コルウィ
「うっ!!グハァ心臓が!」
エゴールが胸を抑え、苦しみを訴える。
優雅とエリックは困惑し、
エゴールの元に駆けつける。
「エゴール大丈夫か、」
エリックがエゴールの背中を擦る。優雅の目に映るエリックのその姿は、さっき人間を殺した人間には見えなかった。
その傍ら、向こうでは血の流れた子供の死体が転がっている。
優雅は困惑しながらも自分のポーチからスプレータイプの止血剤と、キトサン性の軍用包帯を取り出し、エゴールのもとへ駆け寄る。
これは、生物兵器だ。
エゴールはガスマスクを付けていたが発症した。
本当に謎だ。
何が発症の原因なのか……
この病原体が発症すると、
体中で内出血を起こし紫色になる。
やがて肉は削げ落ち、血だらけになって死亡する。
優雅とエリックはなぜか絶対にこの感染症には感染しない。
「念の為、エゴールにはガスマスクをつけさせていたというのに……」
エリックが無念さからか拳を固め、アスファルトを殴り続ける。
一瞬、高笑いが一同の耳に入った。
そしてその直後、濃い霧と共にスーツを着こなした男が目の前に現れた。
「こんばんは、コミュニスト諸君」
優雅とエリックの後ろから、クロスボウを構えた兵士が5、6人出てきた。
「か、囲まれた……!?」
エリックが、エゴールを寝かせ囲んでいる兵士を睨み言う。
「腕につけているのはアメリカ海兵隊の記章……さしずめ、ブルジョワのプチブル共か」
戦場に似合わない、スーツを着た男。彼は他の兵士達にカーネルと呼ばれていた。
その男が口を開く。
「本来──こういった状況で、これが私の部隊でなければ君達は殺されるが、どうやら君達にはユースティティアの加護があったようだ。」
「優雅、君には役割がある。そこにいる二人にもだ」
「 私はいつも考える。
自分が人に殺されるということはなんと幸せなことか、と。
なぜかって?
私達は人類という個体の生物ではなく、
法という集団的な生き物だからだ。
私が殺されることによって、
その私達が創り上げた法が活性化する。
犯罪には犯罪に対処する抗体が必要なのだ。
犯罪が無くなり、全てが平和という世界最大の偽善に包まれた時。
世界からは抗体さえも消え去り、外界からの攻撃に非常に弱くなる。
私は罰されない殺人が大嫌いだ。
この、今のアメリカのやり方なんて特に……
だからまずはこのやり方を抹殺する。 」
エリックは立ち尽くしながら優雅の前に手を添える。
「要するにカーネルとやら、あんたはプチブルのアメリカではないということか……?」
「察しが良い、優秀な兵士だ。君に優雅を任せておいて良かった。そうだ、私達は既存のアメリカではない。」
「既存のアメリカではない……?なら何なんだ、お前らは」
「そう。私達は"コルウィ"」