第39話 死霊退治③
敷地内を進んでいくと、やけに小汚い廃屋を発見した。
端にひっそりと建てられたもので、ちょうど樹木の陰にある。
まるで人目に付かないようにしているかのような配置だ。
俺は気になってその廃屋に注目する。
「おっ」
廃屋からのっそりと出てきたのは、妄者である筋肉男だった。
この前の代理戦争で一悶着あった奴である。
修道女に改造された挙句、大した戦果も挙げられずに死んだと思っていた。
どうやらそれは間違いだったようだ。
俺は鼻で笑いながら呟く。
「教会は妄者のペットを飼っているのか。変わった趣味だな」
「…………」
修道女は何か言いたげだが、反論してくることはない。
ここでむきになったところで無意味だと察したのだろう。
「どうしてあいつが生きているんだい?」
「先日の"妄者殺し"との交戦で重傷を負いましたが、なんとか治療できたのです。それをきっかけに、あの男も教会の所属となりました」
「治療というより、明らかな改造だと思うがね」
「――何のことでしょう」
修道女は澄まし顔でとぼける。
廃屋付近を徘徊する筋肉男は、弛緩した顔付きだった。
呻き声を上げながら彷徨っており、とても理性があるとは思えない姿である。
相変わらず頭を弄られたままらしい。
(それに、以前までとは姿が違う)
哭いた状態の筋肉男は岩の巨人だった。
改造された証拠として花が咲いていたが、そこに新たな特徴が追加されている。
具体的には、蝙蝠に似た羽や二本の角が生えて、衣服代わりに蠢く羊皮紙を巻き付けていた。
哭いた姿は固定されていないにしろ、あれはさすがに無秩序すぎる。
しかも、新たに増えた部位には別人の力が内包されていた。
自然発生したものではない。
(他の妄者の死体を使って改造しているな?)
教会は禁術の開発に熱心と聞いていたが、かなりの領域まで達しているようだ。
愉快な試みである。
妄者を差別している連中が、その妄者をさらなる化け物に進化させるとは、なんとも罪深い組織だった。
「まあいいさ。俺には関係のないことだ」
「ご配慮に感謝します」
俺は廃屋から視線を外して歩き出す。
修道女から安堵する気配が感じられた。
筋肉男に攻撃を仕掛けるとでも思われたのだろうか。
別にやってもいいが、まずは依頼を聞いてからだ。
教会での初仕事である。
台無しにするにしても、もっと状況が整ってからにしたい。




