵の肖像がずらりと並ぶ。

その一人一人が、17年の戦争を語っていた。


「……よく来た、地球代表。」

会議室の中央で、火星軍総監が立ち上がった。

銀灰色の軍服、深く刻まれた皺、そして右目に埋め込まれた赤い義眼。

彼の背後には副官たちが並び、空気が張りつめる。


マーシャルが胸に手を当て、一歩前へ出た。

「地球統合大統領より、和平条約案をお預かりしました。これをお渡しします。」


総監は無言でそれを受け取り、ゆっくりと封を切る。

視線が、一行一行をなぞるたび、部屋の空気がさらに冷たくなっていった。


やがて、彼は重く息をついた。

「……もう17年だ。」

低い声が会議室に響く。

「兄弟も、親も、友人も、みんなこの戦で失った。

 正義を叫びながら、何も得られなかった。」


アクスは喉を鳴らした。

「だからこそ、今、終わらせる時です。」


総監の赤い義眼がゆらめく。

「終わらせる? その言葉、何度聞いたと思う?

 だが……」

彼はゆっくりと顔を上げた。

「今回は違う気がする。地球の若き代表たちが、ここまで命を懸けて持ってきた。

 この案文、確かに預からせてもらおう。」


マーシャルは深く一礼した。

「感謝します。これで、本当に」


「まだだ。」

総監の声が鋭く遮った。

「上層評議会での協議を経なければ、正式な停戦とはならん。

 ただ……私はもう、血を見るのはうんざりだ。」


わずかな沈黙。

アクスの心臓が、重く打った。


総監はゆっくりとマーシャルの肩に手を置いた。

「君たちはよくやった。今夜は休め。」


二人は司令部を後にした。

外に出ると、火星の薄い空気が冷たく頬を打つ。

マーシャルが息を吐いた。

「……どう思う、アクス?」


「うまくいくかは、相手しだいだな。」


マーシャルはふっと笑い、アクスの背中を叩いた。

「バーバラに連絡しよう。久々に飲むか。」


そのとき、後ろから声が飛んだ。

「なんか、あたしの名前、聞こえたんだけど?」


振り向くと、バーバラが義肢を軽く叩きながら立っていた。

「抜け出してきたのさ。どうせ飲むんでしょ?」


マーシャルが苦笑した。

「今日は男だけで」

「なにそれ、差別?」

「……いや、違う、そういう意味じゃ――」


「あたしもミレーユとのこと色々聞きたいね」


アクスはため息をついた。

(結局、俺が一番の酒の肴か……)


三人は赤い砂煙の中、火星の夜の街へと消えていった。

遠く、総監司令部の塔には、まだ灯がともり続けていた。


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