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68:鎌手の虫型魔物との闘い

「あたいも行くっ! みんなを救うんだっ!!」


と言って、言うことを聞かないポポに対し、


「駄目っ! 危ないから、絶対に駄目ぇえっ!!」


 テトーンの樹の根元に隠れているようにと、厳しい態度で指示する俺。

俺ですら足手まといなのだから、ポポなんかを連れて行くわけにはいかない。

連れて行けば、100パーセント、敵の餌になってしまうだろう。


「嫌だっ! あたいも行くっ!! 行くったら行くぅうっ!!!」


 ポポが余りにも聞き分けが悪いので、ウンザリする俺。

 俺にキツく言われて、半べそをかくポポ。

 すると、その小さなお腹からタイミング良く、キュ~っという可愛らしい音が鳴った。

 ゲップだって恥ずかしがらないポポの事だ、お腹が鳴ったところで表情は変わらない、が……

 俺の頭には、ピコーン! と良い案が閃いた。

 鞄の中に入っていた諸々の食べ物を出して、ポポの目の前にぶら下げ、そして……


「ここに残れば、これ全部、食べられるよ?」


 必殺、エサで釣る作戦である!


「分かった。残るよ」


 ポポは素直に、すぐさまそれらを受け取った。


 まだまだ子供だなぁ~おいっ!

 エサで釣られるようなお子様は、大人しくここに残ってなさぁ~いっ!!


「一刻の猶予も無い、急ぎ向かおう!」


と、ギンロが言うので、俺とグレコは互いに目を合わせ、頷き合い……、覚悟を決めた。


彼女に最後に会ったのは、ガディスの元へ攫われた妹たちを助けに行った時だ。

 あの時は、テトーンの樹の村から西の森まで、ものの一瞬で飛ばしてくれた。

あれから随分時間が経っているが……、果たして今回も、まともに働いてくれるだろうか?


「リーシェ! 力を貸して!!」


太陽が燦々と輝く空に向かって、叫ぶ俺。

 すると……


『あ~ら、モッモちゃん♪ 久しぶりじゃな~い? 元気だった?? キャハハ♪』


どこからともなく姿を現した風の精霊に、驚くギンロと、目をパチクリするポポ。

 だけども、二人にリーシェの事を説明している時間など恐らく無いので、とりあえず無視!


「この森の東にある、巨虫の根城に今すぐ行きたいんだ! だからお願いっ!! 力を貸してっ!!!」


頼むっ! 普通に運んでくれっ!!


『モッモちゃんったら、ほんっとに可愛いわねぇ♪ 誰かの為なら、こんなにも男らしくなれちゃうんだから~。いつもこうならいいのにねぇ~♪』


よしっ! なんか、大丈夫そうだぞっ!?


『その巨虫の根城ってとこより、ダッチュ族を攫っている途中の虫たちの所へ行く方がいいんじゃなくて?』


 は? ……えっ!?


 リーシェの突然の提案に、驚く俺達。


「そんなの分かるのっ!?」


『当たり前じゃない、あたしを誰だと思ってるの? 失礼しちゃうわ!』


マジか!? すげぇなリーシェ!!?

 それなら……、その方がいいに決まってる!


「じゃあ、それでお願い! ダッチュ族のみんなを救いたいんだっ!!」


『オッケー♪ さぁ、行くわよ~? そぉ~れっ!!』


リーシェの掛け声と共に、ギュンッ! と突風が吹き抜ける。

体が横倒れになりそうになって、ギュッと目を閉じる俺。

 なんとか耐えて、瞼を開いたその時、既に目の前には、鎌手の虫型魔物の群れが見えて……


やっべ!? 心の準備がっ!!?


 草木が生い茂る薄暗い森の中、ガサガサと音を立てながら蠢く、大量の虫型魔物たち。

 そこには、虫型魔物に囲まれて歩く、傷だらけのダッチュ族達の姿もある。

瞬時に弓矢を構えるグレコと、スラリと二本の剣を鞘から抜き出すギンロ。

そして……


「おっとぉ! おっかぁ!!」


 叫ぶポポ。


……あれ?


 えっ!?

 えぇえぇぇ~!??

 ポポまで来てるじゃないかっ!?!?

 里に待たせておく予定だったのにぃ~、リーシェの阿呆っ!!!


「ポポ……? ポポかっ!? ポポっ!??」


ポポの声に気付いたポポの両親が、声を上げる。

それと同時に、鎌手の虫型魔物たちが一斉にこちらを向いた。

虫特有のレンズのような目がギラリと光り、威嚇だろうか、両の鎌手を小刻みに震わせてカチャカチャと鳴らし始める。


ひえぇえぇぇっ!?

 怖えぇえぇぇっ!!?

 そして気持ち悪ぅうぅぅぅ!!!?


