第3話 『記憶の亡霊』
銀河暦2089年。
地球低軌道上に浮かぶ、企業連合の廃棄研究衛星――
かつて、意識データ転送実験が行われた“禁断のラボ”。
その沈黙を破るように、無数の赤い光が点灯する。
> 《再起動プロトコル:Project-GALEN_02》
《起動条件:記憶データ一致率73%――同調開始》
人工脳の中に、かすかな“声”が響いた。
> 「……俺は、誰だ?」
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夜。
地上では、**カイ・レン=ヴォルド(ギャレン)**が、
ユリとともにマドクスのデータ回収拠点へ潜入していた。
巨大なコンテナ群の間を抜けるたびに、彼の視界にはフラッシュバックが走る。
赤い砂の惑星。戦場。
そして――「もう一人の自分」が、こちらを見て笑っていた。
「レン、顔色が悪いわ」
「……何でもない」
だが、彼の中のシステムが警告を発していた。
> 《同一周波数信号を検知》
《アクセス源:上空衛星軌道――》
「……まさか」
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マドクス衛星の中、
光の繭のようなポッドがひとつ、ゆっくりと開いた。
そこから現れたのは――銀の装甲を纏ったもう一人の男。
その胸部装甲には、赤い紋章が刻まれている。
> 「コードネーム:ギャレン=プロトタイプ0」
「俺は、カイ・レン=ヴォルド。
お前は、俺の“原型”だ」
モニター越しに彼を見つめるマドクス幹部・ドクター・マルスが笑った。
「面白いじゃないか。正義を語る実験体が、ようやく“感情”を得た。
だがそれは、我々の造った幻想にすぎん」
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地上のレンが空を仰ぐと、
雲の隙間から落ちてくるように、もう一人のギャレンが現れた。
「……偽物か?」
「偽物? どちらが“本物”だ?」
二人の声が重なる。
光子剣と量子ブレードがぶつかり、夜空に青白い閃光が走る。
衝突の瞬間、レンの脳裏に“記憶の断片”が流れ込んだ。
──研究所の爆発。
──泣き叫ぶ少女。
──そして、自分の声。
> 「……この記憶は……誰のものだ?」
「それは、“俺たち”の罪だ」
赤い目を光らせたプロトタイプ0が呟いた。
「お前は破壊された俺の“コピー”。
正義を装い、罪を忘れた亡霊だ」
レンの胸が焼けるように痛む。
ユリが叫ぶ。
「やめて! あなたたちは――同じ人間よ!」
しかし、二人のギャレンはもう止まらない。
> 「ギャレン・ブレード――起動」
「幻影コード――リリース」
衝撃波が街を飲み込み、光と闇が交錯する。
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戦いの果て、
瓦礫の中でレンは片膝をついた。
「……やはり、俺は……人間じゃないのか?」
ユリがそっと肩に手を置く。
「でも、“心”はある。
それがある限り――あなたは、あなたよ」
レンは空を見上げた。
そこには、赤い光を放ちながら離脱する“もう一人のギャレン”の姿。
> 「次に会う時、お前は自分の“真実”を知る」
声だけが夜空に残った。




