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EISENWALD ONLINE《アイゼンヴァルト・オンライン》  作者: うっちー
MAGAZINE02 M1911

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8/9

BULLET3:アイアンボア


アイゼンヴァルト西区。

外縁森。


ジョンは木々の間を歩きながら、周囲へ視線を巡らせていた。


湿った土の匂い。

葉擦れの音。

時折吹き抜ける風。

遠くからは、初心者プレイヤーたちの発砲音が聞こえてくる。


――ダンッ!


少し遅れて、別の方向からも銃声。


――ダンッ! ダンッ!


サービス開始直後ということもあり、森の入り口付近にはまだ多くのプレイヤーがいた。

剣を振る者。

銃を構える者。

仲間と声を掛け合う者。

逆に、一人で黙々とモンスターを探している者。

そのほとんどが、まだこの世界に慣れていない。


ジョンも同じだった。

だが、最初に森へ来た時とは少し違う。

歩く速度。

周囲を見る余裕。

敵の気配を探る感覚。

そして――銃の扱い。

少しずつ、この世界での戦い方が身体へ馴染み始めていた。


ホーンラビット。

フォレストウルフ。


何度か戦闘を繰り返すうちに、M1911A1の反動にも慣れてきた。

最初は大きく跳ね上がっていた銃口も、今では次弾を撃つまでにある程度戻せる。

リロードのタイミングも分かってきた。

残弾を確認する。

敵との距離を見る。

射線を確保する。

撃つ。動く。また撃つ。

単純な動作の繰り返し。

だが、その一つ一つを自分で行うからこそ面白い。


ジョンは茂みの向こうへ視線を向けた。


ガサッ。


葉が揺れる。

一瞬だけ止まる。

風ではない。


「……来るな」


次の瞬間、灰色の影が飛び出した。

フォレストウルフ。

地面を蹴り、一気に距離を詰めてくる。


ジョンは銃を構え狙う。

一瞬だけ呼吸を止める。


――ダンッ!


弾丸が前脚へ命中する。

フォレストウルフの身体が傾いた。

だが止まらない。

そのまま突っ込んでくる。

ジョンは一歩だけ横へ移動した。

距離を維持する。

そして――


――ダンッ!


二発目……頭部。


続けて三発目……首元。


フォレストウルフの身体が大きく揺れた。

そのまま地面へ倒れる。


「よし」


ジョンが銃口を下げる。


視界へウィンドウが表示された。


---


【LEVEL UP】


【Lv8】


---


「おっ」


思わず声が出る。


「もうそんなか」


ここまで来るのに、思ったより時間が掛からなかった。

というより。


「夢中になりすぎてたな」


周囲を見回す。

気が付けば、森の入り口からかなり離れている。

街へ戻ることも考えたが、ジョンは視界へ表示されたレベルを見つめた。


Lv8。


そして、もう一つ。

スキルポイントの表示。


「……そういや、スキル」


最初の頃に一度確認しただけで、まだ取得していなかった。

せっかくレベルが上がったのだ。


「折角だし、そろそろ取ってみるか」


ジョンはその場で立ち止まり、メニューを開いた。

半透明のウィンドウが視界へ浮かび上がる。


---


【取得可能スキル】


《ATKブースト》


《AGIブースト》


《PHYブースト》


《オートリロード》


《フルバースト》


《チェンジ》


etc.


