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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《二人の旅立ち編》最初の依頼
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奇妙な賊と奇妙な噂

「ごめん、取り乱しちゃって……」


「いや、私たちこそ遅くなっちゃって。もう少し早く来れれば――」


 なんとか落ち着いたシルフィは、二人を自宅へと招き入れた。避難用の横穴から戻ってきた母や妹と軽く片付け、とりあえず割れてないコップでお茶を出す。


「二人はなんでここに?」


「ギルドの指名依頼だよ。最近この辺で賊が荒らしまわってて、なかなか捕まえられないから強い冒険者に片っ端から声を掛けてるらしい」


「指名依頼って……じゃ二人はもう色んな事件を解決したりしてるの?」


 シルフィの言葉に二人は顔を見合わせて苦笑いする。


「いや、事件というか、街を救ったというか」


「別にシルフィ相手なんだから何言っても大丈夫よ。実はこんな事があってね……」


 サラがワーレントでの燃える穴の騒動を話すと、ずっと無理して笑っていたようなシルフィの顔が初めて和らいだ。


「なるほど、そりゃ確かにドラゴンとハルピアが出てくれば驚くよね。それで二人は、賊を捕まえる為に来たんだよね?」


「そうそう。だからシルフィにも是非話を……」


 カイルが言いかけた瞬間、シルフィはバンと机を叩いて身を乗り出す。


「お願い。私が知ってる事はなんでも話すから、絶対に捕まえて。これは……仇討ちなの」


「――わかってる。絶対、絶対に俺たちが捕まえてみせる」


「よろしく、お願いします」


 *


「それで、賊は銃を持ってたと」


「そうなの。だから誰も太刀打ちできなくて」


「銃を持ってた……それだけで、なんか一筋縄じゃいかなそうね」


 銃は統制品、手に入れるだけで難しい。それを持っているという事は、銃を手に入れる事ができるそれなりに高位な身分の人と何かしらの繋がりがあるという事だ。


「あとトレッタケールに財宝があるって?」


「そう、賊がそんな話をしてたのを聞いたの。だから襲われたのかなって」


「念のため確認だけど、本当にそんな財宝なんてあるの?」


 サラの言葉にシルフィは首を振った。


「あるわけ無いよ」


「そういった伝説の類も無い?」


「聞いたこと無いなぁ。村長なら何か知ってるかもわからないけど、でも何か隠し事をするような人じゃないし、そもそもそんな伝説だったらとっくにみんな知ってるもの」


「やっぱりそうだよな。すると、結局は賊を捕まえて聞き出さないとダメって事か」


「でもさ」


 サラがまとまりかかった話を断ち切った。


「賊からすれば、財宝があるって聞いてたのに結局出てこなかったわけでしょ? 一回で諦めるかな」


 二度目の襲撃があるかもしれないという示唆に、シルフィの顔は青くなる。


「そ、それじゃどうすれば……」


「賊は何としてでも、誰の指示か分からないけども無い財宝が欲しい。私たちは賊を捕まえたい。そうなれば、私とカイルがしばらくトレッタケールに滞在するのが一番いいわね」


「でも……いいの?」


「何を今更、遠慮する事なんて無いわよ。私とカイルは何日か保つぐらいの食糧は持ってるし、最悪野宿でも構わないし。賊が来ない日は村の再建を手伝って、来たらすぐに捕まえにかかる。これでどう?」


「……うん、ありがとう。本当にありがとう。とりあえずギルドに出した依頼は多分村長が出したものだし、一旦は村長の家に行こう」


 片付けに忙殺されていた村長を捕まえて事情を話すと、泣きそうな顔でよろしく頼むと逆に懇願されてしまった。

 シルフィの父はこの時偶然にもルヴァンに用事があって出かけていて無事だったが、手紙は出したもののすぐには帰って来れない。なので取り敢えず二人はシルフィの家に厄介になる事になった。


 すぐに二人も村の人に混ざって壊されたり燃やされたりした家屋や納屋、倉庫を直したり、これまた運の悪い事に村を離れていた駐在文官に報告するために被害をまとめる作業を手伝う。あんなことがあっただけに最初こそ余所者に過剰なほど敏感になっていた村人達だったが、シルフィの学友で冒険者と聞くやすぐに打ち解けていった。


