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《プロローグ》
時は2XXX年。人類の技術が飛躍的に成長した世界。モニターは空中に投影され、車は謎の力によって空を飛び、政府や裕福な者達はワープ装置で世界を行き来する。何棟も立つ高層ビルの下を歩く老若男女の中には、清掃用や警備用の人型ロボット達が至極当然のように動いている。ここまで技術が発展していると、某猫型ロボットがいてもおかしくないだろう。
ここまで技術が発展した世界に生きる人類は、さぞ不自由のない生活を送っているのだろうか。
──答えは『NO』だ。
今から百年前、『幻想怪物』と呼ばれるモンスター達が何の予兆もなく世界中に出現した。
幻想怪物とは、神話に登場する神や幻獣、日本に伝わる妖怪や幽霊など、人類が語り継ぐ幻想世界のモノ達全てを指す言葉である。例え姿形が人間であろうと、非現実的な生物は皆そう呼んでいる。
そんな幻想怪物達は、『幻想三大怪物』に数えられる三体を筆頭に、瞬く間に勢力を広げ、たった数日で人類を脅かす存在となった。
人類はこのままでは絶滅してしまうと思い、『檻』と呼ばれるバリアを展開し、その中で幻想怪物の脅威に怯えながら日々を暮らしている。
だが、人類もずっと逃げているわけではない。数ある国の中から、最も技術が優れている国──『メカリア』。その国に住む『ビギニング』一族が史上初の『幻想怪物討伐組織』を設立した。
その名は──『世界の希望』。
ビギニング一族は、武器等をデータ化させ、そのデータが入ったチップを腕時計型の特殊なスキャン装置で読み取ることにより、目の前にデータ化させていた武器等を出現させる技術──『Arme Chip System』と、身体能力を究極の域まで強化する液体が入ったビー玉程度の大きさの球体装着装置──『Ultime Force』と、ユルティムフォルス使用中に限りなく力を発揮するための対幻想怪物討伐兵器──『Fantasy Matar』の三つを開発し、各国の軍隊へ配ると同時に世界の希望を設立することを促した。
この話に最初に承諾したのは、『ジャンパ』と呼ばれる国であった。当時ジャンパ軍元帥であった『祖猟勇』は『世界の希望ジャンパ本部』を首都『アズマキョウ』に設立すると、国内の地区ごとにも基地を設けて展開した。
世界の希望設立はジャンパ加入をきっかけに増加し始め、現在はほとんどの国に世界の希望が設立され、世界を取り戻すために幻想怪物達と死闘を繰り広げている。
そんな世界で二番目に世界の希望を設立したジャンパ国。その首都アズマキョウの中央に位置する場所に巨大な基地がある。ここが世界の希望ジャンパ本部の中枢である。基地の中央には円柱型の高層ビルが一棟建っており、その中のパーティー会場である表彰式が始まろうとしていた。
「皆様静粛に。」
ステージの端に立つ司会の男が、マイクを通して会場中に告げると、ザワザワしていた会場はシンと静まった。
「これより先月の試験の結果に基づき、今年から結成することになった『ナンバーズ』に選抜された九名の発表を行います。改めて『ナンバーズ』についてご説明しますと、皆様に全く同じ試験を受けてもらい、その中で九位以内に入ったメンバーで結成した言わば精鋭部隊の事です。では、名前を呼ばれた者はステージに上がって下さい。」
司会の男は左手でファイルを開くと同時に、会場の照明が消えて暗くなった。
「それでは第九位から発表します。九位は……『玖朧天星』」です。」
スポットライトが照らしたのは、徳利を傾けてお猪口に焼酎を入れている女性であった。身長百七十センチ、紫の瞳に銀色のストレートロングの髪をもち、高級な草履を履き、紫を基調とした花魁が着るような肩を露出した着物を身に纏い、立っているだけで妖艶を漂わすこの女性。健全な男であれば最低一回は魅了されるだろう。そしてやはり目がいくのが、歩くだけで揺れる豊満な胸。恐らくFは確実だ。ここまでの妖艶なる外見をもちながら、現三十五歳とは到底思えない。
「あれまぁ〜あてが選ばれたん?なんか恥ずかしいわぁ。」
京言葉のような口調で話す天星は摺り足で移動を始め、右手にお猪口、左手に徳利を持ったままステージに上がった。
