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空の支配者と七人の英雄たち  作者: あまつか飛燕
《学校編》タロスの村
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魔法杖とはなんたるや

 隊商は日の出と共に起き出し、朝食を摂り身支度を整えて出発する。当然オンドルたちも同じだ。


「カイル、あんたまた寝不足?」


「いやなかなか寝付けなくてさぁ」


 カイルは前日も寝不足だったが、馬車の中で一寝入りしていた事と初めての本格的な旅にワクワクしていたのか、興奮してあまり寝れていなかったようだ。


「こりゃ今日も昼寝かな」


「そしたらまた夜眠れなくなるよ」


「そうなんだよなぁ」


 他愛のない事を言いながら皆で朝食を食べ、昨晩からの焚き火や設営した天幕を片付ければ出発だ。


「今日はアムレイズの街に寄るから、何か必要な物があればここで買っとけよ! 次に街に寄るのは明々後日だからな!」


 先頭から飛ぶオンドルの声にめいめいに返事をする。実際にはもっと街に寄りながら行くルートもあるようだが、それだと遠回りになってしまうのだそうだ。


 野営地を出発して少しすると、遠くにアムレイズと呼ばれる街が見えてくる。

 アムレイズはミリウス王国の中では北部にある街で、規模としてはそこまで大きいものでは無い。とは言え隊商都市として成り立つこの街では、隊商が欲しがる物は大概のものは揃っている。食料や水、それらを納めておく食料袋や水筒に馬車を修理したり新しく買うことも出来る馬車屋、天幕や寝具などの必要な装備も売っている。


 街に入ると他の隊商の商人もいたりして、かなりの賑わいを見せていた。


「すごい賑わってるな!」


「隊商都市って呼ばれる街は初めて来たけど、何というか熱気がすごいね」


 街中では馬車の動くガラガラという音や色んな店から客引きの声、街の一角に建てられた新聞の張られた立て板に群がりなんやかんやと論ずる声。アコーズとはまた違った雰囲気がそこにあった。


 オンドル達の馬車は"駅"と呼ばれる場所に入り、そこで一旦休息となった。駅はアコーズやルヴァンにもあり、こうした街と街の間を移動する人たちの休憩所兼情報交換の場所となっている。

 大きさは街によって様々だが、アムレイズのそれは馬車がゆうに三十台は止められそうなぐらい広大な車庫と大きな建物からなっていた。大きな隊商は馬車を二十台ほど連ねたりもするが、駅を利用するのは中規模の隊商までなのでこれでも大きい方である。


「十三時の鐘がなったら戻ってくるように、昼食は各自だ。買い物もそれまでに済ませておくように。では解散!」


 オンドルが言うが早いか、各々の馬車の人はそれぞれ思い思いの場所に散っていく。

 サラ達女性陣はオンドルと共に食材の買い出しに行くそうなので、カイルはタロスやザイオンと共に行動することにした。


「タロス達はどこ行くの?」


「俺は兄貴と一緒に武器商店さ。カイルも来るか?」


「行く!」


 兄弟に付いて行くと、やがて軒先に剣や弓を並べた建物に着いた。表にいた犬獣人の呼び子がザイオンを見てニカッと笑う。


「ザイオンか! 久しぶりだなぁ」


「ケインも元気そうじゃないか!」


 ザイオンとケインと呼ばれた男は再会を懐かしむように肩を抱く。


「んで、こいつがお前の弟か?」


 そう言ってケインはタロスの頭をわしゃわしゃとなでた。距離感の近さは獣人族の特徴だ。


「そうだ、タロスってんだ。んで隣の人族のはカイル、タロスの学友だ」


「そうかそうか、よろしくな二人とも」


 ケインの言葉に二人で頭を下げた。


「んで、ここに来たって事はそういう時期か?」


「おう。いいのを見繕ってくれ」


「兄貴、それって……!」


「そうだ。お前もそろそろ自分の身は自分で守れるようにならなきゃな」


 ザイオンの言葉に飛び跳ねるタロスを見ながら、カイルは前に授業で教わった獣人の風習について思い出していた。


 昔の獣人は生涯を森と共にし、滅多に街には降りて来ない種族だったようだ。そう言った獣人は十三歳になると、一人で狩りが出来る様になる為に兄や父から武器の使い方を学ぶのだそうだ。

 その風習の名残で、現代の獣人達も十三歳になると自分に見合った武器を携行するようになる。今回はその為に、武器商店に来たというわけだ。


 こじんまりとした店構えながら、中に入ると様々な武器が並ぶ。長剣短剣、弓に仕掛け罠に槍など。奥には携行できる銃も並ぶが値段はかなりのものだ。

 タロスは既に自分の持つ武器を決めていたらしく、迷わずに長剣の置いてあるところに向かう。


「やっぱり長剣?」


 カイルが聞くとタロスは「もちろん!」と答える。タロスは一年前ぐらいから学校終わりなどに剣術の練習を始めており、既に心は決めていたようである。


「長剣か、いいんじゃないか?」


 ケインはうんうんと頷く。獣人は基礎体力がどの種族よりも高いため、その力を直接活かせる剣使いや槍使いが多い。なんでもザイオンも短剣使いであり、ケインも槍使いなのだそうだ。


 獣人三人でわいわい選んでる中、カイルはあれこれ武器を見ていた。あまりこれまで武器とは縁が無かったが、冒険者を目指す以上は自分も何か武器を持ち極めなければならない。

