第59話 強引な誘い⑥
「クソッタレが。舐めてやがる」
俺は吐き捨てるように言う。
医者の軽口に腹が立ったわけではない。
呪術の施された手紙に怒っているのだった。
なんとも下らない嫌がらせだった。
どうせ効かないと分かっているはずなので、こちらの気分を害するためだけの術である。
(黙認してきたが、さすがに限界だ)
俺はソファから立ち上がると、出入り口に向かって歩いていく。
即座に店長が扉を開いた。
そして、膝をつきながら尋ねてくる。
「ど、どこへ行くのですか」
「極東の国だ。ふざけた真似をした王を殺す」
「冗談では、ないのですよね……?」
「俺はいつだって真面目だぜ。殺すと決めたら絶対に殺す」
怯える店長に笑いかけながら、俺は傍観していた騎士を手招きする。
「付いてこい。たぶん妄者も殺しまくれるはずだ」
「行く」
「僕も同行しよう」
自力で杭を抜いた医者も主張した。
破損した部位は既に修復し、騎士の影に沈み込む。
これで三人だ。
戦力としては十分だろう。
ロド商会から戦闘部隊を借りることもできるが、無駄に犠牲が増えるだけである。
極東の国にも妄者はいる。
常人では決して敵わないのだから、この三人で向かうのが最善であった。
「ところで、極東の国へはどうやって向かうのかな。移動だけでかなりの手間と時間がかかりそうだが」
「ちょうどいい手段がある」
俺は医者の疑問をはぐらかしながら階段を下りていく。
一階からさらに下へ向かうところで、店長が控え気味に発言する。
「ハワード様、まさかあれを使うおつもりですか……?」
「そのまさかだよ。完成しているんだろう」
「しかし、まだ試験運用の最中でして、人体に影響を及ぼす恐れがあります」
俺は言い淀む店長の襟首を掴んだ。
顔を近づけて命令する。
「さっさと用意しろ。俺が許可したんだから問題ない」
「か、かしこまりましたっ!」
店長は転がり落ちるようにして地下へと消えた。
直後、奥から凄まじい怒鳴り声が聞こえてくる。
慌てて部下達に支度をさせているようだ。
医者は騎士の背中に引っ付きながら地下を注視する。
「ふむ、僕が知らないところで何か開発していたのだね」
「除け者にされて不満か?」
「まさか。僕には僕の役割と居場所がある。これで腹を立てるほど狭い心はしていないさ」
医者は長細い体躯をうねらせると、興味津々といった様子で俺に質問する。
「それで、何を開発したのかな。ここまで来たら教えてくれてもいいだろう」
「転移門だ。極東の国まで一気に乗り込んでやる」
俺は悪意を隠さずに笑った。




