第七話 ハンガリーでの再戦
――マーシャル視点――
ハンガリー地球軍拠点。湿った風が、空気に鉄の匂いを漂わせている。
遠くで警報が鳴り響き、兵士たちが慌ただしく走り回るのが見えた。
「ハンニバル将軍、火星軍が攻撃をしかけてきました!」
司令部に緊張が走る。その声を聞いた瞬間、私は嫌な予感を覚えた。
敵はアーマドコア部隊。派手に突っ込んできては退却を繰り返す戦術だ。見え透いている。
「また来たか!しつこい奴らだ!殲滅してくれるわ。全軍出撃開始せよ!」
将軍は咆哮し、躊躇なく出撃命令を下す。だが私は、口を挟まなかった。彼の性格はわかっている。
静かに足音が近づいてきた。
「大佐、火星軍がしかけて来ましたわ。」
声の主はバーバラ。長い髪を束ねたまま、整備班のデータ端末を携えている。息を切らしていないところを見ると、すぐに私を探しに来たようだ。
「罠をしかけてくるに違いない。後方から支援して様子を見よう。」
私は答えた。彼らは真正面から戦うつもりなどない。陽動か、誘導か、あるいはもっと複雑な構図か。
「了解です、大佐。」
バーバラはすぐに部隊へ伝達に走った。
私はゆっくりと、戦術マップを睨んだ。数分前に取得した敵部隊の動き。微細な速度の上下。交互に出入りするアーマドコア。――やはりな。
「一点集中ではない。複数のフェイントを含む、多段構成……」
だが、情報が足りない。こちらが動けば動くほど、彼らの狙いに引き込まれる可能性が高い。
私は即座に判断を下す。
「中距離砲陣形を保て。前進はせず、敵が踏み込むまで待つ。レーダーのノイズも解析しろ。恐らく爆撃機が来る。」
予想はすぐに的中した。空が唸るような音を立てて、火星軍の爆撃機編隊が接近してくる。
ハンニバル将軍は、前線で待ち構えていた。
「ハンニバル将軍止まったか。……よし、空軍から爆撃後、アーマドコア部隊はサーベルタイガ部隊を叩け」
敵の作戦を読み取ったのは一瞬だった。彼らは私たちを静止させ、重装部隊を“焼き払った後”、急襲してくる。わかりやすい。しかし――
わかっていても止められない作戦こそ、最も恐ろしい。
「ガードカウンターでサーベルタイガ部隊は破壊する。」
アーマドコア部隊の隊長アクスの声が、戦場通信から流れた。あの男――読めない。
肉体的な反応も、戦術の癖も奇妙に揃っていない。だからこそ、不気味だ。
爆撃音がハンガリーの地を焼く。
ボーン…ドカーン!!
ボーン…ドカーン!!
火の雨が地を染め、煙の向こうから現れるアーマドコア。サーベルタイガ部隊が突撃しようとする、その刹那。
「盾で吹っ飛びなぁ!」
アーマドコア部隊の重装機が、タイガを大きく弾き飛ばした。
反撃の隙も与えず、そこに集中砲火が浴びせられる。
ダダダダダダッ――どカーン!!
「……くそ、動きが洗練されている。演習じゃない、“実戦慣れ”だ。」
私は歯を食いしばった。
地球軍の象部隊が突撃を開始するも、それすらも敵の“導線”の上を進んでいた。
「退却しろ、象が突進するぞ!」
叫ぶが遅い。敵は象の行動範囲を完全に読んでいた。左右に展開するアーマドコア――その先には罠。
「象部隊、罠だ!止まれ!」
だが叫びもむなしく、先頭の数頭が落とし穴に落ちていった。
そこに現れる、ドミノ軍曹率いる特殊部隊。象の腹に次々と仕掛けられる爆弾。
「……完敗か。」
私は握った拳を解き、深く息を吐いた。
マグナム・ヴァイスのコックピットに乗り込む前に、ひとつ通信を入れた。
「バーバラ、あの樹獣 象に仕掛けている特殊部隊の動き、分析を急げ。あれは次の作戦への“布石”だ。敵はこのまま引かない。」
そして、私はつぶやいた。
「この戦場に、感情を持ち込む余裕はない。だが次は、こちらから叩く。」
重く、静かに。白いマグナムの起動音が響いた。
再戦は、まだ始まったばかりだった。




