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俺の意外な一面

 ギャルゲーの世界観とは時として結構ぶっ飛んでいる。

 例を挙げれば、妙に強い女の子が当たり前みたいに登場したりだとか、喧嘩に対して割とおおらかな感じであったりと、他にもあるが、挙げだすと割ときりがない。

 何がいいたいのかというと。俺が鋼鉄心として生きているこの世界も結構ぶっ飛んだ感じなのだ。

 俺の生まれ育ったこの町は古くから武術が盛んだったらしい。

 今でも多くの流派が戦国時代から続く己の流派に独自の改良を施し発展させている。

 この町ではそれらの流派同士での他流試合が公然と行われており。公式非公式にかかわらず年間かなりの試合が行われていると言ってもいい。

 非公式の他流試合といえば聞こえはいいが要はストリートファイトである。

 しかし、それらの試合に公的権力が働く事はない。

 役所に届け出れば非公式であろうと喧嘩も黙認されるのだ。

 何故、そんな治外法権的な措置が取られたのかはどうでもいい。重要なのはそう言った制度が存在していると言う事実だけだ。

 そして、皆さんお忘れではないだろうか。俺は朝もらっているんだよ。果たし状というやつを。

 ご丁寧に市の許可証まで同封されてたし。正直面倒臭さは120%を遥かに凌駕する。

 内容は確か放課後、体育館裏で待つだっけ。

 今がその放課後なわけなんだが……

「帰ろ」

 俺の持つ灰色の脳細胞が導き出した結論はそうだった。

 大体あの手の手合は勝手過ぎる。此方の都合も関係なしに戦え等と虫がいいにも程がある。

 戦って俺になんの得があるんだよ。大体このゲームは青春学園ラブコメなんです。バトル物になる予定はありません。よって俺は帰宅する。

「よし完璧」

「何が完璧なんだ」

 俺の独白に突っ込んできたのは慎平だ。

「いや、何でもない。早く帰ろうぜ見つかったら厄介だ」

「一体お前は何から逃げてんだよ」

「いやあ、実はさあ」

 俺は今朝方下駄箱に果たし状が投函されていたことを慎平に説明した。まあ、こいつの隣にはオプションで小さい馬鹿が付いてくるんだけどな。

「それでアンタは尻尾丸めて逃げるっての?うわ情けな」

 小さい馬鹿が何かを言っている。お前は俺に何か恨みでもお有りですか?

「考えてみろ。なんで俺が戦わなくちゃならんのだ?」

「そこに戦いが有るから」

「人をバーサーカーみたいに言うな。挑まれたからなんて理由で戦えるかよアホらしい」

「アンタからそんな人間らしい解答が出ることに驚きだわ」

「お前は普段俺をどういう目で見てくれているんですかねえ」

 俺と七海の間に流れた剣呑な空気を察したのか。珍しく慎平が間に割って入ってきた。

「ほらほら、小波も一々鉄心に突っかかるなよな」

 お、珍しい事もあるもんだ。慎平が俺に味方するなんて。

「二人共仲がいいのは分かったからあんまり見せつけてくれるなよ」

 ああ、君に期待した俺が間違ってた。

「仲良くない」「仲良くないわよ」

 否定しようとした台詞が見事に七海と被ってしまった。

 顔を見合わせる俺と七海。心底嫌そうな顔だった。俺も同じような顔だろう。

「ちっ」「ちっ」

 舌打ちまで被ったよ。

「どうしてくれるんだよ」

「はあ?こっちの台詞なんだけど」

 ああ、こいつマジで腹立つわ。なんで俺はこんなんと友達やってんだろうな。

「もういいや。さっさと帰ろうぜ。慎平」

 そう言って、俺はさっさと歩き出す。

「そうね。こんな奴放っておいてさっさと帰りましょう。慎平」

 そんなやり取りを聞いた慎平は苦笑いにでやれやれと漏らすと俺の後に続いた。

 俺は無言で七海は慎平と談笑しながら校門前に差し掛かった時だった。

「来るのが遅いからまさかと思って張ってたけど、本当に帰るとは思わなかったわ。鋼鉄心」

 後ろから掛けられた女の声。声をした方を向けばそこに立っていたのはやはり女だった。何処かの道場の服だろう。黒袴に木綿製の白い道着を着ていた。長い髪の毛を後ろで一本に束ねている。今どき珍しい和風美人だが、とにかく気が強そう。というか絶対に気が強いぞこいつ。

「第三高校のフランケンなんて御大層な呼び名だからどんな猛者なのかと思えば、果たし合いをスッポかして帰ろうとする腰抜けだったなんてね」

「なんだよお前」

 まあ、俺もそれは思ったけど、なんでお前が反応すんだよ七海。しかもなんで微妙に喧嘩腰?

