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67:みんな、おかしくないっ!?!?

ダッチュ族の里には、無残な光景が広がっていた。

踏み荒らされた地面の跡、壊された家々の残骸、そして、そこかしこに飛び散る血痕。

辺りには生々しい血の匂いと、あの鎌手を持った大きな虫型魔物のものと思しき匂いが残っていた。


「駄目、やっぱり誰もいないみたい」


 グレコとギンロが手分けして生存者を探すも、一人も見つからず、力無く俺の元へ戻ってきた。

 ……とその時、俺のよく聞こえる耳が、シクシクシクという、誰かのすすり泣く声を聞き取った。


「ねぇ、ギンロ。あっちから何か、声が聞こえない?」


俺の指差す方向に、耳を向けるギンロ。


「確かに、何か音がしておるな」


ありゃ? 意外や意外、ギンロより俺の方が耳がよく効くみたいだ。


「見に行ってみよう!」


里を出て、声のする方へ駆けていくと、徐々にツーンとした懐かしい匂いがしてきて……

そこにはなんと、大きなテトーンの樹があった。


まさか、この森にもテトーンの樹があったとは!


すすり泣く声は、そのテトーンの樹の根元にある、小さな穴の中から聞こえてくる。


「おーい、誰かいるのぉ?」


小さな穴に向かって問い掛ける俺。

穴は、俺なら入れる大きさなのだが、中に何がいるのか分からないので、いきなり潜ることはやめておいた。

 すると……


「その声……、まさかモッモ? モッモなの!?」


聞き覚えのある、この声は!?


「ポポ!? 僕だよ! モッモだよっ!!」


 俺は穴に向かって叫んだ。

 そして……


「モッ!? モッモ~!!!」


テトーンの樹の根元の穴から、ダッチュ族の子ども、ポポが飛び出してきた。

泣き腫らした顔はパンパンで、鼻からは大量の鼻水を垂らしている。


「ポポ!? 良かった無事で! 怪我とかしてない!!?」


グレコの優しい問い掛けに、ポポは涙でグチャグチャになった顔を手で擦りながら、何度も頷く。


うん、無事で良かった。

 あの村の惨状からして、最悪の結末を想像していたから、本当に無事で良かった!

……けどポポ、先に鼻水しまおうか?

 涙はいいけど、鼻水はとても汚いよ。


「ポポよ、いったい何があったのだ?」


ポポが話し易いようにと、膝を曲げ、ポポと同じ目線になるギンロ。


「それが……、実は……、あたい、モッモ達が旅立った後で、また生贄に出されたの。でも、今度はおっかぁが助けに来てくれたんだ。それで、おっかぁが、里には連れて戻れないから、しばらくここに隠れていなさいって言って……。そしたら急に、沢山の魔物が攻めてきたの。あたい、怖くて怖くて……、この穴の中にずっといたの。外では怖い音がいっぱいして、それから急に静かになって……」


 カタカタと小刻みに震えながら、一生懸命に説明するポポ。


「また生贄にって、どういう事……? まさかダッチュ族達は、ギンロが倒した魔物が森の主では無いと気付いていたのかしら?? だとしたら、何故あんな風に、もてなしてくれたの……???」


 口元に手を当てながら、ぶつぶつと疑問を口にするグレコ。


 確かにそうだ。

 めちゃくちゃ質素だったし、なんなら無い方が良かったくらいの宴会だったけど……、彼らは俺達に、感謝の意を表していたはず。

 なのにまた、ポポを生贄になんて……?

 まさかと思うけど、全部気付いていた上で、俺達の扱いに困って渋々そうしていた……、とかなのか??

 ギンロが、おっかなく見えたから……???


「ポポよ、魔物が攻めてきたというのは、いつの事だ?」


 ギンロが、優しくポポに問い掛ける。


「昨日の夜だよ。外は真っ暗で……、あたいら、あんまり目が良くないんだ。だからきっと、みんな、逃げられなかったんだよ。怖いけど、ちょっとだけ外を見た時に、魔物がみんなを囲んで、歩いて行くのが見えたの。みんな……、うぅっ、みんな、あいつらに連れてかれちゃったのかなぁ?」


 ポロポロと涙を溢すポポ。


「魔物とは、先日、我が倒したあの鎌手の魔物と同様のものか?」


「たぶん、そうだと思う……。けど、森の主は倒したはずなのに、どうしてあんなに沢山いたの? どうして、あたいらのこと襲ったの?? やっぱり、あたいが生贄にならなくちゃいけなかったんだ……、あたいが全部悪いんだよぉ~! わぁあぁ~ん!!」


 わんわんと、泣きじゃくるポポ。

ポポの言葉に、グレコもギンロも黙り込む。


……いやいや、二人とも、そこは違うって言ってあげなきゃでしょ?

