第87話 異界事変⑯
医者が裂け目を観察しながら述べる。
「あれは次元の亀裂だね。開閉の動きで物体を切断できるようだ」
「面倒臭ぇな。なんとかしろよ」
「僕に"終焉"の能力に干渉しろと言うのかね。それはさすがに難しい注文だよ」
肩をすくめた医者は自嘲気味に答えた。
彼は循環する裂け目を指差しながら解説する。
「先ほども言ったが"終焉"の妄者は能力特化だ。肉弾戦は不得手だが、固有能力に関しては強力無比なのだよ。君の一撃でさえ、相打ちになってしまう」
「理屈はいい。さっさと対策を寄越せ」
「最前線で陽動になってほしい。そのまま殺しても構わない。我々は補助に回りつつ、戦況を優位に傾けていこう」
「分かった」
俺は地を這うように突進していく。
即座に裂け目が進路を阻んだので、指の刃を飛ばして貫いた。
裂け目は破裂して消滅した。
俺が被害を受けることはない。
接触すると一気に腕ごと持っていかれるが、分離すれば解決するようだ。
(とにかく間合いを詰める。裂け目を避けながら八つ裂きだ)
俺は心に決めて直進する。
さらに裂け目が迫るも、横合いから肉塊が突進して食い止めた。
医者の操るアンデッドだ。
禍々しい巨体がめり込みながら引きずり込まれるも、それによって裂け目の動きが露骨に鈍った。
何かを取り込む最中は素早く動かせないらしい。
俺は肉塊のアンデッドが呑まれるのを横目に疾走する。
そこにまた別の裂け目が飛来してきた。
俺の胴体を引き裂く軌道である。
(厄介な能力だ)
俺は胸中で悪態を吐きつつ、土を鷲掴みにした。
それを哭き崩して投擲する。
散弾のように放たれた影の粒は、裂け目を粉々に砕いた。
(こっちの方が良さげだな)
新たな発見もそこそこに、今度は光の槍が突き込まれる。
数百本の束が変幻自在に分裂して押し寄せてきた。
それぞれが俺を即死させるだけの威力を秘めている。
(誰が最も危険か認識しやがったな)
俺は急停止すると、光の槍を弾きながら後退した。
さすがにこの密度を突破するのは至難の業だ。
裂け目が飛んでくる可能性を考えると、無理に進むのは危険すぎる。
単独戦闘ならそれでも突っ込むが、今の俺には味方がいた。
光の槍の濁流を凌ぐ中、俺の近くをすり抜ける者達がいる。
俺を陽動に接近するのは"鉄壁"と"術王"と"鎮魂"――医者が雇った妄者集団の生き残りだった。