 自分なら何を使おうかと物色していると、見覚えのあるものが目に入った。


「魔法杖だ……」


「お、えーとカイル君と言ったか。知ってるのかい?」


「はい。家にあるので」


「へぇ! 珍しい」


 ケインは驚きながら、無造作に刺さっている杖の一本を引き抜く。


「ちなみにここの線は何本かわかる?」


 見ると杖の持ち手の部分に五本の線が入っていた。


「いえ……わからないですけど、確か持ってるのは……」


 そう言って持って来ていた自分のリュックから、出発前に使い方を教わったばかりの魔法杖を取り出す。


「ほう、四本か! 大体相場は一万エルンだから、そこそこいいやつだな」


 カイルは驚いて自分の杖と、五千エルンの値札が付けられた売り物の四本線の杖をまじまじと眺めた。


「これ、何が違うんですか?」


「おっと知らなんだか。じゃ教えてやろう」


 魔法杖とはその名の通り魔法を打ち出せる杖の事だが、その柄には線が刻まれている。詳しい理屈は分かっていないそうだが、その線の数が少なければ少ないほど強力な魔法を打ち出す事が出来るのだそうだ。


 ちなみに三本線だとアムレイズのような地方都市では買えず、アコーズなどの大きな街に行かなければ買えない物となる。値段の相場は一気に五十万エルンにまで跳ね上がる。


 二本線ともなるとルヴァンの一流の武器商店でなければ買えず、買うにも身元証明やら何やら複雑な手続きが要る。値段は相場で五百万エルンだ。


 一本線のものとなると急激にレア度が高まる。市場には出回らず、小国では国宝や準国宝にも指定されるぐらい貴重なものとなるのだ。威力は非常に強いが、だからと言って初心者が使えないというわけではないらしい。あえて値段を付けるのならば億は超える。


 そして線の入って無い魔法杖も存在するのだという。幻の存在に近く分かっていない事も多いが、線の入っていない杖だけは柄の部分が少し長いらしい。らしいと言うのは誰も本物を見た事が無いからだ。

 理由は不明ながら、旧杖と呼ばれる事もある。


「この四本線だと武器としてはどうなんですか?」


「そうだなぁ。多少の攻撃力はあるが、なかなか決め手には欠けるかな。ウチの店でも好んで魔法杖を買ってく冒険者は少なくて、大きいパーティとかで時折補助的に買ってくぐらいだな」


 ケインの言葉にカイルは僅かに肩を落とす。どうせなら強力な武器が欲しかったが、この魔法杖だとサポート止まりかもしれない。


「ま、そう落ち込みなさんな。タロスもそうたが、武器は活かすも殺すも使い手次第だ。錆だらけの剣でも名人が使えば一流品、ウン十万もするような高価な剣も素人が使えばただの剣だ。強い武器に憧れるのもいいが、まずは今の武器で一流と呼ばれるぐらいになれ。いいな」


 はい! と二人で声を上げる。確かにそうだ、まずは今の杖をちゃんと使いこなせるように頑張ろう。と心に決めたカイルだった。


 *


 武器商店を出たルンルンのタロスの手には、しっかりと買ったばかりの新品の長剣が握られている。


「タロス、気持ちは分かるが街中で鞘から出すなよ」


「はーい」


 ザイオンに言われて素直に鞘に納めるも、やはり構えてみたり人が途切れたタイミングで振ってみたりと大忙しだ。


「ところでさ、カイルのその魔法杖ってどんなことが出来るの?」


「これ? なんか火、水、雷、風の魔法を打ち出せるんだってさ」


「魔法ねぇ……なんかピンと来ないな」


 タロスがそう言うので、カイルは杖を取り出し指定の場所を握る。後は念ずるだけで魔法が生み出せる、物語の中のように何か呪文を唱えるなんて事も無い。

 カイルがそうあれと念ずるだけで杖の先端から水球が生まれ、ふよふよと浮かんだ。タロスは素直に剣を腰に提げて「ほえーすげえや」とか言いながら食い入るように見ている。


「でしょ? 風魔法も全力でやればちょっとした突風ぐらいなら出来るよ」


「へぇ~、魔法杖って聞いた事はあったけど見たのは初めてだなぁ。ていうかカイルの家にあったんだな」


「いや俺も出発前にお父さんに"自分の身ぐらい守れるように"って言って魔法杖の使い方を教えてくれるって言われてさ、家にあったものだけどって言われた時にはびっくりしたよ」


「しかしカイルのお父さんって何やってるんだ?」


 今度はザイオンが尋ねた。


「お父さんはアコーズの商人の仲介役をやってます」


「すると昔は商人だったってクチか」


「みたいですね」


 カイル自身ウェルズの昔の話はあまりよく知らないが、若い頃は商人としてアコーズや時には外国にも行っていたのだという。


「成る程なぁ。なら魔法杖を持っててもおかしくは無いかもしれん」


「そうなんですか?」


「そうだとも。商人は冒険者と同じようなもんで、あちこちを旅して色んな物を見れるからな。その中で魔法杖を手に入れたとしても不思議じゃない」


 ザイオンは得意げに話していたが、タロスは兄の僅かな雰囲気の違いを見逃さなかった。


「ふうん。兄貴、大工なのにずいぶん詳しいじゃない?」


「そ、そりゃあ伊達にお前より長く生きてねぇよ」


「顔ちょっと赤くなったね? なに、お嫁さん? 商人の娘にでもお嫁さん候補がいるの?」


「ば、バカヤロ! ンな訳ねぇだろ! ほら、さっさと行かねぇと昼飯食いっぱぐれるぞ」 


 そう言ってズンズンと歩くザイオンの後ろを、カイルとタロスはついて行く。

 獣人の生活の中でお嫁探しがかなり重要だという事をカイルが知るのは、もう少し先の話だ。

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