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【五十一人目】 もう一度、結婚して下さいと言ったらダメですか?~婚約破棄をされた俺と君~

ブクマや評価などありがとうございます。

 俺は今日、婚約者にフラれた。

 彼女が言うには、俺と結婚しても幸せになれないんだってよ。


 彼女とは同棲をしていたが、俺はいつも家では彼女を無視していたみたいだ。

 自分ではそんなつもりはなかったのだが、彼女からしたら無視しているように感じたみたいだ。


 彼女から家を追い出され、部屋を借りなければならなかったが、今日はもう遅い。

 今日はホテルに泊まることにした。

 荷物は最小限にして、今度取りにいくと元婚約者には伝えた。


 ちょっと豪華なホテルに泊まった。


 まあ、婚約破棄をされて落ち込まない奴なんていない。

 俺だってそうなんだ。

 だから自分を慰める為に、良い部屋に泊まったんだ。


 ホテルにはラウンジがついていたので、少しお酒が飲みたくなった俺は、ラウンジに向かった。

 カウンターの一番端に座り、誰の目にもつかないようにひっそりとお酒を飲んだ。


「私に強いお酒をください」


 いきなり大きな声がして、俺はその相手を見てしまった。

 彼女は何処か悲しそうに見える。

 俺と同じで何か悲しいことがあったのだろうか?


 彼女はさっきの大きな声を出した後は、静かに一人でお酒を飲んでいた。

 強いお酒なのに顔色は変わっていない。

 彼女はお酒に強いのかもしれない。

 幼く可愛い顔をしていて、お酒が似合わない顔だ。


「婚約破棄って何よ?」


 彼女が小さな声で呟いたのが俺の耳に届いた。

 彼女も婚約破棄をされたのか?

 俺と同じなのか?


「婚約破棄は、結婚を約束していた人が、いきなり結婚できないと言って、なかったことになることを言うんだよ」


 俺はお酒を飲んでいたせいなのか、彼女に話し掛けていた。


「知っているわよ」


 俺は何故か、彼女に婚約破棄の説明をしていた。

 彼女は怒ったように返した。


「俺は、その婚約破棄を今日されたんだよ」

「えっ、あなたもなの?」


 彼女が驚きながら俺に言った。

 やっぱり彼女も婚約破棄の経験者なんだな。

 俺と同じだ。

 彼女に親近感を持った。


 それから俺達は、時間が過ぎるのも忘れて話をした。

 彼女の婚約破棄の理由を聞いたり、彼女の元婚約者の話を聞いたりして、その分俺も色々と話をした。


 彼女と話すのは楽しかった。


「ねぇ、またここで会ったら、婚約しようよ」

「婚約? まずはお付き合いが先じゃないのかな?」

「婚約してから、お付き合いをする形にすればいいでしょう? 結婚するのは何時でも大丈夫でしょう?」

「そうだね。婚約をするなら、プロポーズをしなければいけないよね?」

「そうよ。それで婚約破棄をされたことは無しにしなくちゃね」


 婚約破棄をされたことを、無しになんてできないが、彼女は忘れることはできると小さな声で呟いた。


「また今度、会った時には俺と結婚をして下さい」


「その答えは、今度あなたに会った時に返事をします」


 彼女はそう言って笑った。

 俺達は時間も日にちも決めなかった。

 ただ、次ここでまた会ったら結婚すると決めた。


 お酒のせいでそこまで頭が働かないところもあったが、俺は何故か時間も日にちも決める必要はないと思った。

 必ず彼女に会えると自信だけがあった。


 そして彼女とは別れ、俺は自分の部屋へ戻る。

 すごく良い気分で眠りについた。

 あんな可愛い子に出会えたんだから、良い気分なのは当たり前だ。


 次の日の頭は最悪に痛かった。

 二日酔いだ。

 痛い頭を我慢し、俺はホテルを後にした。


 あんな高いお店には毎日は行けないから、毎週彼女と出会った土曜の夜に顔を出した。

 しかし彼女には会えない。


 一ヶ月経っても会えない。

 土曜日の夜の他に、何度か行っても彼女には会えなかった。


 そこで俺は気がついた。

 彼女は酔った勢いで言っただけで本気じゃなかったのかもしれない。


 そっか。

 俺だけだったのか。

 こんなに彼女を待ち続けているのは。


 バカらしくなって、俺は足早にお店を後にした。

 もう、彼女のことなんて忘れようと思った。



 彼女と出会って半年が経った頃、久し振りに元婚約者から連絡がきた。


「元気にしてるの?」

「何? 俺達はもう、連絡なんてとる必要はないだろう?」

「そうね。でもあなたがいなくなって少し寂しくなったの」

「君が婚約破棄をしたんだよ? 俺にそんなことを言われても困るよ」

「でも、あなたは私に未練はないの?」

「未練なんて一切なかったよ」


 元婚約者は未練があるから電話をかけてきたのだろうか?