「西岡菊乃……一応あなたと同じ学年なんだけど七海小波さん」

「お前の名前なんかどうでもいいんだよ。なんで私達に声かけたんだって聞いてんだよこの道着女」

 何やら戦闘モードになりつつある七海を冷めた目で見つめる西岡。しかし、本当にどうしたんだよ。

「ずいぶんと愉快なお友達をお持ちなようね」

 七海は無視することにしたのか俺と慎平に視線を移してそんな事を言ってくる。しかし西岡ねえ。どっかできいた事があるんだけど……何処だっけな。

 俺が考え事をしている間に慎平が口を開いていた。

「それで、俺達に何か用ですか?西岡さん」

 それを聞いた西岡が鼻で笑う。なんつうか、嫌な感じで笑うなこの女。

「あなた達になんて興味ないわよ。私があるのはそこで立ってる木偶の坊だったんだけどね。なんかもうどうでもいいわ。そんな腰抜け」

「なんだとう!」

 いや、だからなんでさっきからお前が反応するんだよ七海。それよりも気になる事が一つ。

「あのさ」

「なに?木偶の坊。木偶なら木偶らしく黙って立ってれば、できれば呼吸も止めてくれない。環境に悪いから」

 ふん、いまさらそんな暴言で俺がどうにかなるとでも思ってるのか?伊達に普段から七海と喧嘩してねえんだよ。

「今朝の果たし状の差出人ってもしかしてあんた?」

「……今更気がついたのね。どうやら頭の回転も鈍いみたいね」

 最早ゴミでも見るような目なんですけどこの人。なに?俺何かした?ああ、スッポかしたか。

「おいフランケン!」

「なんだよ七海」

 見ると七海は俺のことを睨みつけていた。

「お前悔しくないのか?」

「何がだよ?」 

「さっき戦う理由がないって言ってたよな!?」

「言ったな」

「戦う理由出来たじゃん!」

「は?」

 何を言っているのか分からない。しかも、なんでこいつがこんなに突っかかってくるんだよ。

「テメエが好き放題言われてんだろうがこの馬鹿。これでムカつかなかったら本物の腑抜けだってんだよ!!てかそんな奴私だってゴメンだね!!腰抜けは明日から私に話しかけんじゃねえ!」

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

「……あ?」

 今のは少しカチンと来た。

「テメエにだけは言われたくねえよこのチビ」

「ああん?腰抜けの玉無し野郎が私に気安く話しかけんじゃねえよ。なんだよ私には突っかかるくせにその女には無反応か!?長いものには巻かれる主義なのかテメエは」

「は?あんな女、鯛や平目狙って投げた投網に絡みついてきた海藻くらいどうでもいいんだよ!そんな奴の挑発一々相手にしてられねえだけだこの万年最前列(背の順)が!!」

「はん、口じゃなんとでもいえるわ!この口だけ野郎!それよりてめえ、この期に及んでまた私の気にしてることを!」

「うっせーチビチビチービ!」

「また言いやがったな!この顔面凶器が!顔だけの役立たず。腰抜け。ド三流。根性なし。バカバカバーカ」

「何だと?馬鹿っていった方が馬鹿なんだよ!この馬鹿!」

「ああん!?挑発されてビビって動けねえ馬鹿に言われたくねえんだよ!」

「ビビってませんー。どうでも良かっただけですー」

「はん?信じられるかこの腰抜け!」

「だから違うっつってんだろこのチビが!いいぜ、上等だよ!やってやろうじゃねえか!あんな海藻女1分で海の藻屑にしたるわ。その代わりテメエ俺が勝ったら謝れよ。絶対だからな」

「はん!やれるもんならやってみなさいよ」

 この女ぜってえ許さねえ。泣かしたる。

 決心を固めた俺は先程の海藻女に向き直る。

「よーし、お前、事情が変わった。今すぐかかって来い一分以内にケリ付けてやる」

「ず、ずいぶん勝手な心変わりだけど。いいわ、私も丁度いま貴方のその醜い顔をボコボコにしたかったところだから」

 何やら怒り心頭と言った様子だが、此方にとっては好都合だ。それを利用しない手はない。

「早くかかって来いよ。一分経っちまうだろうが海藻女」

 それを聞いた途端、海藻女が急激に間合いを詰めてきた。

「馬鹿に……するな!!」

 腹立ちまぎれに繰り出したにしては鋭い足刀蹴りだったが、一直線に突っ込んできた上に馬鹿正直に繰り出されたそれは読みやすいことその上ない。

 野球で例えると球威はあるが、球種の少ない投手のようだ。

 俺は繰り出された蹴りを半身になって躱すと、海藻女の裏側へ回る。

「……っ!」

 躱されるとは思っていなかったのか、一瞬動揺した海藻女は、慌てて俺の方へと向き直ろうとする。

 その時の体重移動の瞬間を狙って俺は小さい動作での下段蹴りを放つ。

「見くびりすぎだ!」

「……なっ!」

 体重移動の最中を狙われては回避行動も取れない。俺の下段蹴りは海藻女が戻しかけた蹴り足にあたる。モロにヒットした下段蹴りだが柔道の出足払いと同じ要領で蹴ったので痛みはそれほどない筈だ。

 代わりに海藻女の身体が宙に浮いた。

「…ちっ」

 宙に投げ出された海藻女だが、素早く身を翻し四つん這いで着地をすると低い体勢からの円を描く様な下段蹴りを放つ。水面蹴りというやつだ。動きを止めて一度間合いを取ろうと言う心算なのだろうがそうはさせない。

