第九十五話 風の魔剣士
「んッ、キュラが立ち上がった? あの妖精が持っている瓶はもしや、魔毒回復アイテムか。まぁよい、デステールビーよ、一斉に血祭りにあげろ。だが、ウィードは殺すな」
フォライーは空中で権勢するように杖を横に振った。
「ぐがあ、フォライー様、承知いたしました」
ジりりと間合いを詰め動き、デステールビーは鋭い眼光を光らせた。
「この場にいる者、あの小僧以外全て殺してやる」
「いけない、逃げて!」
ウィードだけだった、デステールビーが放とうとした罠を察知したのは。
みな、尾に気を取られて羽を動かしているのに気が付かなかったのだ。
「死毒鱗粉」
デステールビーから、鱗粉が飛んでいく。
キラキラ光る切粉のようだった。
しかし、それだけではなかった。
レイティスがそれに気づいた。
「な、なんだこの刺激臭と粉は?」
「いけない、それは! 皆さん目を閉じて、息をしないで、早く、その粉を吸っては……」
ウィードの制止も遅く、すでに皆の下へ鱗粉と異臭は舞い降りていた。
「ぐがぁ、」
「がぁ、息が」
「目が、目が痛い、息ができない」
「レイティス、団長、アザレ副将軍!」
「ま、まさか、毒の粉?」
ファイの顔色が豹変した。危機を察した。空気に乗ればいくら魔剣士といえどこれだけは躱せるものでもない。
レイティス、アザレ、オネイロスは三人ともその場に倒れこんだ。微かな息しかない。
デステールビーは不敵な笑みを見せた。傲慢に屠っていた。
「ぐひひ、気づくのが少し遅かったようだな。少しでも吸えば、お前らは死ぬ」
「ぐ、いけない、俺もすっちまったようだな、意識が朦朧とする」
そういうと、ファイは額を手で押さえ前のめりにばたりとこけた。
「ファイ―、死なないで」
ニミュエが素っ飛んできた。なぜか、毒が効いていない。
ボンは遠くに避難していた。臆病だった。
デステールビーが首を傾げた。
「どうしてだ? 何故、あの妖精だけには効かぬ?」
「がはぁ」「ツッ」
「エリュー、テアフレナ!」
続けて、エリューとテアフレナも意識を失い毒の鱗粉でその場に倒れた。
それをウィードが垣間みた。
「(いけない、このままでは全滅だ、奴には見せたくないが、能力を使うしか)」
ウィードは拳を握った。手袋を履いていた左拳が薄っすらと光った。
そのときだった。
「ぐ、ウィードッ、俺には判るぞ、魔剣が共鳴している。お前は魔剣士だろ? どうして力を使わない、喉が、ぐあぁ」
「ヒョウさん!」
ヒョウも鱗粉の凶弾に倒れた。近くにいたレギンもだ。しかし、ニミュエが音速で飛び次々と負傷者をポイズンプリズナーで毒から救出している。
ポイズンプリズナーが尽きる前に倒してしまえば、勝算はあった。
しかし、今の状況、近づけば吸い込み毒が蔓延する。生きるか死ぬかだった。
デステールビーが眼光を再び光らせた。
「ぐへへ、氷の魔剣士といえど、毒にかかればいちころよ、ぐへへへ」
「くそぉ、お前らゆるさないぞー」
ウィードの怒りが爆発した。
フォライーが注意深くその様子を見遣った。
「ん、なんだ? 妙な闘気を感じる?」
「気を付けろ、デステールビー、あれは、魔闘気だ! もしやあやつ」
「魔闘気? まさか」
敵の視線がウィードに集中した。助かっているものの視線もだ。
「ディスチャージ!」
ウィードがそういうと、右手に変わった形をした剣が現れた。
刀身に妙な闘気を発するような切れ目があった。
これはもしや?
ウィードは怒りがこみあげていた。表情がきつかった。
「魔剣フィンウィンド!」
「何? フィンウィンド、風の魔剣か!」
フォライーは驚愕した。まさかと思ったのだ。魔神剣士がエトワル帝国にいるとは考えられなかったのだ。しかも一国の皇族だ。
「ウィード様が風の魔剣士だと?」
キュラが倒れながら片目を開きその様子をみていた。
その場にいた意識のあるもの全員が驚きの色を隠せなかった。
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