7 ここから先へは行かせない
7 この先へは行かせない
「……白い炎、ですか」
テーブルを囲っている3人。ニティアとフィニスが魔族の消滅時に見た白い炎の話を、ジャヌスにしていた。
「そうなんです。しかも狼の魔物の群れ全員が白い炎を纏って消滅していました」
「普通、魔物を倒したら黒い炎で消えるはずだよな?」
顎に手を当てて、少しの間考えるジャヌス。考えをまとめながら、ゆっくりと口を開いた。
「ええ。少なくとも、私が倒してきた魔物や魔族は皆、黒炎を纏って消滅していましたが……」
顎に当てていた手をカップに移し、紅茶を飲みながら話を続けた。
「はるか昔には、紅い炎や灰色の炎で消えていた……という文献を見たこともあります」
その言葉に大きく目を見開いたフィニス。紅い炎や灰色の炎……
「その色って……魔女……?」
それを聞いて驚くニティア。
「え……!?ってことは?!」
「もしかしたら魔女の魔力……属性等にも関係があるのかもしれませんが……。今の魔女……言わば黒い魔女が倒されたと言う話を聞いたことはありませんし、白い魔女は歴史上存在したことはないはずです」
それを聞いたフィニスが立ち上がり、ジャヌスに身体を向けた。
「でも先生!昔も言ったことあるけど、俺が見たことあるのは……」
「フィニス、それは多分気のせいですよ。私が見たことある今の魔女は黒髪の魔女ですから」
「……?」
黙り込んで座るフィニスと、首を傾げるニティア。少しの間部屋中に鳥の囀りが響き渡る。
「ふむ……少し調べておきます。お二人はあまり気にしないで下さい」
ゆっくり立ち上がるジャヌス。
「今から、少し王都の文献を調べてきます。しばらく留守になると思いますので、戸締りはしっかりしてくださいね」
そう言って部屋から出ていってしまった。
「そう言われても……気になるわよね」
チラッとフィニスを見るニティア。しかしフィニスは何か思うところがあるのか、俯いたまま黙っている。
小さくため息をついたニティアは、首元にあるネックレスを一度握りしめて、ゆっくり立ち上がる。
「ま、とりあえず私は術式の研究でもしてるね♪」
あえて明るく振る舞うニティア。それにフィニスも気づいたのだろう、ゆっくり立ち上がった。
「それじゃ、俺も村に買い出しにでも行ってくるかな」
「あ、一緒に行こうか?飛んでいけば楽でしょ」
「いや、大丈夫。すぐ帰ってくるよ」
「あ、そう?」
そう言って部屋を後にするフィニスであった。
⸻
「お、フィニス!今日は1人かい?」
「フィニス、ちょっとこれ運んでくれないかい?腰がもう痛くてねぇ」
「少しおまけしてやったから、今日はいいもん食いなよ!」
「フィニス兄ちゃん!今度また型を教えて!」
村のいく先々で、会う人会う人に声をかけられるフィニス。5分で終わる買い出しに、気付けば小一時間村に滞在していた。
そんな中……
「最近夜になると変な声が聞こえてねぇ……だんだん近づいてきてる感じもするし、家畜も怯えちまってるんだよ」
酪農家のおばちゃんから気になる話を聞くフィニス。昨日魔物を見ていた手前、もしこれが魔物だった場合、村に余計な被害が出るかもしれない。
「ふーん。少し様子見てくるから、これ預かっといて」
先ほど買った物をおばちゃんの家に置いたフィニスは、村から離れ、声のすると言われた方向へ歩いていった。
⸻
注意深く周りを見ながら、薄暗い林道を歩くフィニス。
(話を聞く限りだと……この辺りか?)
いつでも剣を抜けるよう、心の準備だけしながら、足音を消して歩く。
しばらく歩いていると、不自然に地面が抉られた跡や、木々が薙ぎ倒されている場所があった。
「なんだ……これは……」
そう小さく呟いた瞬間、目の前の大木の前にボロボロのフードを被った人が座り込んでいるのが見えた。
「おい!大丈夫か!?」
声を出して近づこうとした瞬間、その人物が片腕をフィニスの方へ向ける。
ゾクッ
今まで感じたことのない殺気に、無意識に身体を捻るフィニス。次の瞬間、黒い稲妻がフィニスの頬を掠めていた。
「っぶね!」
『ほぅ……避けたか……』
目の前の人物がフードを外す。人間の男性のように見えるが……胸元にはコアが。
「……魔族!?」
魔法が掠めた頬を、汗が流れる。予想を遥かに超える最悪の事態に、剣を握りしめたまま、フィニスはゆっくりと後退りをした。
それを見た目の前の魔族がニヤリと笑う。
『小僧。この辺りに魔力の高いニンゲンがいるだろう。そいつの居場所を教えろ』
後退りしていた足がピタッと止まった。
『そうすれば……まぁ、命くらいなら助けてやらんこともない』
フィニスは握った剣の力を抜き、だらんと剣先を下に向けた。
「ほんとか……そいつなら……」
次の瞬間、間合いを一気に縮めたフィニスは、魔族のコア目掛けて斬撃を繰り出していた。
『……!!』
あまりの速さに魔法を出す暇もなく、手に持った杖でフィニスの剣を弾き返した。
「ちっ……流石にそう甘くはねぇか」
後ろに飛んだフィニスを睨みつける魔族。
『キサマ……』
「あいつの居場所?そんなの言うわけねーだろ!」
剣を持つ手が微かに震えている。フィニスは大きく深呼吸をし、赤いネックレスをした人物の顔を思い浮かべる。
震えが止まった。
「ここを通りたければ、俺を殺してから行くんだな!」
笑みを浮かべたフィニスは、剣先を相手のコアに向ける。
『面白い……』
再びニヤリと笑う魔族。
フィニスの持つ剣先が、陽の光に照らされてわずかに白く輝いていた。
⸻
トン……
トン……
机の上に置いてあるネックレスのすぐ横を、指で鳴らすニティア。
トン……
トン……
「たまには凝ったご飯でも作ってやるか……」
ニティアは机の上のネックレスを首に掛け直し、鼻歌を歌いながら台所へと向かっていった。




