第6話「消えない影」
春は目を閉じると、いつの間にか、人通りの多い簡素な街で、母親と遊んでいた頃の記憶の中にいた。
「かくれんぼ、数えるよ」と母の声が響く。春は小さな部屋の隅に隠れながら、まだ見つからない母の気配を探した。
周りには人が行き交う街並みがあり、夏の光が建物の隙間から差し込む。子どもの頃の記憶なのに、周囲の人々は現実と同じように動いている。春は胸の奥がざわつき、目の前の景色が夢なのか現実なのか判断がつかなくなった。
春はゆっくりと声をあげる。「どこに隠れたんだ……」
しかし返事はない。母の声は、遠くの風に溶けたように届かない。春の胸の中に、幼いころの孤独感が再び芽生える。
「簡単に見つけられると思ったのに……」
春は手を伸ばし、光に触れようとするが、届かない。足元には影がちらつき、まるで母がすぐそこにいるのに、捕まえられないようなもどかしさが襲う。
夢の中の街を歩く春の足は次第に重くなり、景色は次第に歪んでいった。
人々の顔は徐々に無表情になり、行き交う足音だけが響く。春は立ち止まり、目を閉じて耳を澄ませる。
「……母さん?」
呼びかける声は震えていた。母の姿は見えないが、確かにあのやわらかい手触りと、微かな匂いが空気に漂っている気がした。
春は走り出す。路地を曲がり、角を曲がり、必死に母を探す。だが、視界の隅にちらつく影は、どれも母ではない。焦る心臓を抑え、春はもう一度深呼吸した。
ふと、通りの先に小さな公園が見えた。砂場に母の笑顔が浮かぶような気がして、春は駆け寄る。しかし、そこには誰もいなかった。砂場の砂が風に舞い上がり、春の頬に当たる。
「どうして……どうして見つからないんだ……」
春の声は、街のざわめきにかき消される。涙が頬を伝い、止めどなくあふれた。夢の中で泣く春の姿は、現実よりも小さく、弱く見えた。
春は公園のベンチに座り、膝を抱えて小さく震えた。その時、空気が微かに揺れ、砂の中から光が差し込む。
「……春」
耳慣れた声ではない。けれど、その声は確かに母を思わせる優しさを帯びていた。春は顔を上げる。空は雲ひとつない青空だが、光の筋が彼の心に差し込み、胸が押し潰されそうになる。
「夢なんだ……」
春は涙を拭い、もう一度目を閉じた。母の手が、自分を包み込むような温かさを想像する。
しかし、手を伸ばしても空気を切るだけで、母は届かない。春は自分の無力さを痛感し、初めてこの夢が現実のように心を揺さぶることを理解した。
夢は、ただ母を見つけられない焦燥だけでなく、春の心の奥底に眠る不安を映し出していた。
「俺は……ずっと一人だったんだな」
自分の孤独を噛みしめ、春は初めて涙を声に変えて流した。泣きじゃくる声が、街のざわめきと混ざり、夢全体を揺らす。
その時、空間が揺れ、目の前の景色が白く滲み始めた。母の姿は最後まで現れなかったが、代わりに温かい光が春を包む。
「春……」
どこからかまるの声が聞こえる。春ははっと目を開けると、夢の中ではなく、真っ白の床にうつ伏せで倒れていた。額にまるの光線の温かさを感じる。夢の余韻が胸に残る。
春は深呼吸をし、立ち上がる。夢の中で母を見つけられなかった。
しかし、
モンスターの姿は消えていた。
まるの目をみる春、、「これからどうすればいいんだ?俺たち」
まるは答える「もう諦めて」
はるの背中はツーンと、汗ばんだ
と同時にこの真っ白の世界のはるか遠くで、とある男が彼らの姿を眺めていた
つづく