 繰り出された下段蹴りを低く飛んで交わすと海藻女は驚愕の表情を浮かべる。

 牽制の水面蹴りをかわされ、体勢を直しきれていない海藻女へと俺は寝技を仕掛ける。バックに着き右手で相手の左の横襟を握り、左手は相手の左脇を通して右の前襟を握る。相手に覆いかぶさり両足を相手の身体をロックしてそのまま仰向けに転がると襟を掴んでいた両手で相手の頸動脈を締めあげた。

 教科書の様に決まった送り襟絞めだ。この体制になれば脱出はほぼ不可能と言ってもいい。後はこの海藻女が負けを認めてくれればいいのだが、どうやらそのつもりはないらしい。両手で必死で俺の絞め技から逃れようとしているが、技がここまで決まってしまい。膂力でも劣る海藻女では無駄な抵抗にしかならない。

 もがく力が段々と弱くなり。やがては完全に力が抜けた。頸動脈を圧迫され、脳へ送り出される血流が止まってしまうと人間は一分も意識を保っていられない。落ちたのだ。

 俺はすぐに絞め技をとくとすぐに相手の上半身を抱き起こして胸に回している腕に断続的に力を込める。こうすることで胸を圧迫して脳に血液を送り込むのだ。

 海藻女はすぐに意識を取り戻すと、暫くボーっと俺と自分の身体を交互に見つめていた。

 意識がはっきりしてきたのか。次第に目の焦点が定まり。

「私の負けね」

 一言、ボソッと呟いた。

 ここまでやっておいてなんなんだが、冷静になって考えると凄い罪悪感だこれ。

 こいつの事無視しておいて。七海と喧嘩してムキになって挙句こいつの事絞め落として。

 やばい、なんか俺最低じゃないですか。

「あの、なんかすまん。いろいろ失礼なこと言った上になんつうか」

「別にいいわ。色々とムカついたのは確かだけど、正直、今でもかなりムカつくけど。貴方は私よりも強かった。その部分はハッキリしたんだもの。それに、色々と失礼だったのはお互い様だしね。私こそごめんなさい。あと……その、そろそろ離してくれないかしら」

「ん?」

 気まずそうに言う海藻女の視線の先を見てみれば、落ちたコイツに活を入れるために俺の手が彼女の身体に回されていた。遠目から見れば、俺が後ろから海藻女を抱きしめてる様な絵面になる。

 それより、ここ校門じゃねえか!しかも下校ラッシュ中の。

 周りの視線が痛い。それ以前に俺なにこんな大勢の生徒の前で格闘家とは言え女子生徒のこと絞め落としたの?やばい。もう周りからなに言われてもおかしくねえ。

 いや、この期に及んでまだそんなこと気にしてるあたり、俺って最低?いやいやいやしょうがないじゃん。だって人間だもの。

「あ、あの、聞こえてる?」

「おおう!す、すまん」

 内なる思考に没頭しすぎて相変わらず腕を回したままの俺に海藻女から再び声が掛けられる。

「きゃっ!」

 勢いよく離れすぎたのか。どうやら俺の身体に体重を預けていたらしい海藻女の身体は、意外に女の子らしい悲鳴と共に後ろへと流れた。

「おっと、すまん。急に離れすぎたか」

 変な日本語だなこれ。

「こ、こっちの落ち度だから。気にしないで。それじゃあ私、帰るから」

 まあ、多少変な言葉遣いだろうと相手に通じれば問題ない。

 海藻女は俺が手を話すとさっさと立ち上がり、帰ってしまった。

 締め上げすぎたからだろうか。多少顔が赤くて危なっかしい足取りだったが、大丈夫だろうか。

「やり過ぎたかな」

 そんな事を呟きつつ去りゆく海藻女を見届けていた俺にいつの間にか馬鹿とその保護者が近寄って来ていた。

「あれは、やり過ぎだな」

 あ、やっぱそう思う。主人公くん。

「なんだよ、やればできるじゃん。最終鬼畜フランケン」

 テメエは黙れ小さいの。

「それよりお前約束はどうした」

「なにが?」

「俺が勝ったら謝れって言ったよな」

「そんな約束した覚えねえよ」

「なに?」

「私はやれるもんならやってみろって言ったんだ。それをお前が勝手に勘違いして、あの女に鬼畜外道なセクハラ攻撃なんか仕掛けたんだろ。このエロガッパ」

 このチビマジでいったん泣かしてやろうか。

 しかし、よくよく考えてみたら、なんで俺あんなにムキになったんだよ。この馬鹿に謝らせるためってのもなんか理由としちゃあ弱くないか?なんか無理やり理由付けしたかんバリバリなんだが。

 まさか俺の深層心理では無意識に戦いを欲していたのだろうか。となると俺って本当にバーサーカー?

 ああ、なんか自分の将来が不安になってきた。

 その後も小さい馬鹿にいろいろと言われ続けていたが、自分が思っていた以上に好戦的だったことに対するショックで頭に入ってこなかった。

 ああ、俺ってダメ人間。

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