第七話 細菌兵器(バイオ・マグナム)
宇宙戦艦前方宙域。
火星航路上で静寂を裂くように、数百の推進炎が散開した。
それはまるで、地獄の底から吹き上がる赤黒い嵐だった。
「地獄の傭兵部隊、《ブラッディ・キャンディ》接近中!」
通信士の報告に、艦橋の空気が一瞬で凍りつく。
レーダー画面には、異常な生体反応を帯びた敵機の群れ。
それはただの機械ではなかった。機体と生物が融合した“バイオ兵器マグナム”だった。
「お菓子の国を作るんだぁぁ!」
「戦艦を沈めれば、ボーナス倍増だぞ!」
傭兵どもの狂った叫びが通信を通じて響く。
その中心に双子のように並ぶ二つの機体。
兄ヘンゼルの《エボラZ》と、妹グレーテルの《サルモネラY》。
どちらも、生体細菌を組み込んだ禁断のマグナムだ。
「来るぞ!」
マーシャルが短く指示を飛ばす。
艦内スピーカーが鳴り響き、ジャンヌが笑いながら立ち上がった。
「ほら、男ども。迎撃しな!ついでに一人二人、宇宙の塵になってこい!」
「了解だ……」
バーバラが立ち上がる。金属の義手が鈍く光る。
「どうせ行くなら、派手に踊らなきゃね。」
◇◇◇
五機のマグナムが射出ゲートから宙へ放たれた。
アクスの《ホワイトアーク》、ディックの《ミサイルアーミー》、イーグルの《ブルーバード》、バーバラの《レッドパッションダンサー》、そしてマーシャルの《ホワイトナイト》。
無重力空間で光の尾を引き、敵陣へ突入していく。
「宇宙での初戦だ。目で追うな、感覚で読め!」
マーシャルの声が響く。
「天の怒りの三連メガビーム砲、発射ぁっ!」
ジャンヌの叫びとともに、ノアの艦首から閃光が走った。
空間が歪み、白熱の光線が敵群を貫く。
「うわぁああ!アーマーが溶けるぅ!」
「甘く焦げた匂いがするぅぅ!」
爆発。衝撃波。断末魔。
虚空で咲く光の花――しかし、敵はまだ生きていた。
「お兄ちゃん、きれいだね……」
グレーテルの舌なめずりが通信に混じる。
「じゃあ、ボクらもプレゼントをあげようか。あははは!」
赤い霧が放たれた。
それはただの煙ではない。超微細なバクテリアの群れが、電磁波を媒介して機械に侵入する“細菌兵器”だった。
「バーバラ、離れろ! それは毒ガスだ!」
マーシャルが叫ぶが――もう遅い。
赤い霧に包まれたマグナムの装甲が泡立ち、内部から軋みを上げた。
「ぐっ……!動きが……」
バーバラが唇を噛む。
視界が赤く染まり、センサーが次々に死んでいく。
「効かないねぇ。私たちのマグナムは“再生”するんだよ。」
グレーテルが笑う。
その声の裏で、兄ヘンゼルの《エボラZ》が緑の霧を噴き出した。
「緑と赤のダブルウイルス、いっくよぉ!」
ガスが傭兵の仲間をも呑み込んだ。
「ぎゃあああっ!」
味方のマグナムが次々に感染し、動力停止。中の人間は熱を上げ、発狂し、沈黙した。
「緑色と赤色の機体に同時にギャラクシー5を仕掛ける」
「同時って離れているぞ!」
マーシャルがモニターにむかって叫んだ。
「イーグル、囮になって引きつけろ! 時間を稼げ!」
イーグルは片手でスロットルをにぎり締め、軽口を投げつける余裕のないまま返す。
「アクスちゃーん、ヒドーイ! ガスに当たったらどうするんですかァ!」
「お前の機動性でギリギリ交わせるだろ!」アクスの返答は即答だった。声には覚悟が滲んでいる。
ディックは手元のパネルに集中しながらも、震える声でつぶやく。
「ミサイル、準備……もうすぐ全弾発射できる!」
「プログラム ギャラクシー5 発動!」
「もう、やる事決まったんですか!独裁者め!」
イーグルの機体はグレーテルの機体に突撃した!




