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ep11:一緒に行かない?

「ここちょっと興味あったんだよね」

「ほんと?なら良かったよ」


 遥花と明澄香はベルスーズの練習施設に隣接している喫茶店ルーエを訪れていた。


「恋雪ちゃんも来れば良かったのに」

「仕方ないよ、予定があるらしいし」


 急に誘ったからしょうがない、と言いながらも明澄香は少し落ち込んだ様子を見せた。三人で女子会をしたかったらしい。


「明澄香ちゃんはここにはよく来るの?」

「週に一回くらいかな。勉強とかするのに丁度いいんだよね」


 静かで食べ物もあるから、と明澄香は言う。通信制の学校にしている遥花や恋雪と違って明澄香は全日制の学校に通っているらしい。


「すごいね、学校とベルスーズを両立してるんだ」

「……両立って言えるほど器用じゃないよ。勉強はあまり得意じゃないし、時間があったら演技に打ち込みたい。結局は見た目だけさ」


 明澄香はアイスコーヒーを一口飲んでそう語る。それに対して遥花は何も言えなかった。何も言うべきではないと直感が言っていたから。


「ごめんね、暗くしちゃって。話を変えようか」

「全然、そんなことは……。じゃ、じゃあさ、ここの店のおすすめ商品教えてよ」


 小腹空いててさ、と遥花はメニューを開いて見る。喫茶店と言ってもここには飲み物以外の食べ物もかなりの種類が置いてある。


 唐揚げやポテト、ピザすらも置いてあるのだ。特におつまみのようなものが魅力的で遥花の食欲を掻き立てていた。


「結構しっかり食べたい?それとも一品つまむくらい?」

「一品くらいかな。夕飯は食べられるようにしときたいし」


 「だったら……」と明澄香が遥花の開くメニューを覗く。各テーブルに一つしか置いていないので仕方がないが、美人さんに近づかれて遥花は少し緊張していた。


「この、カラポテっていうのもオススメだよ」


 明澄香が指さしたのは唐揚げ四つとポテトがセットのメニューだった。値段は七百円。喫茶店らしい値段だな、とクリームソーダを飲みながら遥花は思う。


「明澄香ちゃんも食べる?」

「んー、じゃあ半分こしよっか」


 もちろん、割り勘で。そう決めた二人は店員呼び出しボタンを押した。


◇◇◇


「お待たせしました。こちら、カラポテになります」


 ありがとうございますと感謝を伝え、カラポテを受け取ろうとした明澄香が一つ、変なことに気がついた。


「唐揚げ……六個ある」

「あっ、本当だ」


 遥花も確認して、たしかにメニューと違うことに気がつく。それを言おうかと明澄香は悩んでいると……。


「店長が「いつもありがとうございます」そう伝えてくれと言っていました。失礼します」


 明澄香にそう伝えた店員は二人に頭を下げて厨房に戻っていく。それを眺めていた遥花と明澄香は互いに見合い、笑い声が漏れる。


◇◇◇


「遥花ってさ、何でこの業界に戻ってきたの?」

「……え?」


 唐揚げを美味しくつまんでいたところに急にぶっ込まれたものなので遥花は反応が遅れた。ただ、それを明澄香は勘違いしてしまったようで少し慌てる。


「ち、違うんだよ!?遥花が戻ってくるのが嫌とかじゃなくて、辛くなかったのかなって」

「……辛いよ」

「そう……なんだ」


 明澄香のポテトをつまむ手が止まる。自分から聞き出しといて気まずくしてしまったと反省していた。


「辛いけどさ、それを乗り越えなきゃって、『小柳遥花』を取り戻さなきゃって。そう思えば頑張れるから──」

「遥花は『小柳遥花』に戻りたいの?」

「え……」


 改めてそう突きつけられるとバカ正直に頷けなかった。ここ数日で聞いた『小柳遥花』の話。あれは明らかに好かれている人間の話ではなかった。記憶が戻ったら自分はあの話のような人間になるのかもしれない。人と関わらずに才能で他人を潰していく人間になるのかもしれない。どこかでそう思っていた。


 怖かったんだ。


「どう……だろう。今までずっと記憶を取り戻したいって思ってたけど……わかんない。記憶を取り戻さない方がみんなから受け入れられるかもしれない。恋雪ちゃんや夜鷹の期待は裏切るかもだけど……そっちの方がいいのかなって──」

()()()どうしたいか聞いてるんだけど」


 そう言われてハッとした。今まで自分が『小柳遥花』になりたいと願っていたのは他人のためだったと、自分のためじゃなかったと。


「今のままで……演技していたい」

「遥花、それが君の本音だよ」


 明澄香は遥花の隣に座り、俯いて泣き声を堪える遥花をそっと抱きしめた。


◇◇◇


「そういえばさ、遥花は記憶失ってから舞台とか見に行ったことはあるの?」


 遥花が少し落ち着くと明澄香は話題転換として遥花に話しかけた。


「いや、動画で見たくらいかな」


 どこで何やってるかわからないし、と遥花は言う。遥花自身、自由に時間が取れるわけではないので本当にタイミングがないのだ。


 そんな遥花に明澄香はスマホの画面を見せた。


「次の土曜日にさ、近場で2.5次元の演劇やるんだよ」

「へぇ、面白そう」


 明澄香のスマホに映っていた作品は内容は知らないが、名前は聞いた事あるような有名な作品だった。


「ならさ──」



【ep11:一緒に行かない?】


 

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