第47話 死霊退治⑪
(常人が妄者の力を制御できるのか?)
俺は当然の疑問を抱く。
妄者は特殊な存在で、ただの人間とは絶対的な隔たりがある。
それを無視して己の力にするとは、かなりの無茶だろう。
普通は何らかの不具合が生じて自滅する。
しかし、目の前の医者は見事に実現させていた。
哭いた片腕は、歪ながらも安定している。
ただの幸運や偶然などではない。
彼自身が、知識と技術で成功させたのだろう。
「僕は昔から負けず嫌いでね。妄者という理不尽な存在に屈するのが我慢ならなかったのだよ」
「ならお前も妄者になればいい」
「駄目なんだ。妄者になったら意味がない。僕は人間のまま妄者を超えたかった」
医者は毅然とした態度で述べる。
その双眸は、内なる狂気を垣間見せた。
揺るぎなき対抗意識だ。
俺は医者の精神力の根幹を悟る。
(人並外れた劣等感と拒絶。それがこいつの力であり、妄者になれない原因か)
この男なら妄者になる素質があるが、本人が拒んでいる。
妄者を嫌いながらも、憧れと劣等感を抱いていた。
そうして芽生えた執念が、奴の力を支えている。
医者は騎士を指差しながら語る。
「そちらの"妄者殺し"は卓越した戦闘技術で二つ名を得た。僕は知識で挑むことにした。その集大成がこの腕だ」
「大した成果だな。感動で涙が出そうだ」
「皮肉も称賛として受け取っておこう。君には理解できないことだからね。僕だけが僕の努力を知っている」
医者は己に言い聞かせるように語る。
表面上は正気を保っているが、実際はかなりの狂気を持っているようだ。
そうでなければ、妄者の移植なんて不可能であった。
俺は指の刃を擦り合わせながら観察を続ける。
(あの腕……よく馴染んでやがる。医術と死霊術の合わせ技か)
本人の能力を考えるに、そう解釈するのが妥当だ。
どちらか一方が欠けた時点で成し遂げられないことである。
医者は嬉しそうに片腕を撫でる。
「妄者は能力の発動を"哭く"と表現するね。僕はこの解放を"起こす"と呼んでいる。なかなかに的を射ているとは思わないかな」
「どうでもいい。さっさと殺し合おうぜ」
「やれやれ、血気盛んなことだ」
医者は肩をすくめると、妄者の片腕を前に持ち上げた。
そして、全身から禍々しい魔力を放出していく。
死霊術師の力だ。
奴を中心に土壌が汚染されている。
「妄者を超えた僕の力を披露しよう。あっけなく死なないでくれ」




