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九龍  作者: 藤二井秋明
第二章 九龍城
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第九話


「目が覚めた? アン善礼イーリー

 女の声がして、俺は目を開けた。夕方の光だ。照明器具の見えない部屋に薄暗い日光が差していて、夕方だと分かった。

「ようこそ<城砦福利会>へ。安藤アンドウだと長いから安って呼ぶわね。アナタが持ってるそのIDは、一体誰から貰ったモノなのかしら?」

 俺は重たい身体を何とか起こした。そして頼んでもないのに俺の名を調べ上げ、既に調べているくせにIDの出所を質問してくるうざったい女の方を見た。

「……へえ」

 美女だ。この世に“世の中”なんてものが実在するなら、間違いなく“絶世”の美女だ。切れ長で吸い込まれるような力を宿す瞳に、存在感のある艶やかな唇。整っているが主張し過ぎない鼻。肩くらいまで伸びた濡烏の黒髪。白い肌。弦楽器のように響くのに、どこか心地良い涼やかな声。

「へえ、じゃなくて。答えて頂戴。そのIDは誰から受け取ったの?」

「<大福大楽>の店主から貰ったのさ。なんて説明したらいいか……ほら、九龍区の警察署の近くにある」

「なるほど。<大福大楽>の店主から」

 嘘はつかないほうが良い。ここで嘘をついて陳さんをかばったところで、このIDの出所は既に知られているのだ。この女は俺の個人情報ではなく、態度を見ているのだ。<城砦福利会>の中で、元警察署員の俺が取る態度を。

「どうしてここへ?」

「女の子を探しに来た。楊・冬という少女だ。“もう一度”詳しい説明をしてやろうか? 三年前、九龍署員が瓜豆に突入した際に保護した<孩子たち>の内の一人だ。ついこの間窃盗事件を起こしたってんで、探しに来た。どうだ? 楊・冬を知ってるか?」

「……ふふ。ご丁寧にどうもありがとう。でもその情報は知ってるわ。アナタも知ってることを知ってるんでしょう? ボスを呼んでくるからちょっと待ってて」

 そう言って、さっきまで俺を膝枕していた女が立ちあがると、今流行りの机機式メカニカル黒蘿莉ゴスロリを前面に押し出した服装をくるりと翻して、部屋の奥の方に歩いて行った。どうやら合格判定が出たらしい。しかしそのとき、彼女の後ろ半面は全く衣服を纏っておらず、滑らかな背中の肌と形の良い尻が丸出しになっていたので、俺は少しだけ香港のファッションに感謝した。

 ゴスロリファッションを前面に押し出し過ぎて、後ろが無くなってしまったのだろう。

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