船のデザイン
祭りの翌日。
まだ町に祭りの余韻が残るうっすらとした静けさの中、ルーナたちは造船所のリーダーに呼ばれて足を運んでいた。
「お邪魔します」
ルーナが丁寧に頭を下げて入ると、職人の一人が太い腕で力こぶを作り、豪快に笑った。
「よう、ルーナの嬢ちゃん! 船の製造も大詰めだ。ほら、見ろよ!」
その指さす先を見た瞬間――ルーナは息をのんだ。
「これが……わたしたちの船……!」
巨大な骨組みはすでに外板で覆われ、いくつもの帆柱が堂々と並び立っている。
冬の陽光を浴びて、まだ未塗装の木肌が柔らかく光っていた。
胸の高鳴りを抑えきれず、ルーナはそっと船体に手を添える。
「ついに……本当に形になってるのね……!」
「ふっふっふ! これであたしたち、とうとう海に出られるのさ!」
「これでセレーネブルーに……必ず行けるんだ……!」
エルザは胸を張り誇らしげに、ティノは胸元の光貝をぎゅっと握りしめて呟く。
その表情には――信じていた未来が本物になったことへの震えがあった。
『これが船なんだね! ぼくより大きい~!』
外からぴょこんと顔を出したアルスが、興奮で尾をばたつかせる。
「こら、そんなに近づいちゃダメ。せっかくの船を壊しちゃうでしょ」
『ぼく、そんなことしないもん……!』
アルスはむくれて頬をぷうっと膨らませる。
その仕草にルーナは苦笑しつつ頭を撫でた。
そのとき、造船所のリーダーが咳払いをして皆の注意を引いた。
「船はもうすぐ完成だが……嬢ちゃんたちに、ひとつ頼みがあってな」
「頼み……?」
ルーナが首をかしげると、リーダーはふっと笑って腕を組む。
「あらかた造りは終わっちゃいるが、細かい美術面はまだだ。船体の模様、船首の像、舵輪の飾り……そういうのは、乗るお前たちの色を出した方がいい」
「――つまり、外観デザインのことですね」
ナミの冷静な補足に、エルザはぱっと目を輝かせた。
「ということは! あたしたちだけのオリジナル船にできるってことなのさ!?」
「その通りだ、エルザ。急がなくてもいい。じっくり話し合いな」
「任せてほしいのさ!」
胸に拳を当てるエルザの姿に、リーダーも豪快に笑う。
「楽しみにしてるぜ、嬢ちゃんたち!」
造船所を後にしたルーナたちは、宿の大部屋へ集まった。
机の上には紙と鉛筆、色付きのインク――創作の準備が並べられる。
「それじゃあ、デザインをどうするか話し合いましょうか!」
ルーナの声に、いち早く手を挙げたのは――もちろんエルザ。
「はいはーい! デザインはさ、アルスを中心にしたらいいと思うのさ!」
「キュイ?(え、ぼく?)」
窓から顔を覗かせたアルスが、丸い目をぱちぱちさせる。
「だってほら、ルーナといったらアルスでしょ? シャチの守護獣と名誉騎士――これ以上ない象徴なのさ!」
「ちょっとエルザ……それは単純すぎない?」
ルーナは苦笑しながらも、どこか嬉しそうに頬がゆるむ。
すると、ティノがもじもじとしながら口を開いた。
「……でも、いいと思う。ルーナさんとアルスがいなかったら、オレたち、ここにいなかったと思うから。その……仲間になれたのも……二人のおかげで……」
「ティノくん……!」
その言葉はルーナの胸にまっすぐ届き、温かな涙がこみ上げそうになった。
そこにナミが静かに頷く。
「わたくしも賛成です。アルス様は我々の象徴――強さと絆の象徴でございます。船にその意匠を取り入れるのは、最も自然かと」
「うん、決まりだな! アルス主軸のデザインなのさ!」
『ぼく、かっこよくなれる?』
「もちろんよ、アルス! あなたはわたしたちの誇りなんだから!」
ルーナは満面の笑みでアルスの頭を撫でた。
アルスは誇らしげに胸を張り、小さく尾を揺らす。
それから仲間たちは、紙を囲んであーだこーだとスケッチを始めた。
「船首はアルスの跳ねる姿を……いや、もっと威厳ある構図がいいかな?」
「帆の模様は波と星でどうでしょう?」
「舵輪には光貝の紋様を刻むのさ!」
「この流線、もっと丸く……シャチらしく……」
『それぼく? それもぼく? えへへ、なんか照れる~!』
机の上には消しゴムのクズが積もり、インクが跳ね、仲間たちの笑い声が響き続けた。
やがて、ルーナはふと顔を上げ、仲間全員の顔を見渡す。
(ああ……この船は旅の道具じゃない。みんなで作り上げる、私たちの未来そのものなんだわ)
胸がじんわりと温かくなる。
「みんな……素敵な船にしましょうね。世界で一番、私たちらしい船に!」
「「おーっ!!!」」
「キュイーッ!」
こうして――ルーナたちの仲間の証ともいえる船のデザイン作りが、本格的に始まったのだった。




