act2‐4 脈略がないのはいつものことです
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「そういえば、この学校に魔が集まるのって、『魅』の魔石が原因らしいね」
暗い洞窟の中、話題がないのも気まずいので適当に話題を振ってみた。
「え?」
それは、俺が思い描いていた反応とは違い、クレゼールさんはアホ見るような目で見てきた。
「その情報、どこで手に入れたの?」
「えっと、生徒会長だけど?」
すると、クレゼールさんは頭に右手をあてて深く溜め息をついた。
「残念ながらそれは間違いよ」
「そうなの!?」
「あたりまえじゃない! そんな簡単なものだったら私が気づかないはずないわ」
「・・・」
よく考えてみればその通りだ。
「じゃあ、『魅』属性ってどんな効果なんですか?」
俺の質問に対して、クレゼールさんは悩むような素振りで目をつぶった後、純粋な瞳をこちらに向けて言い放った。
「わからないわ」
「・・・」
「・・・」
「はい?」
一瞬間の逡巡の後、俺の口から放たれたものは何とも間抜けな声だった。
「いくら魔女とは言っても、博学とは思わないことね。興味がないことを勉強しようだなんて思わないわよ? ふつう」
なんとも聞きたくなかったカミングアウトだ。
「じゃあ、なんで引き寄せる原因じゃないってわかるの?」
「あたりまえじゃない! 引き寄せられている時点で『魅』という属性とわかるのよ? そんなところに無関心無警戒で近づいてくる物好きがいるわけないでしょ?」
なるほど・・・。
「ふりだしに戻る、か」
俺の心が澱んでいくのは、単に洞窟の中だからという理由だけではないだろう。
そんな時、クレゼールさんが急に立ち止まった。
「ヒナ!? ここどこっ?」
「どこって・・・?」
学校の地下洞窟のどこかとしか言い様がない。
「ここ、地球じゃないわ!」
・・・え?
「ましては魔界でもないわ!」
大事なことなのでもう一度。
「・・・え?」
何を持ってそう判断したかはわからないが、厄介事に巻き込まれたことは間違いなさそうだった。
***
何をどうするわけでもなく、2人してさ迷い歩いていると、どこからか『ガチャ、ガチャ』という金属が定期的に地面とぶつかっている音が聞こえてきた。
「誰か来るわね」
その音を足音と判断したクレゼールさんは、立ち止まりつつ目を細めて、音のする方を見据えた。
その警戒を見習って、俺もすぐに動けるように身構える程度のことをしておく。
それ以上のことは素人同然なので任せっきりだ。
やがて、薄暗い洞窟の中でうっすらと見えてきたのは、ボロボロになった革の胸当てと錆び付いたグリーブを装備した人影だった。
腰には安っぽい剣が掲げられており、装備に隠れていない部分はアルビノ以上の白い手足、肉付きの悪い腰周りは恥骨がくっきりと、顔は陥没した目に欠けた歯並びがくっきりと目視できる以前に頭蓋で間違いない。
いかにもファンタジーな装備を誇る彼(もしくは彼女)は、紛れもなくアンデット系モンスターの代名詞『骸骨剣士』そのものであった。
「うわー、キャラかぶってる気がする」
仮にもこちらはゾンビハーフで、言葉さえ通じてしまえば仲良くなれなくもないこともないことはないだろう。あ、2週まわってなれるってことね。
仲良くなりたいとは思わないけど・・・。
「そんなことはないわ。ヒナは魂ごと現世に縛り付けているけど、あの下級骸骨は操作系の魔術によって動かされている存在よ。記憶を持つ個体はいるけど、それはあくまで体に刻み込まれた記憶ね」
解説ありがとうございます。この魔女は何を学んだことがあるかわからないから怖いね。
「結局は術者がいるってことだよね。案内とか頼めないかな・・・」
こちらの言葉を理解したのか、骸骨はコツコツコツと顎の開閉を繰り返すと、右足を上げて・・・、こちらにふみこんできた。
腰の剣をぬいたているあたり、交戦する気でしかないのだろう。
「どうするの?」
俺の口調に不安がないのは、死なないことを実感済みであることと、となりにクレゼールさんがいるからだろう。
「任せたわ。面倒だし・・・」
相手の動きは鈍く、丸腰の俺でも倒せそうな気がしてくる。
ただし、カガクテキに考えると骨だけで体を動かせるはずもなく、剣を持つなんてもってのほかだ。
ここがもし王道ファンタジーなら、個体値が極端に低い骸骨兵が大量に発生するか、自動再生能力のついたボス級が片手の指にも満たない数でうろついているかのどちらかだろう。
まあ再生能力なら俺も持っているから、後者の場合は不毛な争いでしかないだろう。
そんなどうでもいいことを頭の中でグルグルと回している間に骸骨との距離が詰まってきた。
骸骨は大きく剣を振りかざし、その筋肉のない頬は少しだけ吊り上がったかの様にみえた。
俺は振り下ろされる直前に行動を起こした。
1歩を踏み出し、骸骨に拳が届く間合いまで近づく。この時点で骸骨の振り下ろしが始まる。
武術家の見よう見まねで腰を下ろした俺は、そのままある一点を狙ってアッパーの様に拳を振り上げる。
その一点とは骸骨が剣を握る手、つまりはカウンターではなく攻撃を中断させることが目的の一撃である。
さて、こんなファンタジーまみれの一戦の中にも、カガクで説明できることがある。
それは、運動エネルギーと相対速度についての話。俺は物理の教授ではないので一言で説明することは困難であるが、それでも絶対的に言えることがある。
「手痛ったーーー!!!」
ゴンッ、と重低音を残して衝突した右手が痛い。
その甲斐もあって、骸骨の手の骨は一部砕け、握っていた剣は中空を舞って近場に刺さった。
「当たり前よ! 魔術くらい使いなさい」
そのクレゼールさんの言葉とともに飛来する黒い影。
その黒い影もとい俺の魔術書は、勢いよく骸骨のこめかみにクリーンヒット。
よって骸骨の頭蓋がふっ飛んだ。
それと同時に骸骨の胴体は崩壊を始め、やがては動かなくなった。
読んでいただきありがとうございます。
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