「男の人って、前の恋人のことをいつまでも忘れないって言うじゃない?」

「俺にはそんなことはなかったよ」

「好きな人でもできたの?」

「そんなのいないと思う」

「思うって何よ? 曖昧ね」

「今、好きになりかけた人を忘れようとしているからね」

「えっ、その人には未練があるの?」


 元婚約者に言われて、未練があることに気付いた。

 彼女に未練しかない。

 あんなに話をしていて楽しかったことはなかった。


「忘れられないのは未練だったのか、、、」

「どうして諦めるの?」

「えっ」

「諦める必要はあるの?」

「彼女にはもう会えないからね」

「彼女がそう言ったの? 会えないって?」

「えっ」

「あなたは、自分で何でも解決しようとするところがあるからね」


 元婚約者は俺よりも俺のことを知っているようだ。


「そうなのかもしれないな。もう少しだけ待ってみてもいいのかもな」

「いい考えね。彼女とうまくいくといいわね」

「そうだな。ありがとう」

「私こそ。ありがとう」

「俺、君に何かしたかな?」

「うん。私のことを恨んだりしていなくてありがとう」

「婚約破棄は俺が悪かったんだよ。君のことを考えてあげれていなかったんだ。今頃気付いても遅いよな? 本当にごめん」

「いいのよ。彼女には寂しい思いはさせないでね。私みたいに後悔させないでね」

「後悔?」

「……」


 いきなり元婚約者が黙った。

 後悔って、何に後悔しているのだろう?


「あっごめん。友達がきたから電話を切るね」

「えっ、あっ、分かったよ」

「じゃあね」

「うん、じゃあな」


 そして元婚約者の電話を切った。

 元婚約者が電話をしてきた理由は、寂しかっただけなのか?

 まあ、そう言っていたからそうなんだろう。

 それが元婚約者との最後の電話になった。


◇◇


 俺は今日もあのラウンジに足を運ぶ。

 カウンターの一番端に座って、彼女が来ることを願いながら待ち続ける。


「お客様。誰かをお待ちなんですか?」


 いきなりマスターに声をかけられた。


「はい。彼女と約束をしたので」

「女性ですか?」


 マスターは少し考えた後、思い出したかのように不思議な客の話を教えてくれた。

 それはまるで俺と同じで、誰かを待っている人の話だ。


 その人はいつも、お店が閉まるギリギリに来るそうだ。

 そして、またギリギリと言いながら、強いお酒を注文する。


 その女性は、カウンターの端から二番目に座り、いつも小さな声で独り言を言うそうだ。


「また婚約破棄されるの?」


 お店の入り口で大きな声を出して、あの日と変わらない可愛い彼女が俺にそう言った。

 やっぱり彼女だ。

 マスターが言っていた客の話は彼女だった。


「おいで」


 俺は彼女に向かって両手を広げた。

 彼女は嬉しそうに俺の元へ走ってくる。

 彼女は可愛い。

 すごく愛しい。


 彼女が俺の胸に飛び込んできたのを確認して、俺は彼女をギュッと抱き締めた。

 もう会えないままかと思ったって、彼女は言った。

 だから俺は彼女に、これからはずっと一緒だよと言う意味で、また彼女に二度目のプロポーズをするんだ。


「俺と結婚して下さい」

「はい喜んで」


 彼女は嬉しそうに俺を見上げて言った。

 彼女のことなんてほとんど知らない。

 だからこれから知ればいい。

 これから彼女を婚約者として知って、愛していけばいい。


 そんな婚約者も悪くない。

 こんなに可愛く笑って、嬉しそうにしている彼女に、婚約破棄なんて言葉は似合わない。

 俺は必ず彼女を奥さんにするんだと思う。


 だって俺達が出会ったこのラウンジの名前が、そう言っているから。


MARRIAGE(マリッジ)


 結婚と言う意味だから。

読んでいただき誠に、ありがとうございます。


次のお話は、姫と呼ばれる可愛くて優しい彼女と、目が細く狐のようにつり上がっている、嫌われ者の主人公の物語。

姫には好きな人がいる。

それは狐じゃない。

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