 ポポのせいじゃないよって、言ってあげてよほら??


「すまない。我が里の風習を知らぬまま、安易に手を貸したばかりに、こんな事になろうとは……」


項垂れるギンロ。


……いやいや、ポポの命を救ったんだから、ギンロの行いは間違ってなかったでしょ?

 反省するところ、違くない??


「世の中は弱肉強食だしね……。強い者が弱い者を食べる、その理は変えられないわ」


達観したように語るグレコ。


……いやいやいや、いやいやグレコさん、今はそれ言っちゃ駄目よ。

 ダッチュ族は弱いから食われて当然、っていう風に聞こえちゃうよ?

 そうじゃ無いでしょうよ。


 泣き続けるポポ。

 沈黙するギンロとグレコ。

 この場の重い空気に、俺は居た堪れなくなって……


「と……、とにかくさっ! ポポは無事だったんだから、良かったじゃない!? ねっ!!?」


 無理くり、明るい声を出してみる俺。

 しかし……


シーーーーーーーーン


誰も俺の言葉に賛同してくれないっ!

 賛同してくれないだけじゃなく、三人とも、目も合わせてくれないし、言葉を返してもくれないっ!!

 ねぇ誰か、何か言ってよっ!!!


 俺は、三人の言動、その態度が、どうにもこうにも納得出来ず、更には昨日から歩きっぱなしで、心身共にかなり疲れている事も手伝って、珍しく苛立ってしまう。

 そして、自分でも知らず知らずのうちに、両手の拳をギュッと強く握り締めていた。

 

なんで? どうして??

 みんな、おかしくないっ!?!?


 イライラがMAXになった俺は、感情のままに叫んだ。


「なんでっ!? なんで三人とも、そんななのっ!?? おかしいよっ!?!? てかさポポ! ポポが生贄になる必要なんて、元々なかったんだからねっ!! 魔物が襲ってくるんなら、こんな里捨てて、どっか別の森にみんなで移住すりゃ良かったんだからっ!!! それにギンロも! ポポの命を救ったんだから、それを悔やまないでよ!! そんな、子どもを生贄にする里の風習なんて糞くらえだよっ!!! それにそれにグレコ! 弱肉強食とか言うけどさ、僕は最弱のピグモルだよ!? だけどグレコは助けてくれるじゃないっ!?? 弱者は肉になるんじゃないっ!!!! 弱いなりに考えて、必死に生きてるんだよっ!!!!!」


 大声で、三人に説教するが如く、今思っている事を一気にぶちまけた俺は、軽い息切れを起こしてしまい、ハァハァと肩で息をする。

そんな俺の様子に、ポカンとする三人。


あ……、あぁ、しまったぁ~。

 珍しくヒートアップしてしまった……


 冷静になった俺は、スーッと深く息を吸って、呼吸を整える。


「ま……、まぁあれだよ、うん……。まだ、手遅れって決まったわけじゃないしさ、そんなに落ち込まなくても……、ねっ?」


 ちょっと無理があるかもだけど、そう言ってみる俺。

 里は全壊、辺りは血だらけで、ポポ以外は誰も残ってない。

 希望など、無いに等しいが……


「そうね! まだみんな喰われたとは限らないわっ!! 生きてるかも知れない……。今から追えば間に合うかも!!!」


おっ!? そうだよグレコ!

 その意気だっ!!


「確かに……。村は荒らされ、血痕も残ってはいたが……、食殺が目的であれば、この場で食らうはず……。うむ、皆はまだ無事やも知れぬな。ならば、助けねば!」


おおっ!? そうだよギンロ!

 君がいれば、必ずみんなを救えるよっ!!


「ありがとうモッモ! あたいも、モッモと一緒に行くよっ!! みんなを救いに行くっ!!!」


やめろポポ! お前は残れっ!!

 完全なる足手まといだっ!!!


……って、え? あれ??

 と、いうことは???


「行きましょ、モッモ! 東にある、巨虫の根城へ!!」


「今度こそ、我らの力で、ダッチュ族の自由を勝ち取ろうぞ! モッモ!!」


うっ!?!?


 あぁ……、やっべぇ~。

そうだよな、そうなるよな?

やっぱり俺も、行かなきゃ駄目だよな??

 俺が焚き付けたようなもんだしなぁ~、ははは~。

……けどさ、たぶん俺も、足手まといにしかならないよ???


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