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幻想怪物討伐組織  作者: 眼鏡 純
ゲームブック小説のルール説明&プロローグ
7/176

 十刃はスラム街を駆け抜け、スラム街から一番近い(ハウラ)の前に到着した。そこには先に数人の男女が集まっていた。

「おい!青茶金の三人が(ハウラ)の外に出たって本当なのか!」

十刃が尋ねると、一人の男性がある物を取り出した。

「これが(ハウラ)の近くに落ちてあったんだ。」

男性が十刃に見せたのは、腕時計のような形をした特殊な腕輪であった。

「これって確か…狩人(カサドール)の奴等が装着している腕輪じゃないか。」

十刃が記憶の中を探り、腕輪の正体を告げる。

「どうやらこれを(ハウラ)にかざすと、穴が空くみたいなんだ。」

男性が実践すると、本当にバリアに人一人通れるほどの穴が空いた。

「これであいつ等は外に出たのか。でも何でこれがそこら辺に落ちているんだよ?」

十刃の言う通り、狩人(カサドール)の装備品がこんなスラム街の外れに落ちているのは流石におかしい。

「発見した時には川の中に生えている草が付着していた。恐らく外で亡くなった狩人(カサドール)の物が流れてきたんだろ。それを青茶金が拾って…そのまま外に…」

「……貸してくれ!」

十刃は男性から腕輪を奪い取り、(ハウラ)に腕輪を認証させて穴を空けると、そのまま外へと飛び出した。穴は十刃が通過してすぐに塞がった。

「おい十刃!お前まで出る意味はないだろ!世界の希望(ワールドエルピス)に報告して狩人(カサドール)に捜索してもらおう!」

男性が必死に呼び止めるが、

「そんな時間はない!外には幻想怪物達がいるんだぞ!」

十刃はそう反論すると、男性に背を向けて走り去っていった。

「おい!十刃!………早く世界の希望(ワールドエルピス)に連絡を!」

男性はすぐに他の人達に指示をだした。



 この世界に誕生して二十年。初めて(ハウラ)の外へと出た十刃は、青茶金の安否の不安と共に、全てが初見の風景に心がワクワクして落ち着かない。

(これが外……!これが……世界!)

十刃は自然と笑みを零すが、本来の目的を思い出し、グッと気持ちを引き締めた。

 そして数分後、自然溢れる小さな丘の頂上に辿り着いて麓の方を見下ろすと、そこには図鑑などでしか見たことがない野生動物が生息していた。

(これが世界…俺が見ていたものなんて氷山の一角未満じゃないか…)

目の前に広がる圧倒的大自然に、十刃は見事に魅了されてしまい、心地よい風に赤い髪の毛を靡かせた。

 十刃が暫し世界の広さを堪能していると、丘の麓に目的である青茶金三人組を発見した。三人は興味津々に草むらに生息している昆虫に夢中になっていた。

「いた…!おい!お前等!」

十刃は怒りが籠った声で叫びながら丘を下る。青茶金の三人は十刃の声に気が付き、丘の方に視線を向けるとギョッとした顔になった。

「お前等!何をしたか分かっているのか!」

青茶金の三人の前で仁王立ちする十刃が巻き舌混じりで怒鳴ると、青茶金の三人は肩を窄めた。十刃は一言二言怒ると、大きく深呼吸して心を静めた。

「………とにかく細かい説教は後だ。早く(ハウラ)の中に戻るぞ。」

十刃が一緒に帰るように命令すると、金髪の漣と茶髪の将司の二人は素直に頷いたが、青担当である弟の十峰が反論した。

「もう少し…もう少しだけ外の世界を見ていこうよ!」

「ふざけるな!(ハウラ)の外には幻想怪物共が生息しているんだぞ!悠長に観光なんてしてられるか!」

弟のわがままの内容があまりにもだったため、兄は鬼の形相で怒鳴った。しかし、弟は引き下がらない。

「でも!もう二度と外の世界を見る機会がないかもしれないじゃん!兄ちゃんだって初めて外の世界を見た瞬間、この世界の広さにワクワクしただろ!」

図星だった。生涯見ることなく、想像の世界として終わるのだろうと思っていた場所にこうして立っていることに、十刃自身も探究心が掻き立てられている。正直なところ、もっと見てみたい欲求はある。しかし、ここで青茶金と共に外の世界を探索していて、もしも幻想怪物や危険な野生動物に襲われて死んでしまったら元も子もない。

