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俺と勉強会 上

一学期の期末考査が目前に迫った今日このごろ。

 中の上くらいの偏差値を持つうちの様な平凡な高校なら、常日頃予襲復讐をきっちりと、こなしていればそこまで慌てる必要はない。

 俺の目の前で偉そうにしている小さいのみたいに。

「おいフランケン、今日お前の家に行くからな。その幸せを噛み締めながら。部屋を掃除しとけよ」

 何様だこのチビ。因みにこいつのこの台詞は、中間、期末考査が近くなる度に言われるので、1年で6回聞ける。聞きたくはないが聞ける。要するに勉強を教えろということだ。なんか最近は俺もこの台詞を聞くとそろそろ試験も近くなってきたんだなと思うようになってしまっている。

 悪い兆候だ。

 因みに俺の成績は自分で言うのも何だが悪くはない。学年で30位位には入っている。常日頃から予習と復習はやってるからな。それにこんな面で頭も悪いなんてゴメンだ。面は簡単には良くはならないが、頭の方は努力次第で少しはマシになるのだ。

 まあ、それはそれとしてだ。俺は偉そうに訪問宣言をしている。七海に言ってやった。

「来るな」

「いやいや照れるなよ。普段お前の家によりつく女なんて母ちゃん位なもんだろうが、そんな荒廃した地に私がいけばあら不思議、そこには決して存在するはずのない一輪の花が……」

 無駄な抵抗だった。

「人の家を勝手に荒廃させてんじゃねえよ。このセイヨウタンポポ」

 どうだ、花だ満足だろ。お前はアスファルトでも突き破ってろ。

「お前今、私を侮辱したろ」

「……別に」

「まあ良いわ。今日は私があんたに世話になる立場だからね。大目にみてあげる」

 唯我独尊。既にこいつの中では決定事項らしい。なんつうか逞しく成長し過ぎだっての。こいつ、こんなキャラだったっけか?

「慎平はどうするよ?」

 慎平を呼び込もうと話を振ってみると七海がピクリと反応した。別にこいつを喜ばせるサービス精神でやったわけではない。俺のためだ。

 七海が来るのは最早避けられない。こいつは来ると言ったら来る。問答無用で来る。そして俺のあらゆるものをごっそりと削ぎとってゆく(主に精神的な方向で)。小波じゃなくて津波に改名しやがれ。ならばこそ、ここは慎平という緩衝材が必要なのだ。こいつが居るといないでは七海の行動に天と地ほどの差が出る。

 覚えておくが良い。慎平は七海の防波堤。俺が教師だったらここ、テストに出るからとか言っちゃうね。何の科目で出るのかは不明だ。

「うーん、どうしようかな」

 どうやらあまり乗り気ではないご様子。来てくれなくては困る。本当に困る。と言うか来てくださいお願いします。

「頼む、お願い。あの馬鹿に長時間勉強を教えるなんて俺の精神が持たない。お願い、助けて」

 馬鹿(七海)のことを馬鹿だと言っているのが馬鹿(本人)に聞こえないようにする為、俺は慎平に詰め寄り小声で懇願した。頼むよう。お前の嫁候補だろ。最後まで面倒みろよ。

 俺のそんな思いが通じたのか。慎平は状態を仰け反らせながらも了承してくれた。

「分かった。行く、行くよ。だから離れろ。ドアップはさすがに怖いんだよ」

 お前主人公だろうが。美少女のどドアップが当たり前のお前が、こんなちょっと顔が怖いだけの善良な一般市民に尻込みなんてしてんなよ。この先の展開で心臓が潰れても知りませんよ。

「そうか、助かる。正直胃に穴が空くかと思った」

「大げさな」

「……大げさだと思うか?」

 七海に勉強を教えるべく奮闘した過去の記憶を想い起こす。

 いつぞや、七海に地理を教えた時、沖縄県を海外だと勘違いしていた。

 数学を教えた時にはマイナスにマイナスを掛けるとプラスに成るという現象に納得がいかない七海に理由を教えろとごねられた。因みに俺もわからなかったので、仕方なしに調べ、七海に理由を教えようとしたら既に別のことに夢中だった。俺の時間を返せ。

「ふふ、ふふふふふふ……」

 あ、やべ。教える前からどっと疲れた。

「怖えよ」

 そういえばこいつ、七海との勉強会にはあまり顔を出さなかった記憶が、遠藤あたりはどこで嗅ぎつけるのか呼んでもいないのに押しかけて来るのに。まあ、結果として遠藤が来てくれた方が気が紛れていいのだが……くそ、またか。沈まれ俺のケツ。