「次に第八位です。八位は……『道山八龍』です。」
次にスポットライトを当てられたのは、身長百八十センチ、黒の瞳にオールバックにした茶髪をもち、Vネックの服の上からライダースジャケットを羽織って、ウォッシュ加工されたデニムを穿き、ブーツを履いたワイルドなおっさんであった。
「俺が選ばれるだと?おいおい、若人共は何をやってやがんだ…」
渋い声で呟く八龍は、手入れされた顎髭を触りつつ、首にかけるシルバーのネックレスを揺らしながらステージに上がった。
「スゴいなぁ八龍はん。五十やのに精鋭部隊に選抜されるやなんて。」
天星がクスクスと笑いながら八龍にお猪口を持たせ、徳利を傾けて焼酎を注いだ。
「もうちょっと若者には頑張ってほしいもんだねぇ。あと、俺はまだ五十じゃねぇ四十七だ天星嬢。」
八龍は年齢を訂正してから、貰った焼酎をグビッと一口で飲み干した。
「次に第七位です。第七位は……『漆夜霧宗』です。」
次にスポットライトが照らしたのは、身長百七十六センチ、白フレームの眼鏡をかけ、少し釣り目の茶色の瞳と無造作の灰色の髪をもち、エージェントの如くキッチリとしたスーツを身に纏う男性であった。
「この私が七位ですか…」
なにか腑に落ちない顔をしている霧宗は、その顔のままステージに上がった。
「よう霧宗、七位おめでとう。」
八龍が渋い声で霧宗を祝うが、
「あの程度の試験で私が七位なれるとは、全体能力値が減少しているのではないのでしょうか。」
世界の希望全体能力値に疑問を抱くだけで、霧宗は素直に喜ばない。
「何千何万といる中で七番目になったんだぞ?今はその事実に素直に喜んでおけよ。二十六の男はまだまだ自分の事だけ考えておけって。」
八龍がガハハと笑いながらバシッと霧宗の背中を叩く。霧宗はズレた眼鏡をクイッと戻し、フンと小さく鼻を鳴らした。
「続いて第六位です。第六位は……『舞葉六夢』です。」
スポットライトが当てたのは、身長百五十八センチ、宝石の如く美しい銀の瞳に紫色のパーマロングの髪をもち、西洋人形のような白と紫を基調とした可愛らしいゴスロリを着た少女であった。
「えっ!?わ、私ですか!?そ、そんなわけありません!」
六夢が何かの間違いだと必死に訴えるが、
「いえ。この手元にある結果表にしっかりとあなたの名前が記されています。」
司会の男が間違っていないと言い切る。
「そんな…私が精鋭部隊だなんて…」
現状に付いていけず、六夢がスポットライトの中で困惑していると、
「スゴいじゃん六夢っち!」
と、いきなり六夢に一人の少女が抱き付いた。
「よ、『四葉』!く、苦しいよ…!」
六夢は自分に抱き付く四葉という名前の少女を必死に離そうとする。
四葉──フルネーム『鳴子部四葉』。百六十二センチ、黄色の瞳に黄緑色でショートボブの髪をもち、可愛らしいハートの柄が入ったTシャツにホットパンツを身に纏った少女は、嫌がる六夢の顔に対してしつこく頬擦りをする。
「あの…そろそろステージに上がってくれませんか…」
イチャイャする六夢と四葉に、司会の男が早くステージに上がるように促す。
「す、すいません!」
六夢は四葉を振り払うと、急いでステージへと上がった。
「……え〜では気を取り直して第五位を発表します。第五位は……『伍峠凛之介』です。」
「しゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
スポットライトに照らされる前に叫び、天井に拳を突き上げたのは、身長百七十五センチ、黒色の瞳に目立つ金髪リーゼントをもち、更に目立つ赤色の派手な特攻服を身に纏う男であった。スポットライトが時間差で凛之介を照らすと、会場中がザワザワとする。ザワザワ声に耳を傾け、意見を集計して一つの結論を出すとするならば、『有り得ない』であった
そんな囁きを意に介さず、凛之介は誇らしげにステージに上がっていく。
「やるじゃないか凛之介。流石は俺が見込んだ男だ。」
八龍が嬉しそうに凛之介の背中を叩く。
「へっ!俺が本気を出せばざっとこんなもんよ!」
凛之介がドヤ顔で応える。
「貴様のような奴が私より上?どんな汚い手を使ったのですか?」
霧宗が凛之介をゴミを見る目で睨みつける。
「そういうことはまず俺を超えてからほざけよ。四つ上の先輩さん?」