---


「へぇ……」


思ったより種類は少ない。

だが、一つ一つを見ると役割はかなり違っている。

ジョンは上から順番に説明を確認していった。


---


《ATKブースト》


攻撃力を一時的に強化する。


---


「分かりやすい」


火力を上げる。

単純だが強い。

今のジョンにとっても魅力的な選択肢だった。

次。


---


《PHYブースト》


身体能力全般を補助する。


---


「万能型か」


攻撃だけでなく、身体能力そのものを底上げする。

悪くない。

むしろ使いやすそうだ。

さらに下を見る。


---


《オートリロード》


ストレージ内の予備マガジンを使用し、通常のマガジンチェンジ動作を省略してリロードする。


---


「これも便利だな」


特に銃を使うジョンにとっては有用だ。

リロードの時間を短縮できる。

ただし、今の自分に必要なのかと考えると少し違う気もする。

さらに下。


---


《フルバースト》


装填されている弾丸を一斉に発射する。


---


「……これ、使い方次第だな」


強力そうではある。

だが、弾薬を大量に消費する可能性が高い。

それに、今のジョンは一発一発を狙って撃つ戦い方を気に入っていた。

そして最後。


---


《チェンジ》


ストレージ内の武器を瞬時に呼び出し、交換する。


---


「武器交換か」


これも便利だ。

銃だけでは対応できない敵が出てきた時、別の武器へ即座に切り替えられる。

選択肢としてはかなり優秀だろう。

だが……

ジョンの視線は、その一つ上へ戻った。


《AGIブースト》


説明を開く。


---


《AGIブースト》


速度に関わる身体機能を強化する。


---


「……」


ジョンはしばらく画面を見つめた。

火力ではない。

防御でもない。

特殊な攻撃でもない。

単純に、自分の動きを速くする。

それだけ。

だからこそ。


「これだな」


迷いはなかった。


---


《AGIブーストLv1》を習得しました。


---


続いて詳細が表示される。


---


【消費MP:25】


【効果時間:10秒】


【クールタイム:90秒】


---


「十秒か」


長くはない。

クールタイムも短くはない。

だが、使い方次第では十分だ。


ジョンは考える。

このゲームでは、自分自身が動く。

ならば、自分の身体能力を伸ばすことには大きな意味がある。


敵の攻撃を避ける。

距離を取る。

一気に接近する。

射線を変える。

その全部に使える。


「火力を上げるより、こっちの方が面白そうだ」


ウィンドウを閉じる。

その時だった。


ガサガサッ。


前方の茂みが大きく揺れた。

ジョンの身体が反射的に反応する。

M1911A1を抜く。

視線を茂みへ固定する。


ホーンラビットか。

それともフォレストウルフ。

だが音が違う。

大きい。


「……?」


一歩下がる。

茂みがさらに揺れる。

そして。


ドォンッ!!


木の枝をへし折りながら、何かが飛び出してきた。


「っ!?」


巨大な獣。

灰色の分厚い皮膚。

盛り上がった筋肉。

そして頭部から伸びる、黒い鋼鉄のような角。

ジョンは思わず息を呑んだ。


アイアンボア。


西側外縁森に生息する強力なエネミー。

初心者が最初に出会うには、明らかに大きすぎる。


「……でかいな」


アイアンボアがこちらを見る。

赤く光る目。

鼻から荒い息を吐く。

地面を前脚で掻く。


ザッ。


土が跳ねる。


「……来るか」


ジョンはM1911を構えた。

まずは様子を見る。

照準は頭部。


――ダンッ!


命中。


だが。


カンッ。


硬い音がした。

弾丸が弾かれる。

完全に無効というわけではない。

しかし、ダメージは明らかに小さい。


「硬っ……」


もう一発。


――ダンッ!


同じように弾かれる。

アイアンボアが頭を振る。

そして地面を蹴った。


ダンッ!!


一瞬だった。

巨大な身体が、一気に迫ってくる。


「速――」


ジョンは横へ飛んだ。

次の瞬間。


ドゴォッ!!


背後の木へ角が突き刺さる。

太い幹が大きく揺れた。

葉が大量に舞い落ちる。

ジョンは距離を取りながら、銃を構え直した。


「マジかよ……」


初心者エリアの敵。

そう思っていた。

だが違う。

少なくとも、こいつは別格だ。


アイアンボアが木から角を抜く。

振り返る。

またこちらを見る。


「……逃げても追ってくるよな」


ジョンは走った。

木々の間を抜ける。

背後から地響き。


ドン。


ドン。


ドン。


近づいてくる。

速い。

巨体とは思えない速度だった。

ジョンは振り返る。

距離が縮まっている。


「速すぎるだろ……!」


さらに走る。

だが追いつかれる。

このまま逃げ続けても無理だ。

その瞬間、一つの考えが浮かんだ。


――AGIブースト。


ジョンは足を止めないまま、スキルを起動する。


「AGIブースト」


瞬間。


身体が軽くなった。


「……!」


足が地面を蹴る。

今までとは違う。

一歩が伸びる。

反応が速い。

視界の中の景色が、わずかに流れる速度を変えた。

アイアンボアとの距離が開く。


「なるほど……!」


思わず笑う。

これは単純な速度上昇だけじゃない。

自分が動ける。

避けられる。

考える時間が生まれる。


アイアンボアが突進する。


ジョンは引き付ける。

近づく。

さらに近づく。

そして――横へ飛ぶ。


ドォンッ!!


アイアンボアが横を通過した。

ジョンのすぐ脇を、巨大な身体が駆け抜けていく。

風圧。

土煙。

その瞬間、見えた。

耳の後ろ。

装甲が薄い。


「……そこか」


ジョンは身体を反転させる。

M1911を構える。


――ダンッ!


命中。


アイアンボアがよろめいた。


「効いた!」


続けて二発。


――ダンッ!


――ダンッ!


耳の後ろ。

首元。

明らかに反応が違う。


「弱点がある」


アイアンボアが咆哮する。

ジョンは距離を取った。

追ってくる。

だが、さっきとは違う。

AGIブーストによって、動きを見ながら回避できる。


突進――横へ。

射撃……距離を取る。

また突進。

今度は木を利用する。

アイアンボアが木へぶつかる。

その隙に側面へ回る。


――ダンッ!


