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64 幼い王女と2人の侍女


 玉座の前。


 かつてニティアに教えてもらった作法で片膝をついて頭を下げるフィニス。それに倣い、それぞれが同じように頭を下げた。


「へぇ〜ずいぶん様になってるじゃん」


 笑いながら小さく呟くニティアに、うるせーと小声で返すフィニス。


「わざわざ頭など下げずとも良い。気にせず気楽にすると良い」


 そう言われ、ゆっくりと頭を上げるフィニス達。しかし、目の前の玉座に座る人物を見て、一同が目を大きく見開く。


「え?」

「マジか」

「先日の魔族襲撃の際に、王や他の継承者達が皆やられてしまってな……」


 ニティアよりも遥かに幼く……


「あら可愛い……」

「えぇ……」

「……?」

「妾は亡くなった先代の王の代12王女、ティアシャじゃ。皆の者、遠路はるばるよく来たな」


 小さな女の子が玉座に座りながらにっこりと笑っていた。


「えっと……その……」


 何から話して良いのか分からずに混乱するルシオ。その様子を見てか、ティアシャの両隣に立っている女性。おそらく侍女であろう。そのうちの1人、長身の赤色長髪の侍女が口を開いた。


「玉座に座っている人間がまさかのロリっ子。それだけでもキャラが強いのに、さらに古臭い言葉遣いまで……何だこいつ……と言った感じで皆様が困惑していますよティアシャ様」

「んなっ!!」


 もう片方。ティアシャに負けないくらい幼く見える小さな黒髪の侍女が続けて口を開く。


「こんな喋り方でも、王としての学やこの国を良くしたいって言う想いは誰にも負けないっス。と言っても、ティアシャ様以外の王位継承者はみんないなくなっちゃったんスけどね。なので、今はティアシャ様がこの国の王女として務めているっス」


 ロリっ子王女に、玉座の間に決して相応しいとは言えない砕けた感じの次女2人。

 一気に緊張感が抜けたフィニス達はゆっくりと身体を起こした。


「そうか……王女もいきなり大変だったんだな……」

「……!?」


 一気に砕けた口調になったフィニスに、砕けすぎだろ!と心の中でツッコミを入れたルシオが焦って周りを見渡す。


ギロリ


 周りの兵士達が一斉にフィニスを睨みつけていた。


「うむ!じゃが……今は自分にできることをやるしかあるまい。お主らもそうじゃろ?」


 ティアシャはタメ口で話しかけたフィニスをむしろ気に入ったのだろう。先ほどよりも嬉しそうな笑顔で言葉を返す。

 それを見た周りの兵士たちの視線もフィニスから外れていった。打首や投獄の心配はなさそうで小さなため息をつくルシオ。


「お初お目にかかれて光栄です王女様。今回我々は……」

「難しい話は後じゃ」


 ルシオの言葉を遮るティアシャ。


「主らも長旅で疲れておろう?詳しい話はまた後で聞く。今日はゆっくりと休むといい。おい」


 そう言って長髪の次女の方を向くティアシャ。


「カエデ。この者たちを客室へ」

「ちっ……面倒臭い。かしこまりました」

「スズ。お主は宴の準備じゃ」


 今度は反対側に立つ小さい侍女の方へ視線を送るティアシャ。


「了解っス!」

「あ、いえ、そこまでして頂かなくても私たちは大丈夫……」


 ルシオがそう言いかけた時には、その場から既にスズはいなくなっていた。


「気にするでない。先の戦争……あれは其方らの国を挑発し続けていた我が国にも責任がある。多くの国民や兵達は知らぬだろうがな……それに、魔女を撃退してくれた英雄じゃ。歓迎するに越したことはあるまい」


 そう言って無邪気に笑うティアシャ。その言葉をきき、ふと笑みが溢れるフィニス達の元へ、カエデがゆっくり近づいてきた。


「どうぞこちらへ」


 カエデの後に続くフィニス達。ふと振り返ってティアシャを見ると、無邪気な笑顔のまま、小さく手を振り続けていた。



「少し……壁にヒビが入っていたりしますが、気にしないでください。ここが1番マシな客室なので」


 案内された客室は天井も高くとても広い……が、中の設備はと言うと、少しだけ大きなベッドがいくつか並べられて、質素なテーブルや椅子が置かれているだけ。そして壁には所々ヒビも入っている。

