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The Game 26 感想戦(完)



夢から覚めた、そのはずだというのに現実は続いた。

市職員はゆっくりと瞼を開ける。

自身の様子を確かめる。


身体こそ改変者のそれだが、中身としては夢に属するため、吸い込まれて消えると考えていたが、存続していた。


「……」


違和感は無い。

何も変わらない。


あるいは、もう元のようには戻ることができないのかもしれない。

市職員が憶えている懐かしい日々は記憶の中にしかなく、夢や幻として扱われる。

きっと、そのような結末となった。


ひとつ息を吐いてから、骨組みしか残っていない場所で眠りこけるZさんを叩き起こした。

文句を言われたが、いつも通りだ。安心した。


最後の力を振り絞るように「演技」をした偽警官は、もはや身動きの一つも取れなかった。


「百年先も恋が続くような笑顔をかましてやりましたよ……」


偽警官は自慢げだ。

あの笑顔は、ようやく到着した友人を見た本物のSさんの表情だった可能性もあるのでは、とは思ったが黙っておいた。


二人を抱えて降りることはできないため、Zさんには自力で降りてもらうことになった。

これに対してもぶうぶうと文句を言われたが、元はといえばZさんの単独行動が原因だ。単独帰宅くらいはやって欲しい。


「というか、私が寝てた間に、本当に、なに起きたんですか……?」

「……」


剥き出しとなり風が吹き抜ける外の光景は、酷いものだった。


いつの間にか消失物に置き換えられていたものの大半が消え失せていた。

ほとんど野原のような姿ばかりがある。

とてもではないが、人口十万人を越える街の姿だとは思えない。


現実離れしているのは目の前の、五十人以上の人々が空中で吊られる様子も後押ししていた。

高層建築から放り出された彼らの落下死を、捕獲者が防いでいた。


全員どこか情けない顔で、何も無い空から垂れ下がる蜘蛛の糸を頼った。

ここで糸を千切ろうとする命知らずはさすがにいない。


するすると、全員が上へと引き上げられる。

彼らがどこに向かうのかは知らない。これが捕食のための行動か、救出のためのものであるのかも。


はるか下方では、Uさんが手を振り、Mさんが両膝をつき呆然と周囲の荒野を見ていた。


「さて……」


これから、どうしよう?


慎重にここから降りる以外の答えを市職員は持たない。

少なくとも、今この時はまだ。




その後の出来事は、混乱と共に秩序があった。


市の大半が消失した。

それは寝起きする環境が消失したということだ。


サバイバル環境で生き抜ける現代人は稀だ。

当然のことながら酷い有様となりそうなものだが、そうはならなかった。


人が減ったからだ。

人間が消えたという意味ではない。


むしろ鍵屋や病院がフル活動し、怪我人を次々に治したため、増えたとすら言える。

偽Sさんこと偽警官も、少しばかり背丈が縮み、時間もかかるが治るそうだ。


しかし、そうした人の大半が、移住した。

偶山の向こうの、「本当の妙求市」とやらに。


以前にRさんが見た、偽の妙求市だった。


そこでは崩壊前の妙求市が「ほとんどそのまま」の姿で残り、不自由なく暮らしている。

違和感がある、あるいは多少のズレ等はあるが、無視出来る程度の違いだそうだ。


きっと、捕獲者の狙いはこれだった。

自身の信奉者を厳選し、決して逃れられない場所へと囲い込んだ。


そこでは道祖神も青信号も『妙求市』もない。

捕獲者を邪魔するものがいない、自由を謳歌できる場所を造り出した。


捕獲者があの夢操者と手を組み攻撃したかった相手は、実は妙求市そのものだったのかもしれない。

閉じ込められていた檻から、ついに蜘蛛神は抜け出した。


その上で、毎日のように「本当の妙求市」への転居を誘うチラシが未来視であるCさんの元に届いているそうだが、これに関しては無視してくれとしか言えない。


ひょっとしたら、夢操者に対するSさんのような立ち位置に、Cさんはいるのかもしれない。

捕獲者のそれは恋愛的なものではなく、改変の欲求ではあるのかもしれないが。


今の妙求市はその様相そのままに、異常と常識がランダムだ。

何も素直に信用はできない。

常識は個々人により異なり、外部との連絡は上手く行かず、市役所内ではZさんが集めた消失物が残存している。


「はあ……」

「ため息つきたいのはこっちです!」

「職員さん、つらいんですけど、寝たいんですけど……」


そうして、今日も対処課は忙しい。

夢操者の影響を受けた人の大半は、元の妙求市に残っていた。


影響の度合いが強い人は、どうやら「壊れる以前の妙求市」をいまだに見ている。

この現実認識の違いが、多くの摩擦を引き起こしていた。


具体的には車の運用だ。


何も無い荒野を走る人と、きちんと交通規則を守る人との間に齟齬が生じた。

ちょっとした衝突など日常茶飯事だ。


たいていの場合は無視出来る程度のものだが、中心街となればその混雑はカオスを招く。

そのため、影響者による車の侵入を一部地域で禁止するべく、せっせと作るはめになった。


注意看板を。


サインキューブと呼ばれるこれは、公的に車の行き来を禁止するものだ。

消失物で作成されており影響下にある人間にしか見えず、無理に通ろうとすれば事故を起こす。


これらを妙求市中心部をぐるりと囲むように置いた。


どうしてアイツが通れて俺が通れないのだという文句は、すべて無視した。

結界内に入る資格がないからだと言っても通じはしない。


「ただ、やっぱり懐かしいです、こういうの作るの」

「慣れてますよね」

「前にやっていましたし?」

「市職員は苦手だ……」


三人で顔を突き合わせながら作業をする。


「職員さんは口をあまり動かさないでください、また左頬が裂けますよ」

「縫えばいい」

「……ホッチキス止めは、見てると痛いからやめて欲しいです」

「なぜ」


左頬の傷は、多少残るかもしれない。


「お店、だいたい消えてますよね」

「居酒屋が……」

「けれど流通そのものは止まっていない、店を再建すれば戻る」

「いえ、ですが」


起きたゴタゴタにより、人間関係がギクシャクとした人たちがいる。

異常により与えられた力を忘れられず、どうにか取り戻そうとする人もいる。

大切な相手が、あるいは自分自身が人間であるかどうかを悩む相談も寄せられている。


困難極まりない状況。

問題は日々重なり続ける。

そのすべてとはいかない。


だが、妙求市対処課はこれに対処する。



挿絵(By みてみん)

              


偶山

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/74/


注意看板

https://ncode.syosetu.com/n9386ju/1/



妙求市対処課からのお知らせは、本回にて終了です。

今までご拝読、心より感謝申し上げます。

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