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75 黒い魔族レヴス


「てめぇ……」


 ニティアを斬られ、仲間を落とされ、怒り心頭のフィニスにレヴスが茶化すように笑う。


『さっきのお仲間さんの中に僧侶がおったやろ?別に嬢ちゃんを真っ二つにしたわけとちゃうし、すぐ回復すれば助かるんちゃうかな?』


 少しだけ距離を取るレヴス。


『それにうちは、あんな嬢ちゃんに気を取られとるキミとちゃう。本気のキミと戦いたいねん。そんな頭に血登っとったら見えるもんも見えななるで?もっと楽しもうや♪』


 レヴスの言葉も一理ある。ニティアもジャヌスに言われていたことだ。


"今一度落ち着く"


 今はアルテアを信じるしかない。フィニスは大きく深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。


「ふぅ〜……」

『お、それやそれや。今はうちに集中し!』

「あぁ。分かった……おかげでさっきの目の前から消えたトリックもわかったよ」


 その言葉ににっこりと笑うレヴス。そして、ゆっくりと大鎌の刃に指を添えた。


「ピンポイントで足場を作って、蹴り上げることで急な方向転換をしたんだろ?」

『せやで♪イライラしとってもええことないやろ?』


 刃に添えた指をつーっと刃先までなぞるレヴス。


『うちはもう一つ魔法を隠してん。何度も言うが、ギースみたいに斬撃を飛ばしたり、ガノスみたいな大層な魔法じゃあらへんで?』

「また陽動か?」

『ちゃうちゃう!確かに誤解されるような言い方はしとるかもしれんが、嘘はついとらんやろ(笑)。フィニス君と真剣勝負がしたいねん』

「……俺も、片方の剣に魔法を宿してる。お前と同じ、斬撃を飛ばしたり、大規模な魔法なんかじゃない」

『お!ええやん!同じ条件やな!』

「おまえ……ムカつくけど変わってんな」

『よぉ言われてましたわ(笑)』


 2人が武器を構える。


ジリっ……


 少しずつ互いの距離を縮める2人。


『ほな、いきまっか!』


 先にレヴスが動いた。フィニスが両方の剣を構え、じっと相手を凝視する。


ゆらぁ……


「?」


 微かにレヴスの大鎌の持ち手が歪むのが見えた。


(殺す気なら殺せたニティアに対しても、あいつの言う通り斬っただけで切断はしなかった……確かにあいつは今まで嘘はついてない……)


 片方の剣に意識を集中させるフィニス。


(武器の間合いを伸ばす?いや違う……だとしたらもっと早く武器を振りかぶるはず。俺と同じ切れ味を増加させる……?だったらこっちも受けてやる!)


 レヴスの大鎌を受け止めようと剣を構え、受けに徹しようとレヴスを見る。

 しかし、今まで振りかぶってきた間合いに入っても、まだ鎌を振りかぶってこない。


(違う!って事は……!!)


 ワンテンポ遅らせたタイミングでレヴスが武器を振りかぶる。


『チェックメイトや!』


ガキーン!


『なっ!?』


 レヴスの持っている"剣"を、一歩前進する事で間合いを詰め、魔法を宿していない方の剣で受け止めたフィニス。


「やっぱり、武器の形態変化だったか」


 もう片方の剣に力を込めるフィニス。


「チェックメイトだぜ!」


キィーーーーン!


『フィニス君、やっぱキミやるやんけ♪』


パキーン!


