第90話 異界事変⑲
"終焉"の攻撃が止まった。
疲労によるものではなく、単に区切りが付いたからだろう。
ようやく手の空いた俺は周囲の光景を眺める。
誰も彼もが等しく死に果てていた。
まだしぶとく生き残っているのは、俺の他には医者と騎士のみである。
その戦況を前に手を打って苦笑する。
「こいつは最高の展開だな。助っ人が全滅しちまった」
「笑っている場合かね」
「絶望して泣き喚けば満足かよ」
背後の医者に言葉を返す。
視線は"終焉"に固定しているので表情は分からないが、医者の口調はまだ冷静だった。
「まあ、彼らは役目を果たしてくれた。おかげで"終焉"は消耗している」
「あいつらを使い潰すのも計算のうちか」
「当然だろう。犠牲無しで勝てる相手ではないからね」
医者は平然と述べる。
今はこうして味方のような関係になっているが、そもそもこいつは冷酷な死霊術師だ。
教会の裏の仕事を任されていた汚れ役である。
基本的な倫理観は外道そのもので、目的のためならば何であろうと切り捨てられる性格をしていた。
だからこそ信頼できる男なのだ。
三人の妄者を始末した"終焉"は、静かに佇んでいる。
そして感情に乏しい口調で呟いた。
「弱い。もう終わり?」
「言ってくれるじゃねぇか。お前こそ弱ってるぜ。大丈夫かよ。なんなら手加減してやろうか」
「馬鹿にしないで」
「ハハッ、これくらいで怒るなよ。ただの冗談さ」
俺は飛んできた光の槍を打ち払いながら笑う。
無機質に見えるが、やはり感情は備えているようだ。
むしろ子供っぽい印象さえ受ける。
能力は反則気味ながら、精神面に脆さを感じた。
数少ない弱点と言えるだろう。
俺はゆっくりと歩み寄りながら"終焉"に提案する。
「さて、そろそろ互いに本気を出していこうか。準備運動はこれくらいで十分だろう」
「いいよ」
"終焉"が答えると同時に、周囲を巡る裂け目が巨大化した。
裂け目はその場に固定されると、途端に何もかもを吸引し始める。
大地が重力に逆らってめくれ上がり、空間ごとひしゃげながら圧縮されて消えていく。
無数の裂け目が空も大地も空気も無差別に吸い込んでいった。
そうして取り込まれた分だけ空間に皺が寄って歪む。
歪みがさらなる歪みを生んで、それらは連鎖しながら最果ての地を変貌させていく。
"終焉"を中心に、世界が不可逆の破壊を始めた。