ニヤニヤと煽るように笑って返答する凛之介。霧宗は殺してやろうかと思ったが、時と場合が違うため、グッと殺意を抑えた。
「それでは第四位を発表します。第四位は……『鳴子部四葉』です。」
スポットライトが照らしたのは、先程六夢に抱き付いて頬擦りをしていた少女、鳴子部四葉であった。
「やっっっっっっっっったぁぁあああああああああああ!六夢っちぃいい!また一緒の部隊だよぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
四葉は自分がナンバーズに選ばれたという事実より、六夢と同じ部隊にいられるという事実の方に歓喜した。そして高速でステージに上がると、また六夢に抱き付き、顔に頬擦りをする。
「や、止めてよ四葉〜!」
六夢は恥ずかしさから顔を赤らめつつ、自分に引っ付く四葉を離そうとする。
「あれまぁ十八歳コンビが両方とも選抜かいな。おめでとうさんお二人とも。」
天星が六夢と四葉を祝うと、四葉が六夢に抱き付いたままピースして応えた。
「それでは第三位を発表します。第三位は……『参花歌綾』です。」
スポットライトが照らしたのは、身長百六十七センチ、朱色の瞳に三つ編みにした綺麗な橙色のロングヘアーをもち、武道袴を身に纏った女性であった。
「これは光栄なことだな。」
綾は選ばれたことを素直に光栄と思いながらステージに上がる。
「おめでとうございます綾さん。」
ようやく四葉を離すことが出来た六夢が、綾の姓得部隊入りを祝う。
「ありがとう六夢。共に人類のために頑張ろう。」
綾が笑顔で答えると、六夢も笑顔で頷いた。
「これは後で酒で祝い……と、綾はまだ未成年だったな。」
八龍が話の途中に謝罪するが、綾がクスッと笑った。
「私はもう二十歳ですよ道山殿。」
「そうだったか。年からの物忘れには逆らえないねぇ。」
八龍が自分の記憶力の衰えに悲しんでいると、
「その時はしっかりとフォローしますから安心して下さい。」
綾がしっかりとフォローを入れると、八龍がサンキューと礼を言った。
「それでは第二位を発表します。第二位は……『園明寺二牙』です。」
スポットライトが当てたのは、身長百八十一センチ、赤色の瞳に水色の無造作ヘアをもち、カジュアルの服装の上から白いロングコートを羽織っている爽やかな男性であった。
「おや?僕が二位か。欲を言えば一位が良かったんだけどな〜」
まるで選ばれることは当然のような感想を呟く二牙がステージに上がると、会場からキャー!と黄色い歓声が飛び交った。二牙がその声援に爽やか笑顔で手を振ると、更に歓声が飛び交った。
「けっ!いつもいつも飽きずに歓声貰いやがって!」
女性から大人気の二牙を分かりやすく妬む凛之介。二牙は凛之介の耳元に口を近付けると、
「欲しければくれてやるよ。あんなキーキー叫ぶだけの猿女共であれば。」
爽やかな声で非常に腹黒いことを囁いた。
「……お前のその性格を知ったらどんだけの女が幻滅するんだろうな。」
凛之介が馬鹿にするように言うが、
「それでも馬鹿な女は外見が良いだけで寄ってくるものなのさ。」
ノーダメージの二牙は爽やかな笑みを浮かべた後、凛之介の肩をポンと叩いてから別の場所に移動した。
「……けっ、俺よりも三つ上なだけでこうも違うものか…」
凛之介は自分と二牙の圧倒的モテ度の差を妬むしかなかった。
「それでは栄光の第一位を発表します。第一位は……『壱桜麗華』です。」
スポットライトが最後に当てた人物は、身長百七十二センチ、緑色の瞳に桜色のストレートセミロングの髪をもち、ジーパンにパーカーというボーイッシュな服装を身に纏う女性であった。
「…………」
麗華は特に何か言うわけでもなく、淡々とステージに上がった。
「やっぱり君が一位か。流石は壱桜家の血族。その姓は伊達じゃないね。」
二牙が麗華に話しかける。
「それは君もではないか。園明寺二牙よ。」
淡々とした口調で返答する麗華。
「…その言い方はよしてくれないかな。僕は君みたいにこの姓を誇りたくないんだ。」
二牙は爽やかな笑みを浮かべるが、そこに込められた感情は少し闇を感じた。
「……そうか、それはすまなかった。」
二牙の心中を察した麗華は、特に表情を変えずに謝罪した。
