第60話 強引な誘い⑦
俺達はそのまま地下に赴く。
厳重に施錠と監視の施されたその先には、広い空間があった。
結界で念入りに隔離された場所である。
中央には黒い外枠で構築された門がそびえていた。
天井すれすれの高さで、横幅は馬車が余裕で通れる程度だ。
床には門を中心に魔法陣が描かれている。
こいつが転移門だった。
ロド商会で生み出した移動装置である。
門の内側は、灰色の光の膜を張っていた。
表面を注視すると、水のような揺れを繰り返している。
その奥に何があるかは見通せない。
店長は奥で研究者達に指示を出していた。
これ以上、俺の怒りを買わないように奔走しているようだ。
(大したやる気だな)
転移門は少し前から開発していた。
ロド商会の販路拡大が目的だが、一方で俺の移動手段として使いたかったので建造させた。
哭けば高速移動ができるものの、目的地があまりに遠いと時間がかかる。
何かの役に立つと思って着手させていたのだ。
まさかこんな形で使うとは思わなかった。
医者は興味深そうに転移門に近寄ると、じろじろと観察し始める。
百足が這いずって見回っているのは不思議な光景だった。
「転移門……時空魔術で座標の連続性を無視するのか」
「細かいことは知らねぇよ。技術面はあいつらに丸投げしている」
わざわざ開発のために妄者の魔術師まで雇っているのだ。
本来なら不可能な設計でも、哭いた状態での魔術なら成立させられる。
いくらロド商会でも、自前で用意できる設備で転移門を開発できるはずがない。
その不可能な部分を妄者が補った形だった。
ざっくりとした説明をしてやるも、医者は納得できずに疑問を洩らす。
「原理は分かったが、耐久面に無理があるだろう。ただでさえ強引な設計なのだ。使用のたびに行き先を設定するようだが、それだと過負荷で門が壊れてしまう。よほど特殊な素材でなければ厳しいはずだ」
「よく見てみろよ。転移門はお前の知る素材で作っている」
俺は指を差しながら言う。
医者は黙り込んで門の細部まで注視する。
やがて合点がいったとばかりに尻尾で床を叩いた。
「――なるほど。君が哭き崩した物体か」
「ああ、そうだ。外枠の表面を覆って補強してある」
ロド商会が用意した門の基盤を、哭き崩した液体金属でコーティングしたのだ。
これで転移門は尋常でない耐久性を獲得した。
たとえ街が吹き飛ぶような出来事があったとしても、門だけはしっかりと残るだろう。
「哭き崩しは建材に使えるほど長持ちするのだね」
「使い手によるな。俺の場合、半永久的に持続させられる」
普段、戦闘で使用する際は使い捨ての武器として発動することが多い。
あまり長持ちせずに消滅させているのも、その方が都合が良いからだ。
その気になればこういった使い方もできるが、俺は魔術師ではない。
ましてや建築屋になりたいわけでもなかった。
持続型の哭き崩しは、滅多に使わない技能である。
性に合わないので、積極的に役立てる機会は少ないだろう。
医者は百足の首を振りながら嘆く。
「妄者は常識外れだと分かっているが、やはり君は別格だね」
「そうでもない。他の連中が不器用なだけだ」
俺が軽快に返すと、医者は苦笑した。
そして、自らの好奇心を満たすための質問を追加で投げてくる。
「ところで動力源はどうなっているのだね。転移機能ともなれば、莫大な魔力が必要になるだろう。魔術師が補充するにしても数が足りないし、やはり君が充填しているのか」
「それもしっかり解決しているさ。しかも俺が力を使う必要もない」
俺は騎士と医者を空間の奥に案内する。
転移門を越えた先――開発用の設備が並ぶ中、一体の異形が拘束されていた。
それは筋肉男だった。
全身各所からコードが伸びており、常に力を吸い取られている。
目を閉じて静かに呼吸をしていた。
もちろん意識はなく、目覚めることもない。
こいつから吸い取った力で、転移門を魔力を賄っているのだった。
ちなみに肩には修道女の顔が張り付いて、無意味な言葉を発していた。
二人仲良く設備の一部と化している。
医者はその姿を認めると、言いにくそうに指摘してくる。
「……一応、僕は彼女の師なのだが。ああいう扱いをして心は痛まないのかな」
「まったく痛まないね。俺に歯向かった時点でこうなることは決まっていた。死なずにいられるだけ感謝してほしいもんだ」
俺は平然と答えて、眠ったまま動かない筋肉男の頭を撫でた。