一発。


さらに。


――ダンッ!


アイアンボアが身体を振る。


ジョンは後ろへ下がった。

残弾を確認。

三発。


「まだある」


焦らない。

撃ち切らない。

今までなら、敵を止めるために引き金を引き続けていた。

だが今は違う。

敵の動きを見る。

自分の位置を見る。

残弾を見る。

そして撃つ。


アイアンボアが再び突進。

ジョンは引き付ける。

ギリギリまで。

そして横へ。

巨体が通過する。

その瞬間。


――ダンッ!


弱点へ命中。

アイアンボアの動きが鈍る。


「あと少し!」


ジョンは追撃する。


――ダンッ!


残り二発。


――ダンッ!


残り一発。


アイアンボアが大きく身体を揺らす。

それでも倒れない。


「まだか!」


ジョンは距離を取る。

マガジンを確認する。

一発。

次の攻撃に備える。


アイアンボアがこちらを向いた。

地面を蹴る。

最後の突進。


ジョンは銃を構える。

狙うは耳の後ろ。

次の瞬間、アイアンボアの身体が視界いっぱいに広がる。


――ダンッ!!


最後の一発。

弾丸が吸い込まれる。

巨体が揺れた。


一歩。


二歩。


そして。


ズゥン……。


アイアンボアが地面へ倒れた。

土煙が舞う。

静寂。


ジョンはしばらく銃を構えたまま動かなかった。

やがて、ゆっくり銃口を下げる。


「……倒した」


視界にウィンドウが表示される。


---


【ルート権】


アイアンボアの鋼角 ×1

鉄皮 ×2


残り時間:30秒


---


「鋼角……」


ジョンは取得を選択する。


---


【取得しました】


アイアンボアの鋼角 ×1

鉄皮 ×2


---


続いてストレージが表示される。


---


【ストレージ】


重量:75 / 100


---


「……結構重いな」


取得した素材の詳細を確認する。


---


《アイアンボアの鋼角》


アイアンボアから採取された硬質な角。


武器素材として利用可能。


---


《鉄皮》


鉄分を多く含んだ硬質な獣皮。


防具素材として利用可能。


---


「武器と防具か」


どう使うのかはまだ分からない。

だが、捨てる理由もない。

ジョンはストレージを閉じた。

そして、改めて倒れたアイアンボアを見る。

頭部へ撃った時は、ほとんど効かなかった。

何度撃っても止まらなかった。

だが、耳の後ろを狙った瞬間、明らかに反応が変わった。


「……火力で押す敵じゃない」


呟きながら、ジョンは倒れた巨体を眺める。


「弱点を探す敵だ」


最初から強い武器を持っていたわけじゃない。

M1911A1の攻撃力も、初期武器としては十分な程度。

それでも倒せた。

理由は単純だ。

相手を見た。

動きを見た。

攻撃を避けた。

そして、弱点を探した。


「AGIブーストも、思ったより使えるな」


ジョンは自分の手を見る。

たった十秒。

それでも、あの十秒がなければ倒せなかったかもしれない。

速く動ける。

それだけではない。

避ける余裕が生まれる。

距離を取れる。

敵の動きを見てから行動できる。

つまり――自分が考える時間を増やせる。


「……なるほど」


ジョンは小さく笑った。

このゲームのスキルは、単純に強くなるためだけのものではない。

使い方次第で、戦い方そのものを変えられる。

ATKブーストなら、もっと早く倒せたかもしれない。

オートリロードなら、リロードの隙を減らせた。

チェンジなら、別の武器へ切り替えることで違う戦い方ができた。

どれも間違いではない。

ただ、自分が選んだのはAGIブーストだった。


「……悪くない選択だったな」


ジョンはM1911A1をホルスターへ戻す。


カチリ。


静かな金属音が森へ響いた。

周囲を見回す。

ここまで来ると、入り口付近とは空気が違う。

プレイヤーの姿も少ない。

聞こえてくる銃声も減っている。

木々が深くなり、道らしい道も少なくなっている。

その先。

森のさらに奥。

何がいるのか。

どんなモンスターがいるのか。

どんな素材が手に入るのか。

まだ何も分からない。


ジョンは少しだけ考えた。

街へ戻ってもいい。

素材を売る。

装備を整える。

スキルについて調べる。

やることはいくらでもある。

それでも。

ジョンの視線は、森の奥から離れなかった。


「……もう少し行ってみるか」


誰に言うでもなく呟く。

M1911A1を腰に下げたまま、歩き出す。

一歩。

また一歩。

木々の間を抜けていく。

その先に何が待っているのか。

まだジョンは知らない。

ただ一つだけ分かっている。

アイゼンヴァルトは、思っていた以上に面白い。

そして――。

まだ、知らないことが多すぎる。


ジョンは笑いながら、森の奥へ進んでいった。

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