「それでは選抜された九名は一列に並んで下さい。」
司会の男はバラバラに立っていたナンバーズを、向かって右から九〜一の順番に並ばせた。
「会場の皆様、今ここにナンバーズが結成しました。大きな拍手をお願いします。」
司会の男が拍手を促すと、会場中から祝福の拍手が壮大に送られた。そして拍手が鳴り止むと、司会の男が進行する。
「では次にナンバーズの隊長となる者を発表します。」
「なんや。あて等の中で決めるんちゃうんか。」
焼酎を飲み終えた天星は、現在煙管を吹かしている。
「俺等の中で指揮をとれる奴なんているのかよ。」
天星の隣で八龍が笑う。
「仮にとるとしたら綾っちだね♪」
四葉が綾に微笑みかける。
「止めとけ止めとけ。綾が隊長になったら一日を完璧なスケジュールによって支配されちまうぜ。」
凛之介がケラケラと笑うと、綾が失礼なと不機嫌な顔になる。
「それでは発表します。ナンバーズの隊長となるのは……『数希晴字史大佐』です。」
名前が発表された瞬間、会場がざわめいた。
「数希晴字史…『雷槍の達人』や『人間兵器』の異名を持つあの人が僕達の隊長になるのか。」
二牙が言うと、それに麗華が乗った。
「だが、このメンバーを従えるには適している人。」
「その意見には賛成だね。」
二牙が麗華の言葉に賛同した時、司会の男が進行する。
「本当はここで本人からお言葉を頂くつもりでしたが、現在任務のため不在です。ですので、このままこの表彰式を終了させてもらいます。今からは各自自由に行動しても構いません。それでは皆様、お疲れ様でした。」
司会の男は一礼すると、ステージの裏に姿を消した。
「さてと、とりあえずこのまま親睦会でもするか?」
八龍が今からの行動を提案する。
「八龍はんはただお酒が飲みたいだけやろ?」
天星に図星を突かれた八龍はハハハ!と笑う。
「それに親睦って言っても全員見知った顔だしね。ね!六夢っち〜?」
また抱き付こうとする四葉をひらりと回避する六夢。回避された四葉はショックから四つん這いになって項垂れた。
「私は用があるため失礼します。」
最初に去ったのは霧宗であった。
「俺もパス〜!」
次に去ったのは凛之介。
「私も失礼する。」
次に麗華がさらりと去った。
「すまない。私も今から修行の時間なのだ。」
次に綾が残ったメンバーに一礼してから去った。
「はっ!そうだ六夢っち!前に話していたクレープ屋今日からオープンなの!今から行くよ!」
ショックから立ち直った四葉は、六夢の腕を掴むと直ぐにそのクレープ屋へと走り去った。六夢の叫び声は虚しく小さくなっていった。
「あても新しい焼酎貰ってこよかね〜♪」
ほろ酔い状態の天星が楽しそうにその場を去った。
「……大丈夫かよこの部隊…」
最後に残った八龍が、この協調性ゼロ部隊の未来が心配になり、大きく溜め息をついた。
同時刻。首都アズマキョウ最西端にあるスラム街。ここにはお金がない者や身寄りのない者が集い、互いに協力して暮らしている。どれだけ技術が発展したとしても、このような貧富の差は起きてしまうようだ。
そんなスラム街に、ある兄弟が暮らしていた。
捨てられた廃材や木々で作られた四畳ほどの小さな家。金を持つ者からするとゴミが家の形をしているだけに見えるだろう。だが、この兄弟にとっては立派な家なのである。
「兄ちゃん早く起きてよ〜!もうすぐお昼だよ〜!」
年齢十歳、青い瞳と髪をもち、タンクトップと短パンを身に纏った弟が布団に包まっている兄を起こす。
「ん〜…」
なかなか開こうとしない瞼を無理矢理開け、赤い瞳を見せた兄は、のっそりと上半身を起こす。
「これで飯が貰えなかったら兄ちゃんのせいだからな!」
弟は兄を怒ってから家を先に出ていった。
「お〜…今行く〜…」
赤い瞳に赤の無造作の髪をもち、弟と同じ格好をしている兄は布団から出ると、壁にかけていた着古したジャケットを羽織ると、自分達の家を出た。
「かっかっか!やっと起きたか『十刃』!二十歳の若者が老いぼれより寝ていてどうするんじゃ!」
真っ白で伸び伸びボザボザの髪と髭を生やし、曲がった腰をそこら辺で拾った丈夫な木の棒で支える、ホームレスという言葉を具現化させたような老人が笑いながら十刃という名の兄に話しかけてきた。