 先日の魔族襲来の影響なのだろう。民間の宿泊施設としてならば全く問題はないが、正直、城の客室とは言えない部屋であった。


「久々にベッドで寝られる……」


 早速ベッドにダイブするエラリス。それを見てふと笑ったアルテアが、カエデに視線を向けた。


「この部屋にまで魔族の影響が……大変でしたね」


 カエデは視線だけをアルテアに移して答えた。


「魔族とは関係ないですよ。この部屋はただ単に、修繕や整備などがされず、備品も最低限のものしかあてがわれなかっただけです。まぁ、全部先代のクソ野郎が自分の私利私欲の為にしか出資しなかっただけなんですけどね」


 その言葉に、少しだけ疑問を浮かべるルシオ。


「ひとつ聞いていいか?」

「私で答えられる範囲であれば」

「他の王位継承者は皆やられたと……確かスズが言っていたけど、そのやられてしまった継承者達は、どんな人たちだったんだ?」


 その言葉を発した瞬間、空気が一変。焼け付くような暑さが部屋を覆っており、カエデの目つきが変わったのがわかった。


「醜い継承権争い。ティアシャ様への悪態。国民ではなく、自分たちのことしか考えていない……そんなクソばっかの人たちでしたよ」


 そう言い残し、空気が元に戻ると同時にカエデは部屋から出ていってしまった。


「すごい激しい魔力の波長」

「ルシオ、何であんなこと聞いたの?」


 カエデの気配が無くなったことを確認した後、ニティアがルシオに尋ねる。


「気にならなかったのか?俺たちの国と同じなんだよ」

「なにがだよ」


 小さなソファーに腰を下ろすフィニス。


「言い方が悪いけどな。国にとって都合のいい人間が殺されてるって事だ。まぁ、まだ侍女の話しか聞いてないから分からないけどな」

「確かに……あんなに可愛くて幼……小さな女の子が王女を名乗っているにも関わらず、見た感じ平穏そうでしたしね」

「そりゃそうだろうよ」


 フィニスがソファーで項垂れながら続ける。


「あんな幼い子が、自分の国にも非があるって認めて、その国から来た人間をあんな無邪気な笑顔で迎え入れてくれるんだぜ?」

「……」

「小さくても分かっているんだろ。何が国にとって良いことなのかとか含めてさ」

「すごいね」


 ニティアがぽつりとつぶやいた瞬間……


ぎゅるぎゅる〜……


 ベッドの上で転がっているエラリスの腹の虫が鳴いた。


「お腹すいた……」


 そう呟くエラリスを見た4人がくすりと笑う。


コンコン


「失礼するっス!」


 扉の向こうからは、食事の準備をしていたスズの声。


「ちょうど良かったじゃん(笑)」


 笑いながらエラリスを見るフィニス。


ガチャっ


「今料理長に宴をやる旨を伝えて来たっス!城前の広場で国民も自由に参加出来る盛大な宴会をすることになったので、2時間後に広場まで来て欲しいっス!」


 その言葉を聞いてぷっと吹き出すフィニス。


「だってさ」


 そう言い、エラリスの方を見るフィニス。


「2時間……待てない……死ぬ……」

「宴の準備を頼まれていたから、てっきりスズが料理をしてるのかと思ったよ」


 ルシオにそう言われ、一瞬だけキョトンしたが……


「自分料理できないっス!」


 そう言い、親指をルシオに向けるスズ。そして次の瞬間……


スッ


 目の前にいたスズの姿は消えていた。


「……消えた……?」

「さっきの玉座の時もそうだったけど……急に消えたわよね……あの子……」

「カエデさんのあの魔力もそうでしたけど……」

「王女の侍女とだけあって、2人とも只者ではなさそうだな(笑)」


 そう言い、ベッドで横になるフィニス。その数秒後には小さないびきをかいてすやすやと眠っていた。

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