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【SF5位達成】『哀しみのマグナム』リバイバル  作者: 虫松
第三部 アジア大陸戦線

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第一話 兄からの手紙、長崎へ

ミレーユの家に一通の封筒が届いた。

見覚えのある筆跡。彼女は胸を高鳴らせながら封を切る。


手紙にはこう書かれていた。


【ミレーユ、兄は元気だ。現在任務中の為、詳しいことは書けないがアジアにいる。

そういえばこないだアクスに偶然あったよ。彼は、とても元気そうだった。

お土産に日本の扇子を送ります。 兄より】


細い指先がそっと扇子を開くと、そこには筆で大きく「長崎」と書かれていた。


静かに目を閉じ、唇を結ぶ。


(ヨーロッパの戦いでアクスと会ったのね。

次はアジア、ハーン将軍と戦うのね、アクス)


そっと扇子を胸に抱く。


(兄は……私に、アクスと会ってほしいんだわ。15年も経っているけど、私のこと……覚えているかしら)


その頃。ハンガリー陸軍拠点。

アクス宛に謎の扇子が届く。


無言でそれを開いた彼の目がわずかに見開かれる。


(この住所……アメリカ、マーシャル宅。15年前、あの事件があった場所だ)


扇子に書かれた一文字を見て、眉が動いた。


「長崎……?」


(マーシャルはハーン将軍と行動を共にしている。

だが、会えるはずがない。ということは……ミレーユ君が来るのか!?)


日本はこの戦争で中立の立場を取っていた。

だが、スパイや軍人の秘密の情報交換地でもあった。



====================


アクスはその“長崎”という言葉を信じ、単身日本へと飛んだ。


成田空港。入国審査を終え、荷物を引き取るその背後に、スーツ姿の男が近づく。


「アクス様ですね。マーシャル様より伺っております。こちらへ」


表情を動かさず、無言で男を一瞥する。


「……ずいぶん手回しがいいな」


「我々はマーシャル様の後方支援をしている者です」


「長崎まで、どうやって?」


「専用のヘリがございます。こちらへ」


ヘリが静かに長崎の港町へと降りる。

そこには、紅いワンピースに身を包んだ一人の女性が立っていた。


風が彼女の髪を揺らす。

目を凝らしたアクスの唇がわずかに開く。


(……ミレーユ……ずいぶん大人になったな。いや、15年も経てば当然か)


女性がゆっくりと歩み寄る。微笑みを浮かべながら、彼を見上げた。


「アクスね。……すごい筋肉。軍人さんだものね」


「そ、そうだよ。15年ぶり……か」


視線が絡み、ふと空気が止まる。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


スーツの男が静かに口を開いた。


「お食事の用意がございます。どうぞ、こちらへ」


二人は長崎の古い温泉旅館へと案内された。

温泉につかり、夕食にはしゃぶしゃぶや刺身が並ぶ。


箸を止めたミレーユが、ふと小さな声で呟いた。


「兄は、近々……クーデターを起こすのではないでしょうか」


箸を持つ手が止まる。


「えっ……そんなことを言ってたのか?」


「いえ、はっきり言ったわけではありません。ただ……このタイミングで二人を会わせたということは……」


(……何かあったら、俺を頼れということか……)


「ごめんなさい。勝手な憶測で話してしまって……。兄は軍事的なことは口にできないの。だから手紙にも何処にいるか書けなかった」


笑みを返しながら、アクスは温かいお茶を口に運ぶ。


その後は、イーグルやディックの話、ミレーユの看護大学での勉強、

失われた日々のことを、静かに語り合った。


廊下の奥から声が聞こえる。


「ミレーユ様、そろそろ帰りの飛行機のお時間です」


立ち上がった彼女が、ふとアクスの手首を見る。


「……貝殻のブレスレット、まだしてくれてたのね」


「これは……あの頃の、俺の宝物だから」


ミレーユは目に涙を浮かべ、唇を噛みしめていた。

そして、そっと近づき——アクスの唇にキスをした。


「?!」


「さようなら。また……会う日まで」


車に乗り込むその背中が小さくなっていく。


アクスはその場に立ち尽くし、

しばらく動けなかった。


夜。

旅館の布団に横になりながらも、彼の目は閉じられなかった。


マーシャルのこと。

ミレーユの涙。

貝殻のブレスレットの感触。

唇に残る、あのぬくもり。


そして……近づきつつあるアジア戦線の火薬の匂い。


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