第46話 死霊退治⑩
俺は医者を観察する。
佇まいは素人ではないが、戦士とは違う。
近接戦闘の苦手な魔術師といったところか。
死霊術師という情報は本当だろう。
肉弾戦は不得手と思われる。
とは言え、魔術師がどんな隠し玉を持っているか分からない。
決め付けるのは早かった。
霧の幻惑だって持っていたのだ。
様々な能力を想定して動くべきである。
俺は観察しているうちに違和感を覚える。
(……こいつ、妙だな。何者だ?)
医者がおかしな気配を帯びている。
妄者ではないが、人間でもない気がした。
その中間とも言うべきか。
なぜか曖昧な領域といった印象を受ける。
理由を考えていると、医者が嬉しそうに語る。
「僕の正体を疑っているね。それも当然のことだろう。君ほどの妄者ともなれば、感知能力も極めて高い。僕がただの人間でないことにも気付いているはずだ」
「死霊術で何か仕込んでいるな?」
「そうだね、色々と弄っている。人体改造は得意分野なんだ」
両手を広げた医者は誇らしげに頷く。
自分語りが好きなタイプらしい。
こいつは成果を見せびらかしたいのだ。
「さっそくだが、君の疑問を解消してあげよう」
医者が右腕を掲げて、白衣の袖をめくり上げていく。
そうして露わになったのは、褐色肌の腕だった。
筋肉質で逞しく、濃密な魔力を内包している。
医者の肌はどちらかと言えば色白で、身体つきも細身だった。
その腕だけが異質なのだ。
よく見ると、肘の上あたりに縫合痕がある。
そこを境に肌の色が切り替わっていた。
(別人の腕を移植したのか?)
その時、腕が変貌を始めた。
皮膚が千切れて剥がれ落ちて、血の代わりに液体の金属が噴き出す。
それが徐々に硬質化し、ひび割れながらも定着した。
腕の表面に球体状のガラス玉がいくつも浮き出る。
色に規則性は無く、なんとなく視線を感じた。
ガラス玉の一つひとつが眼球の役割を担っているようだ。
変貌した腕は所々が錆び付いている。
あれは劣化ではない。
魔力の濃淡を表しているだけだ。
錆はむしろ力の象徴とも言える部分だった。
(間違いない。あれは哭いている)
魔術ではなく、妄者特有の力であった。
しかし、医者は妄者ではないはずだ。
これはどういうことなのか。
様々な疑問が一瞬にして湧き上がるも、俺はこれまでの情報から答えに辿り着く。
「なるほどな。妄者の死体か」
「その通り。死体から拝借した腕を触媒に、残留した力を使わせてもらった。普段は眠らせているから、君の感知でもはっきりとは感じ取れない。通常の妄者とは大きく異なる点だね」
医者は妄者の腕を移植し、人間のまま能力を行使できるようになったのだ。
ただ移植しただけでは不可能なので、おそらくは死霊術で活性化させている。
妄者は哭き止んだ状態でも感知できるが、この男の場合はそれが難しい。
ベースが人間のままだから中途半端なのだ。
奇妙な気配の正体は、移植によるものであった。