「頼む、俺を一人にしないでくれ……」

「いや、一人ってお前……」

「そばに居てくれるだけでいいんだ。それだけでいいから」

「おいフランケン、なに慎平に言い寄ってんだよ。とうとうそっち方面にも目覚めたのか?」

 そっち方面にもって、お前の中では俺は何種類の趣向に目覚めたのですかね。

「黙れ、小娘。今俺はお前の為に講師の増員を要請してるんだ。お前はそこで俺の優さに感激して、喜びに打ち震えてろ」

「慎平来るの?」

 おうおう、微妙に嬉しそうにしやがってこの野郎、もういっそお前慎平に勉強教えてもらえ。

「ああ、そうしようかと思ってる」

「そ、そうなんだ」

 七海の様子がおかしい。何故目が泳いでいる。実に良い泳ぎっぷりだ。そのままマリアナ海にでも行っちゃって下さい。しかし、存外早く七海の目は泳ぎを中断し一点に集中した。何故俺を睨む。

「ちょっといいかな」

 俺の袖を取って慎平から遠ざかる。なんだってこいつ微妙に不機嫌なんだよ。

「ちょっと。なんでよりによって慎平呼ぶのよ!」

「あ?」

「慎平があんたの家に来たら、私の頭が悪いってバレちゃうじゃない。」

 …………それ、本気で言ってるの?いや、本気だ。なんせこいつ馬鹿だから。

 慎平が来てくれるのは嬉しいが、自分が馬鹿だというのはバレたくない。そんな微妙な乙女心か。成る程、微塵も共感できないが、ここは安心させるのが優先だ。  優しいい俺は、最大限言葉を選んでコイツに言ってやった。

「大丈夫だ。安心しろ。お前が馬鹿なのは皆知ってる。勿論慎平もな」

 今更隠せるもんでもない。いやむしろ今まで隠し通していたと思っていたお前が凄い。ある意味尊敬できる。

 そして、何だ。余計な不安を取り除いてやろうと思ったらなんで蹴ってくるんだお前は。そこは感謝するところだろ。

「やっぱり俺、行かないほうがいいんじゃないか」

 ダメですよ慎平さん!逃がしませんから。絶対に!

 俺はれダッシュで慎平へと詰め寄るとその肩をむんずと掴む。

「んなわけあるかよ。来い!絶対来い!こなかったら明日学校で酷いからな。それは酷いことになるからな」

 最早脅迫染みていようが関係ない。俺の勢いに押された慎平が、黙って顔を縦に振った。よし、緩衝材ゲットだ。

「他に誰か来るのか?」

「他?どうなんだろうな遠藤は誘えば来るんじゃないか?」

 慎平の問に適当に答えていると、杉崎が話しかけてきた。

「なになに、何の話してるの?」

 気まぐれなこいつは、話の輪に平気で入ってくる。

 さっきまでは他の女子生徒と話していたのだ。大方飽きて俺達に絡んできたのだろう。

 一見すると嫌われそうな振る舞いだが、不思議とこいつの悪口は聞いたことがなかった。

「ああ、今丁度鉄心の家で期末の勉強会でもしようって離してたんだ」

「へえ、鋼の家。どこの研究所?この辺りだと筑波とか?」

「……どこにでもある普通の一軒家だよ」

 この野郎、一の外見を馬鹿にするようなネタを……ちょっと……いや、かなり可愛いからって調子に乗るんじゃありません。

「こなみんも来るの?」

「いや、むしろその馬鹿がメインだ」

 杉崎はそうなんだ。頑張ってねと言い残すと、先ほど抜け出してきた女子達の輪の中へと戻っていった。本当にフリーダムな奴だよアイツも。

「アイツも誘ってみるか?」

 アグレッシブだな主人公。

「いや、アイツはこないと思うぞ」

 原作でも、杉崎が勉強に力を入れている描写は微塵も無かった。

「そうだな。勉強って感じじゃないしな。遠藤は、と」

 辺りを見回し、遠藤の姿を探す慎平は程なくして遠藤の姿を見つける。

 女子達に囲まれてにこやかに談笑している。羨ましい奴め。

「遠藤、ちょっといいか?」

 空気を読めない慎平が、遠藤に声を掛けたことで結果的に女子達のささやかな楽しみを奪う形となってしまった。突然餌を取り上げお預けを食らった女子はと言うと……俺を睨むな。お前らの餌を取り上げたのは隣の主人公だ。

 つーか、本当に校門の一見以来、女子からの風あたりが妙に強いんですが、なんか女の敵みたいな認識されてるんですけど、自業自得なのだが少し悲しい。

 男子生徒からは怖がられ、女子からは奪鬼だっきの如く嫌われる。段々と本来の鋼鉄心に近づきつつあるんだが、これが歴史の修正力か。

 やめろ、俺をそんな目で見るな。女子達の射殺す様な視線を受け。居た堪れない気持ちになった俺は、その視線から逃れるべく、遠藤と慎平への会話へと乱入していった。

 女って怖い。

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