「……ダメだ!今すぐ帰るぞ!」

十刃は掻き立てられる探究心を抑制すると、三人に早く丘を登れと促した。十峰は腑に落ちない顔をしているが、兄の真剣な顔を見て渋々了解した。

そして四人は漣と将司が前、緋雀兄弟が後ろという形で、アズマキョウへと帰るべく丘を登り始めた。


───刹那


緋雀兄弟の前方から突如爆風の如く風が発生し、十峰は左後方へ、十刃は右後方へ吹き飛ばされた。

ゴロゴロと丘の麓まで転がり落ちた十刃は俯せに倒れ、全身を痛めたせいでなかなか起き上がれない。唯一動かせる顔を前に向け、翳む視界の中で見たのは、頭を強く打ったのか、横向きに倒れて気を失っている弟の十峰の姿であった。

「十…峰…!」

兄として弟を守るべく、言う事を聞こうとしない体を無理矢理片膝がついた状態まで起こした。そしてふと丘の光景が目に入った瞬間、体中にゾワッと鳥肌が立った。

先程まで自分達が登っていた丘に、巨大な金棒が一本突き刺さっていたのだ。その先端には大量の血が付着しており、周囲にはちらほらと肉片が飛び散っていた。どうやら『何か』が巨大な金棒によって潰されたようだ。

「……っ!」

十刃は理解した。そして理解した瞬間に理解したことを後悔した。

あの金棒で羽虫の如く潰された『何か』の正体──漣と将司だ。

つい数十秒前まで自分の前を生きて歩いていた二人が、グチャグチャのミンチへと変貌を遂げている事実に、十刃の心は瞬く間に恐怖によって支配された。それにより足はガクガクと勝手に震え始め、片膝で立つのも困難となり、ペタンと座り込んでしまった。

 そして足だけでなく全身も震え始めた十刃と、今も痛みから起き上がることが出来ない十峰の間に入るように、金棒の所持者が姿を現した。

 ズシン…ズシン…と重低音を響かせながら緋雀兄弟の方へ近付いてくる。身長約三メートル、熊の如く手足、逆立つ赤き髪の間から二本の鋭い角が顔をだし、髪と同色の髭は伸び放題の巨大な鬼が現れた。背中には自分の半分ほどの大きさの瓢箪を背負っており、その貫禄は正に怪物。

(こい…つは…!)

幻想怪物に対する知識が疎い十刃でも分かった──この鬼の正体を。


 幻想怪物の中には『幻想三大怪物』と称される三体の幻想怪物が、陸海空にそれぞれ一体ずつ存在する。そんな幻想三大怪物の中で陸を統べる幻想怪物、それが紛れもなく、今目の前に現れたこの鬼──『酒呑童子(しゅてんどうじ)』である。


 丘の麓に到着した酒呑童子は、ゆっくりと前傾姿勢になると、先端が血まみれの金棒を地面から引き抜いた。そしてぐるんと顔を十刃の方に向け、狂気に満ちた真っ赤な眼でジッと十刃を睨んできた。

心はずっと逃げろと叫び続けている。だが、体は動いてくれない。

十刃は直感した───自分は死ぬと。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

十刃が死を覚悟した時、酒呑童子の背後から叫び声が聴こえてきた。どうやら弟の十峰が最悪のタイミングで目を覚ましてしまったようだ。

酒呑童子は標的を十刃から十峰に変更すると、のっそりと体を反転させた。


 目が覚めたら目の前に三メートル級の怪物がいる──それがどれほどの恐怖か想像もつかないが、客観的に見てもこれだけは理解出来る──


──絶望という感情だけは。


「にいちゃ………!」



───グチャ!



何が起きた。

何でそこに弟の姿がない。

何で弟がいた場所に金棒が振り下ろされている。

弟は…俺の唯一の家族はどこにいった!


 十刃は酒呑童子の足と足の間から十峰が見えていた。だが今、その間から見える景色は、より血がこびり付いた酒呑童子の金棒のみが見えている。

そして畳み掛けるように、十刃の目の前に自分に伸ばされていた右手が空中から降ってきて転がったのだ。

十刃はドクドクと真っ赤な血を流す綺麗な右手を、瞳孔が開かんばかりに目を見開いて呆然と眺める。


ここまで見せられると、阿呆でも理解出来る。


弟であり、唯一無二の家族の緋雀十峰は──


──殺された。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


十刃は涙を大量に流しながら、喉が潰れるほど叫んだ。

十刃の精神は瞬く間に絶望の渦に飲まれ、どんどんと崩壊していく。

 そんな精神崩壊をしかけている十刃の方に、酒呑童子はぐるっと体を反転させると、ゆっくりと近付いてくる。

 十刃は涙が零れる赤き瞳で酒呑童子を睨みながら、震えが止まった足で立ち上がる。そして視界の端で一本の木の棒が落ちていることを確認した。


〔木の棒を拾い、立ち向かう→F─1へ〕


〔敵わないと判断し、逃亡する→F─2へ〕

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