虫型魔物たちは、獲物を逃すまいと、ダッチュ族のみんなを更にガチッと囲って、円のような陣形を組む。

その数およそ三十……、いや、もっといそうだ。

大きな体をゆっくり動かし、ジリジリとこちらに近付いてくる。


「モッモ、ポポを頼む」


両手に剣を握ったギンロはそう言い残して、敵のど真ん中へと突っ込んで行った。


ギンロ!? また正面からっ!!?

 めちゃくちゃ潔くてカッコいいけど……

 たまには横から攻めてもいいと思うぞっ!?!?


しかし、俺の心配を他所に、ギンロは次々と虫型魔物を斬り倒して行く。

 ザシュッ! ザシュシュッ!! と、斬撃の音が辺りに響く。


まさに瞬殺っ!

 まさに神業っ!!

 さすがは旅の剣士!!!


だが、さすがにギンロ一人では多勢に無勢だ。

グレコがなんとか援護しようと弓矢を放つも、虫型魔物の体は固く、矢は悉く弾かれてしまう。

 苛立つグレコ。


「くっそぉ~、忌々しい害虫ねぇ~……。死ねぇっ!!!」


恐ろしい暴言と共に放たれた次の弓矢。

 ヒュン! と音を立てながら空を切ったそれは、虫型魔物の腹部に突き刺さった。


「キシャーーーー!?!?」


 どうやら腹部が弱点だったらしい虫型魔物は、弓矢が刺さった所から青い血を流して、苦しそうに地面に転がり激しくのたうち回る。


グレコ! ナイスキルッ!!

しかし、お口が汚いぞっ!!!


そんな、ギンロとグレコの勇姿を離れた場所から見つつ、何か出来る事はないかと考える俺。

しかし、なかなか良い案が思い浮かばない。

 下手に何かして、此方が襲われる事だけは避けたいし……


そうこうしている間にも、ギンロは次々と虫型魔物を斬り倒して行く。

グレコもコツを掴んだのか、虫型魔物の弱点である腹部に、次々と弓矢を命中させ、動きを奪っていく。


早く何かしないとっ!

 俺も何かしないとっ!!


完全に出遅れて、一人わちゃわちゃしていると、腰にある万呪の枝に手が触れた。


はっ!? そうだっ!!?

 呪いをかけようっ!!!


 どんな呪いをかけようかと考えていると、少し後ろにいるポポが目に入った。


 そうだっ! いい事思いついたぞっ!!

 きっひっひっひっひっ!!!

さてさて、呪いのお時間ですよぉ~♪


 万呪の枝を強く握りしめ、その先端を、一番近くにいる鎌手の虫型魔物に向ける俺。

 そして……


「気持ち悪い魔物めぇっ! 小さくなれぇ〜っ!!」


 俺は、あらん限りの声でそう叫んだ。


敵を小さくするなんて、非常に在り来たりな呪いではあるだろうが、今はそれが一番効果的なはず!


呪いを受けた虫型魔物は、みるみるうちに縮んで行き、俺の掌よりもはるかに小さくなった。

そして、逃げ惑うように地面を這い回って、俺の後ろにいるポポの方へと向かって行って……


「今だポポ! 食べろっ!!」


 俺は叫んだ。


「はっ!? えぇっ!?? ……あっ! まっ!! 任せてっ!!!」


ポポは一瞬戸惑ったものの、足元までやって来た、小さくなった鎌手の虫型魔物をヒョイと摘んで、パクッ! と一口で食べた。

近くにいるグレコが、明から様にウゲッ!? という顔をしてみせたが……


いいんだ!

 俺は、ポポにも里のみんなを助けて欲しいんだから!!


次から次へと俺は呪いをかけ、小さくなった魔物を、パクパクパクッ!!! と、片っ端から食べていくポポ。


見ろっ!

 これが弱肉強食だぁっ!!

 ひゃははははっ!!!


徹夜によるナチュラルハイの為か、若干テンションがおかしい俺。

 そうして戦う事しばらく……

 いつしか形勢は逆転し、遂に最後の一体をギンロが斬り倒した。

 そして……


「あぁっ! ポポ~!!」


全身傷だらけのポポの母ちゃんが、号泣しながら走って来て、ギュッとポポを抱き締める。

解放されたダッチュ族は、みんな何かしらの傷を負ってはいるが、なんとか無事そうだ。

安堵の声と、助けられた事で安心したのか泣き出す声で、辺りは溢れ返る。

俺は、グレコとギンロに目配せして、「やったね♪」と微笑み合った。


が、しかし……


「あぁ……、あぁあぁぁ~……。なんという事をしてくれたんじゃぁ……」


同じく全身傷だらけで、今にも死にそうなダッチュ族の長が、ぶるぶると震えながら、みんなの間を掻き分けて、俺たちの前に歩み出て来た。

その顔には、今まで以上に悲壮感が込み上げており、死相までもが浮かび上がっている。


「この森は、もう終わりじゃ……。森の主様が、お怒りなのじゃぁ……。我らダッチュ族は、滅びる運命なのじゃあっ!」


狂ったような顔つきの長は、天に向かってそう叫んでいた。


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