第3話 その男は妄者③
階段を上がる。
途中、待ち伏せしていた男共を惨殺して、止まることなく二階に到着した。
「遠慮なくかかってこいよ。俺を殺してみろ」
挑発を交えつつ、手前から部屋を調べていく。
そこにいる人間を残らず死体にしていった。
どれだけ努力しようと、常人では妄者に敵わない。
連中の攻撃は、俺の身体を例外なく通過する。
藍色のスーツに弾痕が目立ち始めて、さらに返り血で染まっていく。
そうして俺は、大した時間をかけることなく最奥の部屋に辿り着いた。
中央にはローブを纏う背の低い男が立つ。
耳が長く、目の色が左右で違う。
混血の種族だろうか。
手には小さな杖を持っていた。
(魔術師か)
構えからして、それなりにやるようだ。
今までの男達とは少々違う。
たぶんこの事務所の用心棒だろう。
優れた魔術師は、単独で戦局を変えるとまで言われている。
用心棒としては最高峰ではないか。
(それで、あいつが事務所のボスだな)
俺は魔術師の背後に注目する。
立派な黒机の向こう側に禿頭の男がいた。
剣呑な雰囲気で俺を睨み付けている。
ボスに相応しい風格を備えているが、隠し切れない怯えで台無しだった。
「怖がるなよ。ちょっと殺すだけだ。すぐに終わるさ」
俺は肩をすくめながら言う。
その時、魔術師が動き出した。
杖を手に何かを詠唱すると、俺の足下だけが泥のように柔らかくなる。
あっという間に膝まで沈んで埋まってしまった。
(地形操作系か)
詠唱も速さも含めて感心する。
さらに左右の壁が迫り、俺を挟み込むようにして衝突した。
爆発に等しい音が室内に響き渡って土煙が舞う。
ただの人間なら一瞬で肉塊になる威力だった。
ところが挟まれた俺は無事である。
壁による圧迫で影の身体が軋むも、しっかりと原形を留めていた。
「やるじゃねぇか。こんな組織にいるのが惜しい人材だな」
俺は称賛の言葉を送る。
魔術師は表情を歪めて罵倒を洩らした。
「……化け物が」
「言われ慣れているさ。否定もしない」
魔術師とは、単独で大人数を相手取れる能力者だ。
妄者はそんな魔術師を軍勢単位で殲滅できる。
無論、個人の力量次第でその限りではない。
魔術師が妄者に打ち勝つことだってあるが、少なくとも今回はそうではなかった。
俺は挟み込んでくる壁を爪で切断すると、泥状の床を踏み締めながら抜け出して魔術師の前へ向かう。
天井が崩れて押し潰そうとしてきたので切り刻んで粉末にした。
後がなくなった魔術師は、悔しげに詠唱しようとする。
「くっ……」
「やらせねぇよ」
往復させた片手の刃が、魔術師の腕を瞬時に解体した。
肉と骨に混ざってバラバラになった杖も落下する。
それでも詠唱を試みるので喉を切り裂いた。
噴水のように飛び出した血が、真正面から俺を濡らしていく。
魔術師は信じられないとでも言いたげに目を見開いていた。
「相手が悪かったな。じゃあ死ね」
俺はそれだけ告げて腕を一閃する。
魔術師の首が回転しながら宙を舞う。
それは天井にぶつかった後、黒机にバウンドして床に落ちた。




