第41話 死霊退治⑤
俺は煙草を味わいながら眉を曲げる。
一旦黙り込み、紫煙を吐き出しながら肩をすくめた。
「死霊術師だって? そりゃまた面倒そうな標的だな」
「ええ……教会でも対処に困っておりまして」
死霊術師とは、その名の通り死体や霊に関する術を扱う者のことだ。
その特性のせいで、魔術師の中でも忌避されがちな存在である。
国によっては死霊術そのものを禁術指定していた。
その能力は極めて高い。
戦場なんかで死体を操ることができれば、ほとんど無敵なのだ。
敵だろうが味方だろうが、死ねば死ぬだけ手駒が増えていく。
実際、英雄と呼ばれる存在にも死霊術師がいた。
珍しい系統の術だが、その有用性と脅威は認知されていた。
そんな存在が今回の標的らしい。
(神聖な立場を売りにする教会にとって、まさに滅ぼすべき悪だな)
倒すだけで良い宣伝になる。
ただ、俺を雇ったということは手に負えない戦闘能力なのだろう。
殺害だけは押し付けて、討伐したという事実は教会が貰うつもりなのかもしれない。
別に成果を掲げたいわけではないので好きにすればいいと思うが、都合のよい掃除屋として扱われるのは癪だった。
「死霊術師がいる廃村はどこにあるんだ」
「この街より北東に半日ほど進んだ地帯です。付近一帯に瘴気が蔓延しておりますのですぐに分かるかと」
ドエルは机に地図を広げながら説明する。
意外と近い距離だ。
哭いた状態なら往復しても半日とかからないだろう。
「標的と教会はどういった関係だい?」
「申し訳ありませんが、守秘義務があるのでお話できません」
「あんたはここの責任者だろう。義務くらいどうにかしろよ」
「……実を言うと、私も詳しく知らないのです。教会本部からの命令でして」
ドエルは気難しい顔で述べる。
視線は床を斜めに見ていた。
俺は二本目の煙草に手を出しながら鼻を鳴らす。
(少し嘘が見える。何かを誤魔化しているな?)
たぶんドエルは部分的に事情を知っている。
何も知らない風を装っているのだ。
それを俺に隠している。
(つまり騙そうとしているってことだ)
刹那、殺意が身体を衝き動かそうとした。
しかし、俺は自然体で抑え込む。
煙草をくわえたままドエルに手を差し出した。
「分かった。報酬次第で受けてやるよ」
「ありがとうございます。報酬も既に用意しております」
ドエルは俺の握手をさりげなく無視すると、ケースに入れた大量の金貨を運んできた。
「へぇ、随分と奮発しているな」
「前金で半分、成功報酬でもう半分をお渡しします。これでいかがでしょう」
「いいぜ。依頼を受けよう」
俺は手持ちの布袋に金貨をすくって入れていく。
だいたい半分を詰め込むと部屋の出口に向かった。
「死霊術師は俺のやり方で始末する。邪魔するなよ」
「はい。承知しております」
ドエルは胡散臭い笑みで応じる。
晴れ晴れとした表情の裏には、どす黒い悪意が隠れているのだろう。
(狸野郎が。いつか化けの皮を剥いで殺してやる)
俺は胸中の罵倒を呑んで部屋を出た。




