第86話 異界事変⑮
接近を嫌う"終焉"が後ろに下がり、光の槍を撃ってくる。
俺は指の刃で破壊して間合いを詰めると、容赦なく片腕を突き込んだ。
"終焉"は顔面を引き裂かれながらも後退する。
割れた箇所は徐々に修復し、あっという間に回復した。
(さすがに再生能力は持っているか)
ただ、医者の言う通り身体能力は低いようだ。
反応速度も並程度である。
殻の防御と槍の破壊力が優秀すぎるのだ。
それらに特化した結果、他が劣ることになったのだろう。
特に攻撃面が反則的だ。
ほぼ無尽蔵に放てる槍は直撃すれば即死する。
おそらく神や悪魔といった高位存在すら抹殺できるに違いない。
単純な破壊力に加えて、特殊な概念が込められている。
とは言え、もう慣れた。
隔絶した破壊力だが、何度も防げばコツも分かってくる。
俺は近接特化の妄者だ。
攻撃範囲が狭い代わりに、速度と破壊力は"終焉"にさえ劣らない。
俺はさらに突進して、連続で蹴りを放っていく。
そのすべてが"終焉"に炸裂し、奴の身体を穿った。
至近距離から光の槍を放たれるも、残らず指の刃で打ち落とす。
「見飽きたんだよ。別の芸はないのか?」
「ある」
"終焉"が呟いた後、奴の前に空間の裂け目ができた。
俺は引きずり込まれる感覚に陥る。
「おおっ」
強烈な感覚に抗えず、片腕が呑まれる。
そこで裂け目が閉じた。
小気味よい水音と共に、俺の腕が切断される。
血の代わりに影の破片が飛び散った。
すぐさま目の前に新たな裂け目ができる。
俺はもう一方の腕で裂け目の破壊を試みた。
なんとか叩き割ることに成功するが、代償として俺の手首から先が消失する。
またも呑み込まれたのだ。
さらに三つ目の裂け目が出現した。
今度は横合いから飛び出してきた死体が身代わりとなる。
その間に俺は後退した。
ちょうど医者の隣にあたる位置だった。
「感謝したまえよ。今、殺されかけていただろう」
「お前の助けがなくとも逃げられた」
「だろうね。しかし、損傷を少なくできたのは事実ではないかね」
医者は俺の両手を指し示す。
裂け目に呑まれた箇所は、膨れ上がるようにして再生し始めていた。
大きく破損しているがすぐに治るだろう。
俺は前方に佇む"終焉"を睨み付ける。
奴の周りでは、切断能力を持つ無数の裂け目が高速回転していた。