 フィニスの振動する剣によって、胸元にあるレヴスのコアが身体ごと貫かれていた。


ゴォー……


 黒い炎によって身体が崩れ始めるレヴスを見ながら、ふと我に返ったフィニスが、崩落した床穴の方へ視線を送る。


「ニティア!!」

「呼んだ?」

「……え?」


 ふわりふわりとゆっくり天井から降りてくるニティア。


「え?お前……ん?なんで??」

「は?!ちょっとやめなさいよ!!」


 ニティアの両肩を持ち、くるりと身体を反転。背中や腰をペタペタと触るフィニスに、ニティアは顔を赤らめながら、杖でフィニスの頭を叩いた。


「いたっ!!」

「何やってんのよもう……」

「だってお前……背中!!」


 黒い炎に包まれているレヴスを指差すニティア。


「こいつに捕まった時、こいつと私が話をしてたでしょ?」



『今嬢ちゃんと話をするんや。フィニス君は大人しく待っとき』


 首に鎌を押し当てられているニティア。


「で……話って何よ」

『嬢ちゃん、これうちが巻き上げた砂とあんたの水で作ったデコイやろ?本体は今うちの斜め上。魔力で光の屈折率を操作して隠れとる。ちゃうか?』

「?!」


 驚くニティア。


『ようそんな器用なことできんなぁ(笑)ひとつ……頼みを聞いてくれんか?』

「……なに」

『正直な、うちもうしんどいねん。ノクス様もおらん。10人いた仲間の魔族も、他の人間や白髪の魔女にやられてもうて、4人しか残らんかったのに……』

「……」

『それもおたくらにやられてもうて……残るはうちだけやん?』

「それは知らないけど……」

『せやから最後に、あのフィニス君と真剣勝負させてくれへん?』

「あんたの言うことを素直に聞く必要ある?」


 後ろからレヴスの笑う声が聞こえた。


『そら無いわな(笑)せやから、フィニス君が負けそう思ったら上からうちを撃ち抜いてくれてかまへん』

「……なんでそこまでして?」

『白髪の魔女についても、おたくらに託した方が可能性高いやん(笑)』

「……あんた、変わってるわね」

『うちは最後に楽しく戦いたいだけやし♪』

「……分かったわ」

『ほな、交渉決裂やな♪』


 レヴスがそう言うと、目の前のニティアの背中を切り裂いた。



「……ってことがあったわけ」


 燃え崩れていくレヴスを眺める2人。


『嬢ちゃん……ネタバレはしらけるで……』

「……」

『うちに勝ったんや……せめて白髪の魔女の作った魔族くらいは楽に倒してもらわんと、うちも浮かばれんで……』


 そう言い残し、ふっと笑ったレヴスは黒煙に包まれ大きく崩れていってしまった。


「あいつはここに来た調査隊や採掘者達を殺してるわよ」

「分かってる……」


 今まで魔族から感じたことのなかった"人間性"に、複雑な心境になる2人。

 一度大きくため息をついた後、フィニスがニティアにデコピンをする。


ペチン


「いたっ!なにすんのよ!」

「無事だったんなら無事だったって言えよ……」

「……ごめん。でも、あいつの口車に乗ったフリをして、上から隙を狙っていたのよ……それに、あいつの言う通り、私が無事だって知ったら、またフィニスの意識が私の方に向いちゃうかなって……」

「はぁ……」

「だからごめんって!」


ビョォーーーー!!


『私のいない間に何フィニスといちゃついてんのよ!』

「「!?」」


 はっと声のする方を振り向くと、床の崩れた穴からもの凄い風により押し上げられている3人とゼフィリアの姿があった。


「ふぅ……死ぬかと思った……」

「モラティが下で土のクッションを作ってくれてて助かったね」

「あ、やっぱりニティアさん無事だったんですね」

『ふん!あんたらは私がいないとホントダメダメよね!』


 一気に賑やかになる空間。そして全員の無事を確認でき、フィニスの肩の力が一気に抜け、両手に持つ剣が床へ落下した。


カランカラン!


「フィニスさん!肩から血が!」


 フィニスに駆け寄り、治療を始めるアルテア。フィニスの隣で小さな残骸を燃やしている黒炎を眺めながら、ルシオもフィニスの元へ歩いてくる。


「やったんだな」

「あぁ……」

「全く……無茶しやがって……」

「なぁルシオ……」

「ん?」


 床に落ちた一つの剣を拾うフィニス。


「こっちには回復魔法を入れることにするよ……」


 チラッとニティアを見るルシオ。


"アルテア!ニティアの回復を早く!"


 落下直前のフィニスの言葉を思い出して、ふっと笑うルシオ。


「まぁ、なんでニティアが無事なのか……いつ上に上がってきたのかは分からんけど、お前がいいならそれもいいんじゃね(笑)」


 その言葉を聞き、え?と言った表情でルシオを見るアルテア。


「何を言っているんですか?」

「え?何が?」

「ニティアさんずっと上にいましたよ?」

「え?倒れてたし、一緒に落ちたよね?」

「え?」

「もう説明するのが面倒になってきたわ……」


 そう言い、頭を抱えるニティアと、それを見て小さく笑うフィニス。

 チラリと横に視線を送ると、黒い炎がレヴスの全てを燃やし尽くし、黒炎諸共跡形もなくその場から消えてしまった。

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