 *


 二日後、村は再び不安な空気に覆われていた。

 駐在文官が村を離れる際は、通常一泊二日。つまり昨日には帰って来なければならないはずなのに、まだ文官は帰ってきていなかった。


「駐在官さん帰って来ねぇなぁ」


「だなぁ、こんな時こそ早く帰ってきて欲しいんだけども」


 襲撃の余韻冷めやらぬ中、どんなに些細な事でも普段と違う事が起きれば自ずと悪い方へと連想してしまう。そしてサラの推測は、不幸にして当たる。


 昼餉を済ました直後、再び早鐘が村中に響いた。


「来たか!」


「行こう!」


 家を飛び出すと、すでに他の家々からは一目散に森へと逃げようとする人たちが出てきている。


 事前に村長や村の皆と話し合い、次の襲撃があったら女子供は全員が避難用の横穴に逃げ、戦える男達は合図があるまで隠れている事になった。生き残った男衆の中には敵討ちとか、敵を前にして待っているなんて嫌だと言う者もいた。気持ちは二人にも痛いほどわかるが、しかし銃で武装した相手に鍬や鋤で立ち向かえる筈も無いのだ。


 二人が村の入口に着くと、すぐに馬に乗った十数人ほどの賊の姿が見えてきた。案の定、村の入口に立つカイルとサラを見て口を歪める。


「お頭ァ! 冒険者っぽいのがいますが、ガキが二人だけですぜ!」


「ほう、冒険者はいないと聞いていたが……こんなガキじゃ冒険者と思われなかったか。まぁいい、その方がやりやすいってもんだ」


 頭の言葉にサラは引っかかるものを感じたが、すぐに罵倒が飛んできてその思考は遮られる。


「悪い事言わないから、サッサと帰ってママのおっぱいでも吸ってな!」


「おっと女だけは残れよ! 可愛がってやるからな!」


 誰かがそんな事を言い、賊の間に嘲笑が広がった。一昔前ならカッとなって言い返してたかもしれないが、そこは慣れたものだ。腕に絶対の自信が無い者は、まず口撃を仕掛けるものだと知っている。


 ダンマリを貫く二人に痺れを切らしたのか、先頭にいた男が銃を構えて狙いを付ける。


「どけと言ってるんだ。これが何か分かるだろ? 銃だ。お前らみたいなガキの身体ぐらい、あっという間に吹っ飛ばせるんだぞ?」


 その瞬間、カイルが動いた。魔法杖を振り、賊との間に分厚い水の壁を作り出す。咄嗟に放たれた銃弾はその勢いを完全に減殺され、カイル達に届く事なく水中を落下した。


「か、かかれ! こんなのはタダの水だ!」


 先頭の男、恐らく賊の頭の合図で全員が突撃してきた。

 確かにタダの水だ、普通の冒険者が持っている程度の魔法杖ならば馬で強引に突破する事もできる薄さだ。しかし、カイルのそれは普通ではない。


 賊の馬は何度もそうした薄い水の壁を抜けた事がある。それを学習していた馬は勢い良く水の壁に突入したが、普通のそれとは違い厚すぎる水の壁の中を突破する事ができない。当然息が出来ず、ゴボゴボと音を立てもがきながら作られた水面を目指す事となった。

 騎乗していた賊達も同じく水中で馬に振り落とされながら、それでもなおカイル達の方に向かって必死に泳ごうと手足をバタバタとさせる。


「よし、皆さん!」


 サラが村へと合図を送った。すると待ってましたとばかりに男衆が飛び出て、ちょうど水中から脱した賊の元へと集まる。

 村の男衆は決して多くないし銃やナイフで武装した賊に勝てる筈も無い。だがその賊は水中でもがいて消耗し、水没した銃は使い物にならない。

 何より男衆の方が数で上回っているのだ、たとえ粗末な武器でも相手が弱っているなら勝算があると踏んだ。


「かっ、覚悟しろよ!」


「子供の仇じゃ!」


 賊達を全員縄で縛る間にも男衆は興奮して、敵討ちだと息巻いている。たとえ農具とて、もはや丸腰同然の賊に反撃する力は残っていない。今にも上げた鍬を振り下ろしそうな男衆を止めたのは、カイルとサラだった。