「朝三時に起きているジッサンより早く起きるってことは、それ徹夜と変わらないからな。」
寝ぼけている状態でツッコミを入れる十刃。
「ほりゃ早うせんと配給を貰い損ねるぞ。」
「そうだった…じゃあ行ってくるよ。」
十刃はジッサンと呼ばれている老人を置いて、配給されている場所に小走りで向かった。
配給はスラム街の東側で行われており、パンの他に保存性の高い乾物などが配られている。
「兄ちゃんこっちこっち!」
先に配給の列に並んでいた十刃の弟─『緋雀十峰』が、兄─『緋雀十刃』を手招きする。
「ギリギリだよ兄ちゃん!」
プンプンと怒る弟に対し、
「悪い悪い。後で俺の分のパンやるからよ。」
「ほんと!約束だからね!」
十刃のご機嫌とり作戦にまんまと引っかかった十峰はすぐにご機嫌になった。
数分後、列の先頭に人型ロボットが運転する巨大トラックが止まり、人型ロボット達による配給が始まった。緋雀兄弟も配給のパンや干し肉などを貰い、自分達の家へと戻った。
「いただきまーす!」
十峰は十刃から貰った分のパンを加え、ご機嫌に食べ始めた。十刃は干し肉の切れ端をガムの如くクチャクチャと食べている。
「なぁ兄ちゃん。」
「ん〜…?」
「檻の外ってどれだけ広いの?」
「そりゃ〜…めっちゃだろ。」
「真面目に答えてよ!」
適当に答える十刃に対し、十峰がムッとする。
「仕方がないだろ。俺だって行ったことないんだから。」
十刃が干し肉の二切れ目を食べる。
「……いつか檻の外に行けるかな?」
十峰の声が妙に真面目であったため、十刃も何か真面目に答えなければならないなと察し、赤い髪をクシャクシャとしてから答えた。
「……『狩人』の連中がこの世から幻想怪物を狩り尽くしてくれたらじゃないかな。」
「いつになったら狩り尽くしてくれるかな?」
「さぁな。少なくとも俺達みたいな奴等はただ待つしか出来ないよ。」
十刃が配給で貰ったペットボトルの水を飲み干した時、家の外から何かが崩れた音がした。
「……十峰は家で待ってろ。」
十刃は警戒した面持ちで家を出ていく。十峰はパンを食べながら兄を見送った。
十刃が出て数分後、緋雀家に来客が訪れた。
「おーい十峰!」
それは十峰と同じ年の男の子の二人組、金髪の漣と茶髪の将司であった。
「ん?どうしたの?」
パンを食べ終えた十峰が用件を尋ねる。
「面白いもん見つけたんだ!十峰も来るか?」
将司が興奮気味に十峰を誘う。
「ん〜…」
十峰の頭の中で、好奇心と兄との約束が葛藤する。十秒ほどの脳内会議の結果、
「行く!」
好奇心が勝利し、十峰は将司と漣と共に何処かへ行ってしまった。
「たく…一体何事かと思ったよ。」
十刃は崩れた音の正体──倒壊した家の前で呆れている。
「いや〜悪いな十刃。どうやら柱が老朽していたようだ。」
倒壊した家の主である無駄にマッチョの男が、顔の前で両手を合わせて謝っている。
「はぁ…直す材料はあるのか?」
十刃が尋ねると、マッチョ男が首を横に振った。
「ちょうど切らしていてな……よし!今からちょっと都心で材料買ってくるよ!」
マッチョ男が都心に向かって走り出す。
「おい!金はあるのかよ!」
その背中に向かって十刃が叫ぶ。
「大丈夫だ!昨日のバイトでたんまり貯めたからな!」
マッチョ男は顔を横にして答えた後、進行方向に顔を戻して都心へと走り去った。
「はぁ…」
十刃は特にやる事がなくなったため、一旦家に戻ろうと思った時、
「十刃!」
男女混じった数人の集団が十刃の名を呼んだ。
「どうした?」
集団全員の顔が切羽詰まっているのを察し、十刃の顔も真剣になる。
「『青茶金』の三人が何処にもいないの!」
ショートヘアの女性が焦った声で状況を話す。
『青茶金』──このスラム街では有名な仲良し三人組のことである。その中の青担当は、紛れもない十刃の弟である緋雀十峰である。
「はぁ!?何で…!十峰は家にいる筈じゃ…!」
突然の出来事に戸惑う十刃。
「とにかく十刃も探してくれ!」
集団は十刃にも探すように頼むと、何処かに走り去った。
「……あのバカ!」
十刃は約束を破った弟に怒りを覚えるが、大きく深呼吸をして心を落ち着かせた。
(まずはあいつ等がよく場所を探すか……となれば、『川辺』か『都心』か…)
〔川辺へ行く→D─1へ〕
〔都心へ行く→D─2へ〕




