王都のハンターギルド
王都ノールセントに入ったルーナたちは、今後の行動を相談していた。
「これからどうする? まずはどこに行きましょうか?」
『お魚~!』
無邪気に魚をねだるアルスに、ルーナはくすっと笑う。
「あらあら、アルスは相変わらずね。でも、まずは――」
「ハンターギルドです! 素材を納品して報酬をもらいましょう!」
ニッケの明快な提案に、ナミも頷いた。
「そうですね。グリフォンの魔石をはじめ、貴重な素材がたくさんありますからね。資金を確保できれば、王都での活動も安定します」
「それもそうね。それじゃあ決まりっ!」
『え~、お魚はぁ?』
「お魚はあとでね。お利口さんにしてたら、いっぱいご馳走してあげるから」
『むぅ~……』
むくれるアルスをなだめつつ、ルーナたちは王都のハンターギルドへ向かった。
辿り着いたギルドは、フローラのそれとは比べ物にならないほど壮麗だった。
白亜の外壁に銀の装飾。
入口には白銀の狼を象った像が鎮座し、堂々たる気配を放っている。
「さすが王都のギルド……建物の威圧感まで違うわね」
「中に入るのも緊張しちゃうね~」
「行きましょう、ルーナさん。怖じ気づいては始まりません」
ニッケの言葉に背を押され、ルーナは重厚な扉を押し開けた。
中は整然とした事務的な雰囲気で、磨き上げられた床にブーツの音が反響する。
受付嬢たちは一様に黒い制服に身を包み、淡々とハンターたちの応対をしていた。
「静かね……フローラのギルドとは全然違う」
『でも、誰もぼくたちを見てないね?』
宙を泳ぐアルスの声に、ルーナは気づく。
周囲の視線は冷たくも温かくもなく――ただ「慣れている」目。
ここでは珍しいことではないのだ。
「王都では強者が多いですからね。アルス様のような存在も、特別ではないのでしょう」
「うーん、それはそれで悔しいような……」
「まあまあ、まずは報酬ですよ!」
受付に立つと、フォーマルな制服を着た眼鏡の女性が穏やかに微笑んだ。
「いらっしゃいませ。本日のご用件をどうぞ」
「あの、こちらの魔石を鑑定していただけますか?」
ニッケが差し出すと、受付嬢の表情がわずかに引き締まる。
ニッケが取り出したのは――黄金に輝くグリフォンの魔石だった。
「……グリフォン、ですか? どちらで手に入れられたのです?」
「それはですね、かくかくしかじか……」
ルーナが経緯を話し終えると、受付嬢は目を丸くし、声を潜めた。
「確かにこれは本物です。非常に珍しい品ですね。報酬をお支払いしますので少々お待ちください」
そう言って奥へ下がろうとしたそのとき――ナミがもうひとつの品を差し出した。
「それと、こちらも鑑定をお願いしたいのですが」
受付嬢が目を落とした瞬間、息を呑む音が聞こえた。
「これは……っ!? 一体、どこで?」
「先ほどのグリフォンに装着されていたものです。心当たりがおありなのでは?」
受付嬢は一瞬、表情を失い、それから静かに告げる。
「……失礼ですが、こちらへどうぞ。詳しいお話は人目のないところで」
案内されたのは、奥の簡素な控え室だった。
重い扉が閉まる音と同時に、空気が一段冷たくなった気がした。
――外の廊下では、アルスが首を傾げながら待っている。
その健気な姿が、これから訪れる不穏の気配をいっそう際立たせていた。
「――皆様は、魔物の違法取引というものをご存じですか?」
「魔物の……違法取引?」
思わぬ単語にルーナは目を丸くした。
対照的にナミはあごに手を当て、冷静に答える。
「つまり、飼育や召喚が禁じられた危険種が密かに売買されている……そういうことでしょうか」
「はい。近頃、王都ではその取締りを騎士団が強化しているのですが――」
受付嬢は声を落とし、周囲を一瞥した。
「時折、飼われていたと思しき魔物が脱走し、市民に被害を出す事例も増えているのです」
「その件と、この枷には関係があるのですか?」
ルーナの問いに、受付嬢は神妙な面持ちで頷いた。
「はい。報告のあった個体はいずれも、これと酷似した拘束具を装着していました」
「なるほど……つまり、飼育下の魔物に共通して使われていた証拠品ということですね」
ナミの推察に、受付嬢は短く「ええ」と答える。
「一体何の話してるんでしょうか……?」
「なんかすごく物騒なんだけど!?」
蚊帳の外のニッケとベルをよそに、受付嬢は枷を慎重に受け取りながら言葉を続けた。
「あなた方も、登録済みの魔物を連れていらっしゃるようですね。どうか怪しい取引業者にはお気をつけください。最近は、非常に巧妙な手口が増えております」
「分かりました。教えてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ。貴重な証拠品を届けてくださって感謝します」
控え室を出た途端、アルスが嬉しそうに飛びついてきた。
『ルーナ~!』
「きゃっ!? ちょ、ちょっと待って! そんな勢いで来たら――ぐえっ!?」
『ご、ごめん……』
すぐにしゅんと項垂れるアルスに、ルーナは思わず苦笑する。
けれどその瞳は、どこか怯えていた。
『ぼく……またルーナを潰しちゃったらどうしようって……』
その言葉にルーナはハッとする。
――前世で、自分を押し潰してしまったあの日のこと。
アルスは今も、あの記憶に囚われているのだ。
「アルス……」
ルーナはその大きな顔を両手で包み込み、そっと額を寄せた。
「安心して。わたし、もうあなたを置いてどこにも行かない。今度こそ、最後まで一緒に生きるわ」
『……ルーナ……!』
「だから泣かないで、ね?」
『うんっ!』
再び絆を確かめ合ったふたりの姿に、ナミたちは静かに微笑んだ。
受付に戻ると、先ほどの女性が厚みのある布袋を差し出した。
「お待たせいたしました。こちらがグリフォン討伐の報酬になります」
手渡された袋は、ずっしりと手に重い。
開けてみると、中には金貨がぎっしりと詰まっていた。
「こ、こんなに!?」
「金貨なんて、数枚見たことあるくらいなのに!」
動揺するニッケとベルに、受付嬢が説明する。
「グリフォンは三ツ星級の危険な魔物です。魔石の価値を考えれば、この金額は当然のものですよ」
「……ありがとうございます!」
受け取ったニッケは、そのまま袋をルーナに押しつけた。
「ルーナさん、これ全部ルーナさんとアルスのものです!」
「え、そ、そんなの受け取れないわ! 一緒に戦ったじゃない!」
「でも実際に倒したのはルーナさんたちです!」
「私たち、隅っこで見てただけだもん~!」
押し問答の末、ルーナは金貨を三枚ずつ彼女たちに手渡した。
「それじゃ、これでどう? みんなで分けなきゃ気が済まないの」
「ルーナさん……ありがとうございます!」
「えへへ、大切に使うね!」
そんな温かな空気の中、ナミがふっと口を開く。
「……まあ、いずれ使わねば意味のないものですが」
「ナミ、それ言っちゃうの!?」
全員が一斉に吹き出し、ギルドの中に笑い声が広がった。