「待ってください!」


「皆さん落ち着いて! 落ち着いて!」


「邪魔するな……! お、俺の息子と娘を殺したコイツらを、許しておけるものか!」


「それでも、それでもどうか落ち着いて! 冒険者として、この賊にはどうしても聞かなければならない事があるんです!」


 二人がそう言って今や地面に転がるだけの賊の前に立ちはだかると、男衆はようやく上げた手を降ろした。


「……好きにすればいい。あとは冒険者の領分だ」


 男衆の一人が半ば吐き捨てるようにそう言うと、皆は一歩引いた。二人のやる事を見守ろうというのだ。


「……ありがとうございます」


 サラは一言お礼を言うと、すぐに賊の方へと向き直る。カイルがその中の一人を立たせた。相手はお頭と呼ばれていた、リーダーの男だ。


「さて、いくつか聞きたい事があるの。嘘偽りなく答えて」


 真顔で、否定を許さぬ声で言ったつもりだが、どうにもドスが聞いていないのか賊の男はへらへら笑うだけだ。


「へっ、どうせ俺らァ死ぬんだ。全部墓まで持ってってやるよ」


「そうね。村を襲い、沢山の死傷者を出した。リーダーであるあなたはそうかもね。でもあなたの言葉次第で部下は助かるかもしれない。責任あるリーダーなら、答えてちょうだい」


 だが男は無言でサラを見返す。構わず疑問に思っていたことを聞くことにした。


「まず、銃は統制品のはずよ。いったい誰から貰ったの」


 水没して使えなくなった銃を見ながら聞くが、男は無言を貫く。


「賊なんかが銃を持ってるわけない、すると自ずと軍か同じ程度の力を持っている誰かから供与されたって事になるわね。あんたらみたいな端くれ者が自力で銃を調達出来るとも思えないし」


 露骨な挑発に、男はサラの顔目掛けて唾を吐きかけた。だが至近距離にも関わらず、サラは予知したかのようにそれを躱す。想像できる事態なら対処するのは容易だ。賊の男はと言えば、今は憎いだけの端麗な顔を汚せなかったのが悔しいのか、僅かに顔を歪めた。


「まぁいいわ、銃の入手ルートはどうにでもなるし。それよりも、さっきあなたが言ってた事。冒険者はいないと聞いていたって言ってたよね、あれはどういう事?」


 サラの質問に村長や村の長老の顔つきが変わる。それは何者かが手を引いて、このトレッタケールに冒険者が来ることを阻止している可能性があるという事を示唆しているからだ。


 そもそも冒険者ギルドに依頼を出したのは村長を代表に、トレッタケールの長老たちなのだそうだ。なるべく強い者をという依頼だったが、その強い者を指名するのはギルドの仕事である、だからと言ってカイル達より強い冒険者は数多くいるし、賊の討伐にしては報酬も決して安くは無い。

 にもかかわらず、冒険者は来なかった。襲撃された時には気が動転してそれどころではなかったが、サラの言葉でその違和感に気付いた。


「そうだな……そもそも、お前らみたいなクソガキがいる事が予想外だったんだ。全く、テメェらのせいでこっちは全部台無しだ」


「質問に答えて」


「おうおう怖い怖い。わぁったよ、どうせ捕まるんだ」


 男はそう言って両手を上げて、降参とでも言うようにひらひらと振る。


「俺たちゃただのしがない盗賊さ。ある日、街の酒場で飲んでたら、身なりの良い野郎が話しかけてきたんだ。財宝に興味は無いかってな。

 これでも俺ァ奴らを率いてきたんだ。普通ならンな胡散臭い話、信用する筈も無い。だけどな、その野郎は実際に金塊を見せてきやがった。ンでこう言った、トレッタケールに財宝が眠っているってな」


 リーダーの男が語るに、その酒場で話しかけてきた男は何やら古い地図のようなものを見せてトレッタケール周辺に財宝が眠っていることを証明したのだという。だが書かれている文字らしきものは読めなかったようだ。


 一通り取り調べを終えると、とりあえずは使っていない納屋へと連行する。近隣の大きな街から護送の兵士が到着するまでは、こうして適当な場所に監禁しておくのが一般的だ。

 慣れないなりに後ろ手に縄を括り一列に並ばせると、納屋まで歩かせていく。


 と、その瞬間、パンッという乾いた音が響き、先頭を歩いていた賊の下っ端の頭から血が噴き出した。

 撃たれた。襲撃? 何が起こったかを理解する暇を与えず、もう一発。反応が遅れた賊の男は、同じように頭から血と脳漿を飛び散らせる。


 やられたという思いが、カイルとサラの脳裏をよぎった。

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