第十話 決戦 ウルルの赤い嵐
錆びた鉄扉が閉まる音が、アジトの奥に響いた。
ミレーユは冷たい金属の椅子に縛られ、薄暗い照明の中に晒されていた。
背後では、ハーン将軍が猿ぐつわをされ、呻き声を漏らしている。
「あなたたちは……火星軍の方なのですか?」
その声は震えていたが、瞳は怯えていなかった。
バーバラは壁にもたれ、煙草を指に挟んだまま何も答えない。
代わりに、暗闇の奥からゆっくりと足音が近づいた。
赤い外套が揺れ、真紅の光沢が薄明かりに反射する。シャウラだった。
「兄とは……どんな関係があるのですか!」
バーバラの口元が、わずかに歪む。
「関係? あんたの兄貴は、こっちの邪魔をしただけさ。」
「私が何をしに来たか、知ってるのですね?」
「うるさい女だね、ミレーユお嬢様。」
シャウラの声は低く、しかし艶やかに響く。
「その“書状”があると、こっちの商売が成り立たないのさ。」
金属製の机に書状が叩きつけられた。
中の封蝋が半ば焼け、煙が上がっている。
「火星の坊やにはもう伝えてあるよ。」
バーバラが口角を上げた。
「“人質奪還”のチャンスだってね。新型マグナムで乗り込めば、賞金稼ぎがわんさか寄ってくる。」
(……火星の坊や? アクスのこと?!)
シャウラが背後のモニターに映る砂嵐の映像を見つめながら、静かに呟く。
「来るわね。あの男は、必ず来る。」
「じゃあ、あんたは餌さ。」
バーバラがミレーユの頬を指でなぞる。
「大きな獲物を釣るには、極上の餌が必要だろ?」
その瞬間、背後の鉄扉が軋み、巨大な影が現れた。
熊のような体躯の傭兵、グリズリーが無言で立つ。
腕に仕込まれた油圧ブレードが、ぎりりと音を立てた。
「モゴモゴモゴッ!」
ハーン将軍が必死にもがく。
外では、遠くで雷鳴のような轟音ミサイルアーミーのエンジン音が響く。
嵐の前の静けさ。
火星と地球、そして傭兵たちの血の闘いが今、始まろうとしていた。
◇◇◇
【決戦 ウルルの赤い嵐】
オーストラリアの荒野。
夕陽がエアーズロック、現地ウルルの赤岩を血のように染めていた。
熱風が砂を巻き上げ、空は焦げたような橙色に揺らめく。
そこに“決戦の場”が用意されていた。
「情報によると、相手のマグナムは三体いる。」
モニターの中で、コッキィー大佐のコアラ顔が真剣そのものだった。
「赤い毒針のシャウラ、破壊王グリズリー、そして死の舞バーバラ!」
名前を告げるたび、戦場に吹く風が強くなるようだった。
アクスは拳を握る。(ミレーユ……なぜお前が人質に……マーシャル、お前もそこにいるのか?)
ディックのキャタピラーが砂を噛む。
「アクス、ヨーロッパ戦線でこいつらにボロ負けしたの覚えてるか? あれ、悪夢だぞ。」
イーグルが苦笑した。
「足、まだ完治してませんよ。バーバラの蹴りで折られたっす。」
コッキィー大佐が吠えた。
「民間人を人質に取るとは卑劣千万だ!……で、アクス、その娘……お前の彼女なのか?」
アクスは一瞬ためらい、そして真っすぐ前を見据えた。
「はい。そうです。」
「愛しているのか!」
「愛しています。」
「愛のために命をかける……!」
コッキィー大佐は鼻息を荒くした。
「いいぞアクス!それでこそ男だ!地球軍の傭兵どもをまとめて叩き潰す!
俺は呼ばれなかったがなッ!指名されたお前が羨ましいぜえええええ!!」
ディックとイーグルが同時にぼそりとつぶやく。
「(完全に嫉妬してる……)」
そして、モニターに映るウルルの頂上。
紅と黒の装甲が陽光を反射し、三体の影が並び立つ。
中央にそびえる巨体、サムソンボンバー(グリズリー機)。
岩肌を砕く拳は“戦場の地震”と呼ばれる。
右には、真紅の毒を宿すレッドスコーピオン(シャウラ機)。
尾の毒針が鈍く光り、風を切るたびに低い音を響かせる。
左には、流麗な機体レッドパッションダンサー(バーバラ機)。
砂の上で舞うように構えるその姿は、死の踊り子。
そして対するは
アクスのレッドオーシャン、
イーグルのブルーバード、
ディックのミサイルアーミー、
そしてコッキィー大佐のカンガルーKO。
「目標はただひとつ!」
コッキィー大佐の咆哮が通信回線を震わせた。
「人質奪還、そして、ウルルを戦場の墓標に変えてやる!!!」
「レッドスコーピオンは俺がやる!後の2体はお前たち任せたぞ!」
コッキィ大佐は息巻いている。
ウルルに砂嵐が吹き荒れる。
真紅の夕陽が落ち、夜の闇が近づく。
赤と黒の影が交錯するその瞬間
ウルル決戦、開戦の火蓋が切って落とされた。




